要約
独立行政法人農業工学研究所(理事長 佐藤寛、茨城県つくば市)の農地整備部畑整備研究室の凌(しのぎ)祥之室長らの研究グループは、農林水産省からの委託プロジェクト研究「農林水産バイオリサイクル」の一環で、様々なバイオマスを対象(*1)とし、低コストで高機能化が可能な炭化装置を試作し、群馬県富士見村において実証試験を行っている(*2)。これにより、土層改良や脱臭など様々な用途にあった炭化物を低コストで製造することができ、バイオマス・ニッポン総合戦略の達成及び循環型社会のために必要なリサイクル技術の確立に貢献することができる(*3)。
炭化炉
既往の炭化炉は、温度制御、高機能化ができなかったり、製造費または維持管理費が高かったりで、用途に応えた炭化物を低コストで生産することが難しく、炭化が定着しない一因になっていた。炭化については、木炭を始め様々な蓄積を持つ我が国ですらこのような状況であり、諸外国でもこれらの要求に応える炭化炉が開発されたとの情報は得ていない。 今回試作した装置は、処理能力30kg/hr (原料ベース)であり、1)温度制御が可能,2)低コスト(自燃)を目指し,3)賦活及び添着などの高機能化、活性化(*4)が可能、という特徴を備えたものである。これにより、土層改良及び脱臭など用途に応じた炭化物の製造が、低コストで可能となる。
装置の特徴
- 温度制御が可能である。炭化物の性状は材料及び温度などの炭化条件に依存する。そのために温度の制御は重要な要素である。当該装置は最高1,000°Cまでで自由に温度の制御が可能である(温度によって炭化物の性状は異なる)。
- 乾留ガスを再利用し、自燃に近い炭化が可能であり、炭化物の製造が低コストで可能である。
- 当該装置は、賦活及び添着などの高機能(活性)化が可能であり、バイオマス材料の選択や炭化温度の制御によって、活性炭及び木炭に相当する機能を持つ炭化物の製造が可能である。
- 当該施設は外部加熱式、ロータリーキルン方式であり、例えば1,000人規模の農業集落排水処理施設を対象とした場合、1週間に数日程度の稼動で集落排水汚泥を処理できる(含水率50%程度の乾燥汚泥ベース換算)。また、様々なバイオマスの炭化が可能である。
実証試験
これまで、試作元で様々な基礎試験を行い、各種の機能が確認されており、現在、群馬県富士見村の東部農業集落排水処理施設に併設して、農業集落排水汚泥を主な対象とした各種の実証試験を行っている。
実証試験内容
- 炭化物の製造にあたり、タールなどの不要物が精製され、炭化機能が低下することが懸念される。炭化炉の摩耗性及び持続性などを検討する。
- 実用稼動スケジュールにおいて、高機能化の安定性を脱臭機能に基づいて評価する。
試作炭化炉の実用化の効果
この装置は小規模であるが、実証規模の炭化装置の設計における基礎資料となる。これまで、炭化装置は様々あったが、用途に見合った炭化物の製造はなされていなかった。同プロジェクト研究の用途開発における成果を踏まえ、用途に応じた炭化物の製造が、低コストで可能となる。なお、バイオマス由来の炭化物は、土層改良材及び脱臭などの吸着材としての利用が有望視されている。当該装置の開発及び実証試験は、炭化技術の定着に大きく貢献することができ、ひいてはバイオマス・ニッポン総合戦略及び循環型社会のための基礎技術の確立に貢献することができる。この技術は研究開発的な側面もあり、海外への適応も可能である(*5)。
(*数字は補足資料参照番号)