プレスリリース
(研究成果) ため池の管理状況に関するデータを共有するデジタルプラットフォームの構築

- ため池の遠隔監視体制および管理状況の集約化に活用 -

情報公開日:2023年8月25日 (金曜日)

ポイント

農研機構は、全国のため池の写真、日常点検結果、監視カメラの画像、水位データなど各種データを格納し閲覧できる「ため池デジタルプラットフォーム1)」を構築しました。ため池の管理状況を集約・共有することで、ため池の経年変化を容易に把握することができます。

概要

農研機構は、ため池の平常時の写真や日常点検結果、監視カメラの画像、水位データなどのため池の管理状況に関する各種の情報を格納し、閲覧できる「ため池デジタルプラットフォーム」(以下、ため池DPとよびます。)を構築しました。日本全国の約15万のため池の情報が格納可能であり、対象のユーザーは国や地方自治体のため池管理担当者です。

ため池デジタルプラットフォームの画面

ため池DPに格納されたため池の管理状況のデータは、ユーザー間で共有できます。平常時において、蓄積されたため池の写真や日常点検結果を比較することで、ため池の経年変化が把握できます。ため池の写真を格納することによって、ため池が被災した際には、その前後のため池の写真を比較することで被災状況を迅速に把握することができます。

また、ネットワークを介してため池DPに監視カメラや水位計を接続することで遠隔監視が可能となることから、ため池の状況をリアルタイムで確認することができます。

関連情報

予算 : 内閣府「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構農村工学研究部門 所長渡嘉敷 勝
研究担当者 :
同 施設工学研究領域 主任研究員泉 明良
広報担当者 :
同 研究推進部 渉外チーム長林田 洋一

詳細情報

開発の社会的背景

豪雨・地震時のため池の危険度を予測し、現地の被災情報を共有する「ため池防災支援システム」(https://www.naro.go.jp/project/society5-sdgs/reaserch_result/seg4/145027.html)は、農研機構によって開発され、現在、農林水産省で運用されています。豪雨・地震時に被災したため池の状況を情報共有することにより、防災・減災に活用されています。点検時の写真の管理や日常点検の保管などの日常的な管理についても、DX化が進むことで、都道府県や市町村のため池担当者やため池管理者の労力が軽減され効率的な維持管理を行うことが可能となります。

研究開発の経緯

日常的な管理データのデジタル化を目的に、農研機構は、これまでため池の写真や日常点検結果をデジタルデータとして集約化するとともに、監視カメラや水位計によってため池の状態の変化を一つのシステム内で監視することができる「ため池DP」を開発しました。「ため池DP」は、ユーザーが容易に使えること、平常時の点検時に簡便にデータを更新できること、被災前後の比較が素早くできることなどに配慮して開発されました。

本手法の特徴

  • 「ため池DP」には、全国約15万箇所のため池が登録されています。各ため池について、ため池番号2)、名称、所在地、緯度経度、堤高、総貯水量が登録されています。
  • ため池の写真や日常点検結果、監視カメラの画像、水位計のデータを閲覧する機能は、国や自治体のため池担当者を対象としています。
  • ユーザーは担当している地域のため池の写真を登録することができます。登録情報として撮影対象物、撮影日時、メモを登録することができます。撮影対象物は、堤体3)、上流斜面、下流斜面、洪水吐4)取水施設5)など任意の項目を登録できます。登録した写真を蓄積していくことで、ため池の経年変化を確認することができます。災害時には、被災前のため池の状態を確認することができます。
  • ユーザーは、担当している地域のため池に設置した観測機器の監視カメラの画像や水位計の水位データを登録することができます(図1)。監視カメラの画像や水位データを閲覧することで、豪雨や地震時のため池の異常を迅速に把握することができます。水位データは閲覧範囲を12時間から1年単位までの表示が可能で、豪雨時の水位監視や通年を通した水管理に活用することができます。
  • ため池管理アプリ6)」を用いて実施した日常点検結果は「ため池DP」に格納されます。過去の点検結果と比較を行うことで、ため池の経年変化を把握することができます。
  • 「ため池防災支援システム」と認証連携しており、「ため池防災支援システム」のユーザーアカウントを用いて、「ため池DP」にアクセスすることができます(図2)。
  • ため池DPへのアクセスは、PCならびにタブレット、スマートフォンで可能です。

今後の予定・期待

「ため池DP」の活用例としては、①ため池管理アプリを用いた日常点検の閲覧による管理状況の把握、②監視カメラ、水位計を「ため池DP」に接続することによる平常時のため池の維持管理の確認、③写真を登録することで、ため池が被災した場合に、ため池DPに登録された写真と被災後の写真を比較することによる被災箇所の迅速な確認などがあり、ため池の管理状況に関する各種データの集約化、共有化を図ることができます。

農研機構では、今後、ICTなどを活用した情報化施工7)を支援するアプリケーションやドローンなどの無人航空機で撮影した動画、調査報告書等を格納する機能を追加する予定です。また、「ため池DP」に蓄積された画像や水位データを基に豪雨・地震時のため池の危険度を予測するモデルや、画像解析によるため池の異常を早期に発見する技術を開発する予定です。

用語の解説

デジタルプラットフォーム:
インターネット上で提供されるIT技術やデータ等を用いたシステムやサービスの利用基盤や利用環境のことです。
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ため池番号:
ため池を識別するための固有の番号です。
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堤体:
水を貯めるために土を人工的に築造された盛土構造物です。
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洪水吐:
豪雨時に貯水が堤体を超えないように洪水を安全に流下させるための放流設備です。
[本手法の特徴へ戻る]
取水施設:
ため池に貯めた水を農業用水等として利用するための施設です。
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ため池管理アプリ:
ため池管理者がため池の日常点検ならびに災害時の緊急点検ができる、農研機構が開発したスマートフォン用のアプリです。
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情報化施工:
情報通信技術(ICT)の活用により、調査、設計等の各プロセスから得られる電子情報を基に実施される効率的・高精度な施工です。
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参考図

(a)監視カメラ閲覧画面

(b)水位データ閲覧画面

図1監視カメラと水位データ閲覧画面
図2デジタルプラットフォーム概要

「ため池防災支援システム」のユーザーアカウントで「ため池DP」にアクセスが可能です。ため池現地に設置された監視カメラや水位計を「ため池DP」に接続することで、「ため池DP」内で監視カメラの画像や水位データを閲覧することができます。