プレスリリース
(研究成果) モバイルGISを用いた農地一筆調査支援システム

- 市町村が行う農地の現況確認業務を効率的に -

情報公開日:2021年9月 8日 (水曜日)

農研機構

ポイント

市町村が行う農地の現況確認業務を効率化する「農地一筆1)調査支援システム」を開発しました。本システムは、パソコン(PC) 用GISソフトとタブレット用モバイルGISアプリで構成され、PC上で構築したデータセットは、モバイルGISアプリと双方向で同期できます。農地の現況確認にモバイルGISアプリを活用すると、調査結果の入力、撮影写真の記録など、現場で行う一連の作業を効率的に実施できます。

概要

地理情報システム(GIS)は、地図情報と地図上のアイテム(対象物)の属性情報をPC上で取り扱うことができるため、様々な行政業務の効率化に寄与します。とりわけ、農地とその属性情報を取り扱う市町村農政業務は、GISの活用によりその効率化が大いに期待できます。しかし、市町村農政業務における統合型GIS2)の普及率は26%にとどまっており、普及の阻害要因は、主に市町村の財務状況とされています(総務省「地方自治情報管理概要」(平成26年3月))。このほか、GIS活用のためのデータセットの構築が困難なことや、業務への具体的な利用手順が不明であることも普及の阻害要因と考えられます。

そこで、農研機構と(株)イマジックデザインが開発したPC用GISソフト「VIMS3)」とタブレット用モバイルGISアプリ「iVIMS4)」を用いた比較的低価格で導入可能な新たな支援システムを構築し、市町村農政業務への普及実証試験を行いました。具体的には、遊休農地や荒廃農地に関して農業委員会が担当する利用状況調査・荒廃農地調査5)における農地の現況確認業務に対応可能となるようにVIMSおよびiVIMSシステムの機能を強化するとともに、その運用体制の構築を行い、「農地一筆調査支援システム」として開発しました。

「VIMS」は、(株)イマジックデザインから販売され、「iVIMS」は無料で利用可能となっています。本GISシステムを導入することにより、市町村農政業務の効率化が期待できます。

関連情報

予算 : 交付金/科研費 基盤研究(A) 15H01907(2015-2017)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構農村工学研究部門 所長藤原 信好
研究担当者 :
同 資源利用研究領域 上級研究員芦田 敏文
広報担当者 :
同 研究推進部 渉外チーム長猪井 喜代隆

詳細情報

開発の社会的背景

わが国では、農業従事者の高齢化・農家の後継ぎ不在により、営農を中止する農家が増加し、その所有農地の荒廃化が問題となっています。

各市町村に設置されている農業委員会は、遊休化・荒廃化した農地を毎年把握しています。具体的には、農地一筆ごとの現況確認を行い、遊休農地・荒廃農地(図1)を判定する作業を行います。判定結果の整理を含め、その業務量は多大であり、効率化が求められています。

そこで、本業務の効率化のために、モバイルGISを用いた農地一筆調査支援システムの適用を試みました。あわせて、他の農政関連業務にも利用でき、市町村の各種業務の効率化に寄与するなど、統合型GIS的な活用を目指して運用体制の構築に取り組みました。

開発の経緯

農地の現況確認の担当者が、A3判用紙に印刷された複数枚の地番図と調査票を綴じた大きなファイルに加え、現況写真撮影用のコンパクトカメラとホワイトボードを調査現場に携帯し、現況確認に苦心している状況を目の当たりにしました。

これらの調査機材はタブレットにインストールしたiVIMSで代替できるため、農業委員に同行して現況確認にiVIMSを試行し、加えて、オンサイトでの調査結果入力がより容易となるようiVIMSのカスタマイズを行いました。

試行を行った市町村の利用状況調査・荒廃農地調査において、複数の担当者のiVIMS利用実績が得られ、かつその評価も良好だったため、当該市町村への現地実装に取り組み始めました。

