プレスリリース
(研究成果) 青枯病に強いナス新品種「あのみのりパワー」を開発し、種苗販売を開始
- 栽培の要点をまとめた標準作業手順書を公開し、全国的な普及を目指します -
ポイント
- 農研機構は、ナスの生産現場において全国的に深刻な問題となっている青枯病に抵抗性を持つナス新品種「あのみのりパワー」を育成しました。
- 本品種は民間種苗会社から昨年末に種子の販売が開始され、2026年4月からは苗の販売も開始されました。
- 全国的な普及に向けて「あのみのりパワー」の栽培の要点や留意点を解説した標準作業手順書(SOP)を作成し、5月21日より公開しました。
- 本SOPを活用して「あのみのりパワー」を栽培することで、青枯病の被害が問題となっている地域でも、高品質なナスの安定生産が可能になります。
概要
図1ナス新品種
「あのみのりパワー」
ナスは年間の産出額が800億円を超える主要な野菜の一つですが、近年の温暖化の影響により、土壌伝染性病害である青枯病の被害が全国的に深刻化しています。青枯病は発病適温が25~35 °Cと高く、地温の上昇に伴って被害の発生地域や期間が拡大しており、従来の土壌消毒1)や抵抗性台木を使った接ぎ木栽培2)などでは十分な対応が難しい状況となっています。
そこで、農研機構では、穂木用として世界で初めて青枯病に抵抗性を有するナス新品種「あのみのりパワー」を育成し、2025年10月に品種登録を完了しました(図1)。本品種は、現在普及している台木用品種並みの青枯病抵抗性に加え、単為結果性3)、とげなし性4)および半枯病抵抗性5)を備えた実用品種です。民間種苗会社から2025年12月より種子の販売が開始され、2026年4月からは苗の販売も開始されました。
さらに、本品種の全国的な普及に向け、「あのみのりパワー」の栽培地域や条件に応じた要点・留意点を整理した標準作業手順書(SOP)「青枯病に抵抗性のあるナス品種「あのみのりパワー」」を作成し、2026年5月21日に公開しました。本SOPでは、青枯病抵抗性を十分に発揮させるための管理方法や、着果の安定化・収量向上につながる栽培のポイントを解説しており、生産される地域の環境に適した栽培管理が可能になります。
新品種とSOPをあわせて活用することで、青枯病の被害が問題となっている地域においても、高品質なナスの安定生産が可能になります。
関連情報
- 予算 : 運営費交付金
- 生研支援センター「食料安全保障強化に向けた革新的新品種開発プロジェクトのうち食料安全保障強化に資する新品種開発」(JPJ012082)(2023~2025年度)
- 品種登録番号 : 「第31319号」(2023年6月5日出願、2023年10月5日出願公表、2025年10月10日登録公表)
問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構 野菜花き研究部門 所長東出 忠桐
研究担当者 :
同 野菜育種研究領域 上級研究員宮武 宏治
詳細情報
開発の社会的背景
ナスは主要な野菜の一つで、2023年度の国内産出額は825億円(生産農業所得統計)ですが、近年の温暖化の影響により青枯病の被害が全国的に深刻化しています。地温が25~35 °Cを発病適温とする青枯病は、気温の上昇に伴い、より広範囲の土壌が長期間にわたって発病適温に当てはまるようになるため被害の拡大が懸念されます。
青枯病は、植物に感染して萎れや枯死を引き起こす多様な病原性細菌群(青枯病菌種複合体 : Ralstonia solanacearum species complex (RSSC)6))を病原とする細菌病です。病原体は土壌中から根や傷口を通じて侵入し、導管内で増殖して植物の吸水を妨げることで、葉が萎れて最終的にはナスの植物体全体が枯死に至ります。さらに、青枯病菌は地中深くにまで侵入して長期間生存することが特徴で、いったん土壌が汚染されると、完全に取り除くことが困難です。
これまでは、土壌消毒や、抵抗性台木用品種を用いた接ぎ木栽培などで対策が行われてきましたが、土壌消毒で対応できる範囲には限界があり、また、接ぎ木作業には労力・作業コストが増加するといった課題もあります。このため、現場の負担を過度に増やさず、青枯病の被害を抑える抜本的な解決策が強く求められています。
研究の経緯
農研機構では、これまでに収集した遺伝資源の中から、青枯病抵抗性を有するナス科作物の系統を選抜し、長年にわたって抵抗性品種の育成に取り組んできました。まず、抵抗性素材として見出した、Khatkhatia (南アジア由来の青枯病に強い抵抗性を持つナスの系統)を育種素材として用い、青枯病・半枯病抵抗性系統(AEP-B02)を育成しました。
しかし、本系統(AEP-B02)は青枯病に対する抵抗性については目指す性能を備えていた一方で、果皮の光沢や収量性など、生産者や消費者にとって重要な特性に課題があり、品種登録には至りませんでした。そこで、DNAマーカー7)を活用して、本系統(AEP-B02)を親とする次世代集団の中から、実用品種に求められる形質を備えた系統を選抜しました。さらに、栽培管理の省力化に重要な特性である単為結果性、とげなし性の2つの形質も導入し、栽培しやすさの向上を図るなど、DNAマーカーによる選抜を組み合わせることで育種を効率化し、短い品種育成期間で世界初となる実用的な穂木用青枯病抵抗性ナスの育成に成功しました。
新品種「あのみのりパワー」の特徴
- 青枯病に強い抵抗性
「あのみのりパワー」は、青枯病に強い抵抗性を持つことが大きな特徴です。青枯病抵抗性検定では、青枯病対策として広く利用されている、強抵抗性の台木用品種と同程度の抵抗性を示しました(図2、表1)。また、「あのみのりパワー」は半枯病にも抵抗性を持ちます。
図2青枯病発生ほ場での栽培状態
青枯病によって萎れた罹病性品種(左)と健全な「あのみのりパワー」(右)
表1「あのみのりパワー」の青枯病抵抗性
栽培結果は、三重県津市(野花研、青枯病菌汚染ほ場)で行った2020~2022年度の平均値。
全ての品種を自根で栽培した。
