プレスリリース
(研究成果) ひずみを測定して強化プラスチック複合管の安全性を診断

- 農業用水パイプラインの漏水事故を未然に防止 -

情報公開日:2017年7月13日 (木曜日)

農研機構
茨城大学
株式会社栗本鐵工所
積水化学工業株式会社

ポイント

  • 農業用水のパイプラインに多く使われている「強化プラスチック複合管(FRPM管)」のひずみ1)を測定して、安全性を診断する手法を開発しました。
  • 破壊に対する安全性を定量的に診断できます。また、これまで見逃していた局所的に変形した箇所を、ひび割れが発生して漏水する前に発見できます。

概要

  1. 農研機構農村工学研究部門は、茨城大学、(株)栗本鐵工所及び積水化学工業(株)と共同で、農業用水のパイプラインとして地中に埋設されたFRPM管のひずみを測定して、安全性を診断する手法を開発しました。
  2. 地中に埋設されたFRPM管は管周辺の土から圧力(土圧)を受けて変形しており、従来は全体の変形の程度(たわみ率2))を測定して、安全性を診断していました。しかし、管の一部に荷重が集中した場合には、局所的に変形してひび割れに至ることもあるため、たわみ率だけでは安全性を正確に診断することはできませんでした。
  3. そこで今回、局所的な変形を測定し、FRPM管の安全性を診断する手法を開発しました。FRPM管の曲率半径3)を測定し、発生しているひずみを計算します。ひずみの大きさから診断表を用いて安全性を定量的に診断できます。この手法を用いることで、これまで見逃していた局所的に変形した危険な箇所を、漏水に至る前に発見できるようになります。
  4. 本診断手法に関するマニュアルは、農研機構のホームページ「刊行物詳細:ひずみを指標とした強化プラスチック複合管の診断手法」よりダウンロードできます。

関連情報

予算:農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業「農業用パイプラインの長寿命化のための調査・設計手法の開発(H24年度~H26年度)」

背景と経緯

FRPM管はガラス繊維強化プラスチック(FRP)と樹脂モルタルの複合材料で構成された管です(写真1)。地中に埋設された農業用水のパイプラインとして、日本全国に広く普及しています。また下水道等の農業用分野以外でも使用されています。
埋設後数十年経過したFRPM管も多く、その間に、地下水や地盤沈下等の影響で、管周辺の土が不均一になり、管の一部に大きな荷重が作用することがあります。そうした場合、FRPM管は局所的に変形して、ひび割れを生じ漏水事故に至ることがあります。漏水事故は営農活動に支障をきたすだけでなく、交通障害などの二次被害を引き起こす場合もあります。そのため、FRPM管の変形を把握し、安全性を合理的に診断する手法が求められていました。
従来のたわみ率を指標とした診断手法は、一定の指標にはなるものの、局所的に変形した箇所を発見することができませんでした。漏水事故の調査においても、許容値以下のたわみ率であっても、ひび割れなどの被害が見受けられました。
そこで農研機構は共同研究機関とともに、局所的な変形であるひずみに着目し、ひずみを指標としたFRPM管の安全性の診断手法の開発を行いました。

内容・意義

【本手法の特徴】

  1. 本診断法では、FRPM管に発生しているひずみを測定し、表1に示す診断表を用いて安全性を診断します。
  2. ひずみは、はじめに写真2に示す装置を用いてFRPM管の曲率半径を測定し、曲率半径の大きさから算出します。口径800mm~2,400mmのFRPM管を対象とした検証実験を行って、この方法によりひずみを測定できることを確認しました。
  3. 安全性診断に関しては、破壊時のひずみを求めるためのFRPM管の破壊試験4)を実施して、ひずみから安全性を診断する表1を作成しました。
  4. 本診断手法の現場での適用性を検証しました。管頂・管側・管底等の各所でひずみを計測して、FRPM管の局所ごとに安全性診断が可能となりました(写真3及び図1)。また、本手法は容易に導入でき、現場で活用できることを確認しました。

今後の予定・期待

今後、全国に埋設されている口径800mm以上のFRPM管の安全性を診断する際に、本手法を活用できます。対策の必要性を適切に判断できるようになり、FRPM管をより合理的に維持管理できるようになります。
なお、本診断手法に関するマニュアルは、農研機構のホームページ「刊行物詳細:ひずみを指標とした強化プラスチック複合管の診断手法」よりダウンロードできます。

発表論文

有吉充、毛利栄征、硲昌也、久保田健藏(2016):曲げひずみ推定手法の強化プラスチック複合管への適用性の検証、農業農村工学論文集、84(3):I_381-389

用語の解説

1)(FPRM管の)ひずみ
管材の変形前の長さに対する変形後の変化量の割合。
用語1 (FPRM管の)ひずみ
曲げにより管材が変形し、管の内側が伸びます。この場合、管の内側のひずみは、変形前の長さに対する変形後の変化量(すなわち伸び量の合計)の割合として表します(=伸び量の合計/変形前の長さ)。

2)たわみ率
管の直径に対するたわみ量の割合。
用語2たわみ率
土圧により管は横長に変形します。通常、鉛直方向と水平方向のたわみ量を計測して安全性を診断します。たわみ率は、管の直径に対するたわみ量の割合として表します(=たわみ量/管の直径)。

3)曲率半径
曲線を局所的に円弧とみなしたときの円の半径。
用語3曲率半径

4)破壊試験
ISO規格(ISO10471)に基づく試験方法で、FRPM管の長期的な破壊ひずみを求める試験。

参考図

写真1_FRPM管

表1_ひずみを指標としたFRPM管の診断表

写真2_曲率測定装置 写真3_現場での計測の様子

図1_現場での計測結果の例

お問い合わせなど

研究推進責任者
農研機構農村工学研究部門 部門長 山本德司

研究担当者
農研機構農村工学研究部門 施設工学研究領域
主任研究員 有吉充
国立大学法人 茨城大学 農学部 地域総合農学科
毛利栄征
株式会社栗本鐵工所 化成品事業部 技術開発部
硲昌也
積水化学工業株式会社 環境・ライフカンパニー
久保田健藏

広報担当者
農研機構農村工学研究部門 広報プランナー 遠藤和子
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