開発の社会的背景
ダリアは、全国的に生産・消費が拡大している新規有望花き品目です。東京都中央卸売市場におけるダリア切り花の取扱金額は、2009年からの10年間で1.8倍増加しています。(株)大田花き花の生活研究所によると、2020年のダリアの生産額は28.2億円と推定されており、切り花の重要品目としての成長が期待されています。しかしながら、ダリアには、他種の花と比較すると切り花の日持ち性に劣るという大きな欠点があり、そのため、家庭での観賞用、日持ち保証販売用、切り花輸出用には不向きとされてきました。
ダリアの需要は、新型コロナウイルス感染拡大前には結婚式等のイベントなど業務用需要が主でしたが、ここ数年、小売店での取扱いが増加し、家庭用需要が増えています。切り花の家庭用需要の拡大にともない、日持ち性に優れた品種が望まれており、ダリアを業務用だけでなく家庭での観賞向けの切り花として定着させるためには、日持ち性を重視した品種の開発を進める必要があります。
研究の経緯
農研機構では、2014年からダリアの日持ち性を向上させる育種研究に取り組み、2020年に日持ち性に優れるダリア3品種、暗赤色の「エターニティトーチ」、濃桃色の「エターニティロマンス」、深赤色の「エターニティルージュ」を育成しました(図2)。これらの品種は2022年秋から花き市場への出荷が始まっていますが、特に、ダリアという品目を好んで仕入れされる小売店や業者での評価が上昇し、消費者の人気も高まっています。現状のエターニティシリーズは3色のみですが、追加品種による花色等のバリエーション拡大に期待が高まっています。農研機構では、交雑育種1)によるさらなる日持ち性の向上とともに、エチレン2)の作用による輸送時の落弁が生じにくいエチレン低感受性など、切り花輸出に適する流通適性を備えた品種開発についても、検討を進めてきました。
新品種「エターニティピーチ」、「エターニティシャイン」の特徴
- 「エターニティピーチ」(図3)の日持ち日数は、一般品種の「かまくら」と比べると1.2~1.6倍です(表1)。「エターニティピーチ」の花は、全体が桃色で中心が白く抜ける美しいグラデーション花色で観賞性が高く、露心3)がほとんど発生しません。早生で生産性が高く、上向き咲きなので、アレンジメントやブーケなどに使いやすい花型です。
- 「エターニティシャイン」(図4)の日持ち日数は、「かまくら」と比べると1.5~2.9倍です(表1)。夏季高温期(7~8月)採花の抗菌剤液4)や、高温下(28°C・GLA液5))での日持ち日数が、それぞれ、「かまくら」の2.9倍、1.5~2.0倍と、高温下の日持ち性に優れますので、地球温暖化への適応に対応する「みどりの食料システム戦略」にも貢献する育種成果です。早生で生産性が高く、露心がほとんど発生しません。
- 両品種の花の直径は約11~13cmであり(図3および図4)、ホームユース向けに使いやすい中輪品種です。
- 「エターニティシャイン」は、エチレン低感受性であるため落弁が生じにくく、流通適性に優れます。宮崎県の生産地からの長距離輸送後の、GLA液での日持ち日数は、既存の良日持ち性品種の6.2日に対し、「エターニティシャイン」では15.2日と、約2.5倍でした(図5)。
品種の名前の由来
日持ちが優れる品種という特徴から、英語で「永遠」を意味する「エターニティ(eternity)」を冠したエターニティシリーズとして命名しました。「エターニティピーチ」は桃のようなかわいらしい花色であることから、「エターニティシャイン」は夏季の強光(Sunshine)や高温下でもよく育ち、光輝くような濃桃色なので"永遠の輝き"という意味を込めて、それぞれ命名しました。
今後の予定・期待
2020年に育成した「エターニティトーチ」、「エターニティロマンス」、「エターニティルージュ」(図2)は、2022年夏から民間種苗会社2社により営利生産用のセル成型苗の販売が開始され、優れた日持ち性とその美しさで、生産者、市場関係者、小売店等の実需者からの評価が上昇しています。2023年からは本格的に苗販売されますので、全国各地で切り花が生産・出荷されて、普及拡大が進む予定です。
今回追加された「エターニティピーチ」、「エターニティシャイン」についても、2024年夏以降に苗販売が開始される見込みで、2024年11月には一般の花屋さんの店頭に並ぶ予定です。開発した良日持ち性ダリアエターニティシリーズの普及を通じて、ダリア切り花全体の消費拡大、ニーズ向上が期待されます。
農研機構では、さらに日持ち性の向上した超長命性品種の育成や、花色・花型等のバリエーション拡大を目指した育種研究を進めています。
日本産の高品質な切り花は、海外でも高い関心が持たれています。ダリア切り花についても、「エターニティシャイン」のような流通適性を有する品種の利用により、今後の攻めの農林水産業を実現するための有望な輸出切り花品目になることが期待できます。エターニティシリーズに適応した輸出対応技術の開発にも将来取り組みたいと考えています。
原種苗入手先に関するお問い合わせ
原種苗については、概要にも記載したように、以下の連絡先にお問い合わせください。
農研機構野菜花き研究部門 研究推進室 渉外チーム 大西 佳那
FAX 029-838-6673
利用許諾契約に関するお問い合わせ
下記のメールフォームでお問い合わせください。
なお、品種の利用については以下もご参照ください。
用語の解説
- 交雑育種
- 品種・系統間で交雑を行って、多様な変異を示す雑種集団を作り、その中から優良な形質を持つ個体を選抜する育種法。
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- エチレン
- 切り花の老化(花弁の萎凋や落弁)を促進する作用を持つ植物ホルモンの一つ。エチレンは植物のどの部位からも発生しますが、特に、リンゴ、バナナ、メロンなどの果実から多量に発生します。ダリアの落弁はエチレンの作用によって引き起こされますが、一部の品種では輸送中の落弁が問題となっており、ダリアへエチレン低感受性を付与することにより、輸送適性が向上します。
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- 露心
- ダリアの花には、花弁が筒状になった中心部の管状花と、下部が筒状で上部が平らで舌状に伸びている舌状花の2種類の小花があります。ダリア八重咲き品種は、ほぼ舌状花から構成されますが、秋が深まり日長が短くなると、舌状花の割合が減少し、開花直後から中心部の管状花がむき出しになる露心が発生します。露心したダリア切り花は低品質と評価されるので、品種選定では露心しにくいことが重視されます。[新品種「エターニティピーチ」、「エターニティシャイン」の特徴へ戻る]
- 抗菌剤・ケーソンCG
- 切り花の品質を保持するために使用するイソチアゾリン系抗菌剤です。導管内での細菌の増殖を抑え、水あげ悪化を抑える効果があります。なお、ケーソンCG(ダウ・ケミカル日本(株))原液には、抗菌作用のある有効成分として11.3 g・L-1の5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(CMIT)と3.9 g・L-1の2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(MIT)が含まれています。[新品種「エターニティピーチ」、「エターニティシャイン」の特徴へ戻る]
- GLA液
- 1%グルコース+ケーソンCG4)0.5 mL・L-1+硫酸アルミニウム50mg・L-1から構成される品質保持剤(切り花の品質を保持するために使用される薬剤)です。[新品種「エターニティピーチ」、「エターニティシャイン」の特徴へ戻る]
参考図