※発病指数 : 各個体の発病度を以下の0~4の5段階で評価し、それぞれの階級値に個体数を乗じた数値を足し合わせて、個体数で除した数値に25を乗じた数値
0 : 病徴なし、1 : 全体の25 %未満の発病、2 : 全体の50 %未満の発病
3 : 全体の75 %未満の発病、4 : 全体に発病あるいは枯死
- 実用性の高い品種特性
果形は長卵形で、果皮には光沢があります(図1)。さらに、単為結果性やとげなし性を備えたことで、着果促進処理や収穫・管理作業の省力化が期待できます。また、収量性は市販品種と同等以上であり、総合的に実用性の高い品種です(表2)。
表2「あのみのりパワー」の果実特性(露地普通作型)
- 全国的な普及に向けた標準作業手順書(SOP)の公開
図3ナス「あのみのりパワー」
標準作業手順書(SOP)
本品種の全国的な普及に向け、品種特性の説明と、栽培地域や条件に応じた要点・留意点を整理した標準作業手順書(SOP)を作成し、5月21日に公開しました(図3)。本SOPでは、青枯病抵抗性を十分に発揮させるための管理方法や、着果の安定化・収量向上につながる栽培のポイントを解説しています。本SOPを用いて「あのみのりパワー」を栽培することで、生産地の環境条件に応じた栽培管理に活用できます。
本SOPは、下記のURL(農研機構「標準作業手順書 利用者サイト」)からダウンロードできます。利用には無料の利用者登録が必要です。「ログイン/利用者登録」ページにアクセスし、登録手続きをお願いいたします。
【青枯病に抵抗性のあるナス品種「あのみのりパワー」標準作業手順書】
URL : https://sop.naro.go.jp/document/detail/248
品種の名前の由来
「あのみのりパワー」は、「あのみのり」および「あのみのり2号」に続くシリーズ第3弾として育成しました。「あのみのり」という名称は、育成地である三重県津市安濃(あのう)町にちなんだ「あの」に、果実がよく実ることを意味する「みのり」を組み合わせて名付けたものです。本品種は、「あのみのり」と「あのみのり2号」に共通する単為結果性に加え、とげなし性、半枯病抵抗性、青枯病抵抗性の3つの形質を新たに付与しています。その中でも最大の特徴である青枯病抵抗性をイメージさせる「パワー」を付けて「あのみのりパワー」としました。
今後の予定・期待
「あのみのりパワー」は、民間種苗会社から2025年12月に種子の販売が開始されており、2026年4月には苗の販売も開始されました。今後、本品種の普及が進むとともに、SOPを活用した適切な栽培管理が行われることで、青枯病の被害が問題となっている産地においても、高品質なナスの安定生産への貢献が期待されます。
原種苗入手先に関するお問い合わせ
「あのみのりパワー」は、2026年4月現在、株式会社日本農林社に許諾されています。種子を購入される場合は、以下の連絡先にお問い合わせください。
【問い合わせ先】
株式会社日本農林社 〒114-0023 東京都北区滝野川6-6-5 電話 : 03-3916-3341
利用許諾契約に関するお問い合わせ
用語の解説
- 土壌消毒
- 土壌中の病原菌、害虫、雑草の種子などを死滅させることで、土壌病虫害の発生を抑えるための作業です。太陽熱を利用する方法や、農薬を用いる方法があります。
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- 接ぎ木栽培
- 異なる植物の枝や芽(穂木用品種)を、根を持つ植物(台木用品種)に接ぎ合わせて一体化させ、苗を作る栽培方法です。一般に、穂木用品種は果実品質等を重視して選ばれ、台木用品種は病害抵抗性や生育の強さが重視されます。
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- 単為結果性
- 植物が受粉や受精をしなくても子房が発達して果実を形成する性質のことです。着果促進処理や訪花昆虫が必要なくなることで、作業の省力化やコストの大幅な削減につながります。
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- とげなし性
- 植物の特定の部位にトゲが発生しない性質のことです。特にナスの場合、へた、葉、茎にトゲが発生しないことで、収穫・管理作業の効率向上や、果実への傷の防止に役立つ重要な形質です。
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- 半枯病抵抗性
- 半枯病は、Fusarium oxysporum f. sp. melongenaeが原因で発生する土壌伝染性病害です。根から侵入した菌が導管内で増殖し、下位葉の片側から黄変が始まります。萎れを伴わずに落葉が進むのが特徴で、重症化すると枯死する場合もあります。半枯病抵抗性を有する品種では、導管部の褐変や落葉が抑えられ、生育や収量の低下を防ぐことができます。
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- Ralstonia solanacearum species complex (RSSC)
- 植物に感染して青枯病を引き起こす多様な病原性細菌群の総称で、ナス科作物(ナス、トマト、ピーマンなど)をはじめ、幅広い植物に感染します。現在は3つの主要な種(R.solanacearum、 R.pseudosolanacearum、R.syzygii)と、それに含まれる複数の亜種に分類されています。
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- DNAマーカー
- 生物のDNA上にある「目印」のことで、作物の特定の性質(病気への抵抗性や、果実品質など)と結びついています。DNAマーカーの違いを調べることで、育成の早い段階から目的の形質を持つ個体を選びやすくなります。
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