プレスリリース
(研究成果) 天敵昆虫タバコカスミカメの農薬登録完了

- 生物農薬として7月7日に販売開始 -

情報公開日:2021年6月29日 (火曜日)

農研機
(株)アグリ総
(株)アグリセクト

ポイント

天敵昆虫「タバコカスミカメ」が5月26日に農薬登録されました。キュウリやトマトなどの施設園芸で問題となる難防除害虫のアザミウマ類やコナジラミ類の防除に有効です。タバコカスミカメ剤は、7月7日に(株)アグリセクトから販売開始予定です。

概要

天敵昆虫タバコカスミカメは、キュウリやトマトなど多くの施設野菜で問題となっている、難防除害虫のアザミウマ類やコナジラミ類の防除に有効です。本種は日本に広く分布するため、野外で採集した個体を土着天敵として利用することも可能です。しかし、東日本では生息密度が低く、防除に利用できるほどの数を採集できません。また、他の虫との識別も簡単ではありません。そこで農研機構は全国の生産者の皆さんが簡単に本種を入手できるよう、(株)アグリ総研および5県の公設試と共同で製剤化しました。
タバコカスミカメ剤は、5月26日に農薬登録され、商品名「バコトップ」として(株)アグリセクトより2021年7月7日から販売予定です。
タバコカスミカメの地域別の利用マニュアルを、農研機構ホームページにて公開しています。

「化学合成殺虫剤を半減する新たなトマト地上部病害虫防除体系マニュアル」
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/129995.html

「施設キュウリとトマトにおけるIPMのためのタバコカスミカメ利用マニュアル(2015年版)」 https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/060741.html

※ 生物農薬とは、病害虫・雑草の防除に利用される微生物、天敵、寄生昆虫などを施用しやすく、かつ効力を発揮しやすいよう製剤化したものです。化学合成農薬に代わる防除資材として、「みどりの食料システム戦略」における化学農薬使用量(リスク換算)の低減に貢献します。また、有機農業にも活用可能です。

関連情報

農薬登録番号 : 農林水産省登録 第24524号
予算 : 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期「次世代農林水産業創造技術」(管理法人 : 農研機構生研支援センター)、農林水産省 新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業/農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業 「土着天敵タバコカスミカメの持続的密度管理によるウイルス媒介虫防除技術の開発・実証」(課題番号24017)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構植物防疫研究部門 所長 眞岡 哲夫
研究担当者 :
同 作物病害虫防除研究領域 長坂 幸吉
広報担当者 :
同 渉外チーム 野口 雅子

詳細情報

開発の社会的背景

化学合成農薬を削減し害虫防除を行うには、天敵昆虫類の利用を中心に防除体系を組み立てていく必要があります。コナジラミ類には数種の寄生蜂(ツヤコバチ類)が、アザミウマ類に対しては小型捕食性天敵(カブリダニ類、ヒメハナカメムシ類など)がすでに生物農薬として市販されていますが、これらの害虫によるウイルス病の媒介・蔓延を抑制するため、捕食能力が高く、定着性の良い新たな天敵が求められていました。

研究の経緯

タバコカスミカメは捕食能力、分散能力が高くコナジラミ類、アザミウマ類の有力な天敵として、すでに海外では生物農薬として市販されています。そこで、農研機構は2012年度よりキュウリにおけるアザミウマ類、トマトにおけるコナジラミ類を対象に、本種の有効性を(株)アグリ総研、高知県、福岡県、岡山県、静岡県、千葉県とともに検証し、製剤化しました。本種を用いた防除技術についても前記に加え、近畿大学、宮崎大学、宮城県、栃木県、神奈川県、三重県、広島県、熊本県とともに開発してきました。

天敵製剤タバコカスミカメの利用法と特徴

  • タバコカスミカメはこれまでに市販された天敵よりも大型で、キュウリやトマトなどで問題となっている難防除害虫のアザミウマ類やコナジラミ類の防除に有効です。
  • タバコカスミカメは一部の植物や代替餌資材で発育・増殖できるため、餌となる害虫が少ない時でも、バーベナ、クレオメなどの天敵温存植物や天敵用餌ひもにより、施設内で安定して定着させることができ、害虫発生初期から効果を期待できます。
  • タバコカスミカメをより効果的に使えるようにするために、タバコカスミカメを誘引する紫色LED装置、害虫コナジラミの忌避剤アセチル化グリセリド、エッジ色彩粘着板、新規赤色防虫ネットなどを開発し、これらを組みあわせた防除体系を地域別にマニュアル化し、農研機構ホームページにて公開しました(以下URL)。本防除体系の利用により、IPM(総合的病害虫管理)が実行可能です。
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/129995.html
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/060741.html
  • タバコカスミカメ剤の使用はキュウリおよびトマトの栽培施設に限られています。使用に際しては施設開口部に防虫ネットを被覆すること、使用後は施設を締め切り内部の植物が枯死及びタバコカスミカメが死亡したことを確認するなど、野外へ逃亡しないように処置することが必要です。また、タバコカスミカメはコナジラミ類およびアザミウマ類を捕食する天敵生物ですが、植物を吸汁する生物でもあり、害虫が低密度の時、高密度放飼を行うと植物体に傷などが発生する恐れがあります。特に、初めて使用する場合は病害虫防除所等関係機関の指導を受けるようにしてください。
  • タバコカスミカメ剤の購入については、以下にお問い合わせください。

    (株)アグリセクト
    TEL:029-840-5977 FAX:029-840-5988
    〒300-0506 茨城県稲敷市沼田2629-1
    https://www.agrisect.com/

今後の予定・期待

農薬を全く使用しない場合のトマトの減収率は平均で36%という数字があり、これをトマトの市場価格に換算すると1,500億円に達します。トマトなどウイルス病が問題となる作物では従来の天敵による防除効果が不十分であったため、天敵利用が進みませんでしたが、タバコカスミカメ剤の上市により、こうした作物でも天敵利用が進むようになっていきます。農研機構では併用できるIPM技術もマニュアル化し、環境保全型農業へのシフトが期待されます。

参考図

図1 タバコカスミカメ成虫
図2 市販されるタバコカスミカメ剤のパック形態
表1 タバコカスミカメ剤の適用表