研究の内容・意義

  • 本GISシステムは、PC 用GIS ソフト「VIMS」とiOS タブレット(iPad)用モバイルGIS アプリ「iVIMS」で構成されます。
  • VIMSを用いると、調査対象である農地筆の位置・形状および属性情報を一体的に整理することができます。また、VIMSで構築したデータセットは、iVIMSを用いることで現場へ持ち出し、現況確認作業に用いることができます(図2)。
  • 本研究では、iVIMSを用いた調査現場での農地の現況確認をより効率化するためにiVIMSのカスタマイズを行いました。具体的には、調査結果の入力、現況写真の撮影保存をよりスムーズに行うための新機能を追加しました。
  • 本システムの利用状況調査・荒廃農地調査への利用手順と特徴は以下の通りです。
    • 航空写真の画像データ、地番図ベースの農地筆GIS データ、および農地台帳等の農地属性データを準備します。これらをVIMS にインポートし、農地関連のGIS プロジェクトを構築します。
    • VIMSで作成したデータセットをiVIMSに転送し、農地の現況確認に活用します。現場で行われる調査結果の記録・現況写真の撮影保存は、iVIMSを用いると、タブレット1台で一元的に可能です。特に、現在地の位置情報をタブレットの画面地図で常に確認できることが、効率化に大きく寄与します(※GPS搭載のiPadが必要)(図3)。
    • iVIMSは、現場での利用時にデータ通信を行わないため、データ通信費が生じないほか、電波が捕捉できない山間部などの現場でも利用可能です。このことは、Web-GISと比較した際の優位点となります。
    • 調査結果や現況写真を入力して更新されたiVIMSのデータセットをVIMSへ転送すると、VIMSのデータセットが更新され、VIMS上で編集・管理できます。調査結果を含む農地筆の属性情報は、VIMSからエクセルデータ形式等で出力することができ、事務局が調査後に行う集計等の事務作業に活用することができます。
  • 市町村が本GISシステムを導入するためには、航空写真の画像データ・農地筆GIS データの入手が肝となります。実証試験を行った市町村では、県土地改良事業団体連合会が管理している水土里情報データを活用しました。また、運用にあたっては、GISに精通していない市町村職員では対応が困難な作業(例えば本GISシステムの初期設定、GIS データセットの構築など)を同連合会に委託する体制を構築しました(図4)。
  • iVIMSは、利用状況調査・荒廃農地調査の現況確認のほか、中山間地域等直接支払・多面的機能支払の対象農地の現況確認などにも活用できます。また、VIMS は、現況確認結果の可視化や農地現況図の作成などが容易にできるので、人・農地プランなど各種農政関連業務で活用できます。つまり、市町村農政部署において本GISシステムは統合型GISのような活用が可能です。導入希望の際は、農研機構にお問い合わせください。

今後の予定・期待

本GISシステムは、特に農地の現況確認業務に有用なため、モバイルGISを未導入の市町村への普及が期待されます。さらに、本GISシステムを統合型GISとして活用することにより、市町村農政業務全般の効率化が期待できます。

用語の解説

一筆
土地登記簿上の一区画のことです。[ポイントへ戻る]
統合型GIS
地方公共団体が利用する地図データのうち、複数の部署が利用するデータを各部署が共用できる形で整備し、利用していく部署横断的なGISのことです。[概要へ戻る]
VIMS(ヴィムス;Village Information Management System:農地基盤地理情報システム)
農研機構と(株)イマジックデザインが共同開発したGISソフトで、PC(Windows)上で動作します。既存のGISソフトと比較して安価な費用で導入することができます。本ソフトは、(株)イマジックデザインから販売されています(41,000円/1ライセンス)。[概要へ戻る]
iVIMS(アイヴィムス)
iOS上で動作するモバイルGISアプリです。無料でダウンロードできます(2021年6月時点)。「VIMS」のデータセットをタブレット(iPad)に転送して持ち出し、現地での確認や入力に活用できます。現地で入力したデータは、「VIMS」に転送してデータセットを更新することで、PC上で管理・活用することができます。[概要へ戻る]
利用状況調査・荒廃農地調査
利用状況調査とは、農地法(30条)に基づき実施される、農地台帳上に記載されている農地筆の遊休化(遊休農地)を判定する調査です。一方、荒廃農地調査とは、農村振興局長通知(19農振第2125号、最終改正元農振第634号)に基づき実施される、農地筆の荒廃化(荒廃農地)の判定および、過去に荒廃農地と判定された農地筆について、再耕作などによる解消を判定する調査です。いずれの調査も農地台帳上の農地筆の全数調査を行う内容で、多くの市町村では農業委員会が年1回、同時に実施してきたところです。なお、両調査は令和3年度より統合し一本化されました(3経営第823号、3農振第713号)。[概要へ戻る]

*iPadは、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。
*Windowsは、米国Microsoft Corporation、Microsoft Office Outlook Web Accessの米国およびその他の国における登録商標です。
*Windowsは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標です。(9月9日修正)

発表論文

  • 芦田敏文、友松貴志(2018)利用状況調査・荒廃農地調査へのモバイルGISの活用、農業農村工学会誌、86(3)、187-190.
  • 芦田敏文、友松貴志、庄直樹(2020)タブレットを用いた農地一筆調査アプリの改良と普及に向けた課題、農業農村工学会誌、88(1)、11-14.

参考図

資料:農林水産省「荒廃農地の現状と対策」(令和3年7月)より引用
図1 遊休農地と荒廃農地について
図2 農地一筆調査支援システムの概要
図3 iVIMSの機能例
図4 実証試験を行った市町村におけるシステムの運用体制