ポイント
- 水田の水管理を、スマートフォンやPCでモニタリングしながら遠隔操作したり、自動で給水と排水を制御できる国内初のシステムを開発しました。
- 本システムにより、農研機構の実証圃場では、水管理にかかる労働時間を約80%削減でき、出穂期から収穫までの期間の用水量を約50%削減できました。
- 本システムにより、水管理の省力化と高度化の両立が可能となります。
概要
- 水稲栽培において、労働時間の約3割を占めている日々の水管理は、大面積で分散した水田を管理する農家にとって大きな負担になっています。
- そこで、農研機構農村工学研究部門では、既存の給水バルブと排水口にインターネット通信機能とセンシング機能を付加した制御装置を追加することで、給水バルブと排水口を遠隔及び自動で制御できるシステムを開発しました。
- ユーザーはスマートフォンやPCなどから、どこにいても水田の水位や水温などのデータを閲覧することができ、状況に応じていつでも自由に水管理をすることができます。さらに、サーバー上の水管理ソフトを使うことで、任意の水深を自動で維持したり、設定した間隔で間断灌漑をしたり、水温上昇を目的とした夜間灌漑をしたりと、様々な水管理を自動で行うこともできます。
- 水管理労力や用水量は水田枚数や立地条件等により大きく変動しますが、農研機構の実証圃場では、水管理の労働時間を約80%削減可能で、出穂期から収穫までの期間の用水量も約50%削減できました。
- 目標価格は自動給水バルブ・自動落水口、各1機あたり10万円、基地局20~30万円、通信費用は2,000~4,000円/月です。今年度中に大手農業系企業グループから発売予定です。
関連情報
予算:戦略的イノベーション創造プログラム(内閣府)次世代農林水産業創造技術「生産システムコンソーシアム」
特許:圃場給排水システム 特願2016-85990
システム開発の背景と経緯
お米の収量や品質の向上には、生育ステージや気象状況などに応じた灌漑操作や排水操作、水位調節といったきめ細かな水管理が求められています。水管理労力は水稲の総労働時間の約2~3割を費やしています。特に大規模農家は、離れた場所にある複数の水田で耕作するため、全ての水田の水回りを管理するだけでも多大な時間を要します。しかも、複数の品種1)や栽培方法(移植と直播栽培)などを組み合わせているため、必然的に水管理が複雑化しています。これまでに、一定の水位を維持する給水のみの管理装置は存在しましたが、上記の現状を打破できる技術はありませんでした。
そこで農研機構では、水田の水管理を、スマートフォンやPCでモニタリングしながら遠隔操作したり、自動で制御できるシステムを開発しました(図1、図2)。
開発したシステムの特徴
- 給水と排水の両方を水田のデータを見ながら、遠隔・自動で制御できます。
- 水管理ソフトによって、複雑な水管理も自動で制御できます。
- 制御装置は太陽光発電と内蔵バッテリーのみで稼働するため電源不要です。
- 既存の給水バルブ、排水口に後付けで設置することができるため、大規模な設置工事が不要です。
- 国内の主要な給水バルブに対応しています。
- 給水と排水の制御装置は同一構造で共用が可能です。
- 日々の水まわりや給排水操作がなくなるため、大幅な水管理労力の削減が可能となります。水管理労力は水田枚数や分散状況等により大きく変動しますが、所内の実証圃場では、水管理に要した時間は対照水田(一般的な給・排水装置を設置)に対して、約80%削減できました(図3A)。
- さらに、システムの利用により適正な水管理が実現されるため、用水量の削減も可能となります。用水量は立地条件等により変動しますが、所内の実証圃場において、出穂期から収穫までの期間の積算用水量2)は対照水田の約50%に削減できました(図3B)。
今後の予定・期待
- 水管理労力の大幅な削減により、大規模農家のさらなる規模拡大や余剰労力を活かした6次産業化への取り組みに貢献し、所得向上に寄与します。
- 目標価格は自動給水バルブ・自動落水口、各1機あたり10万円、基地局20~30万円、通信費用は2,000~4,000円/月です。今年度中に大手農業系企業グループから発売予定です。
- 現在、気象データやコメの発育モデルなどと連携することで、品種や地点、移植日を事前に登録するだけで、田植えから収穫までの最適な水管理スケジュールを組み立て、自動で水管理をする「最適水管理アプリ」を開発中です。本アプリの利用により、コメの収量や品質の向上も期待できます。
用語の解説
1)複数の品種(の利用)
水稲作では、春の田植え時期と秋の収穫時期に多くの労働力を必要とします。このため、大規模農家では、なるべく作業が集中しないよう、早生品種、中生品種、晩生品種を組み合わせた栽培方法を取り入れています。その一方で、品種の生育ステージなどに応じて、必要な水管理を変えていく必要があることから、複雑な水管理を迫られています。
2)積算用水量
日々の使用した用水量(m3)を積算し、水田面積(m2)で割ることで、雨量と同じように用水量を高さ(mm)で表記したものです。
発表論文
「ICTを用いて省力・最適化を実現する圃場水管理システムの開発」、若杉晃介・鈴木 翔、農業農村工学会誌、85(1)11-14、2017
参考図
お問い合わせなど
研究推進責任者
農研機構農村工学研究部門 研究部門長 山本 德司
研究担当者
農研機構農村工学研究部門 農地基盤工学研究領域 若杉 晃介
広報担当者
農研機構農村工学研究部門 広報プランナー 遠藤 和子
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