プレスリリース
用水路分水工に設置し水流のみで駆動する揚水ポンプ(同軸メカニカルポンプ)
-化石燃料を使わず環境負荷の軽減に貢献-

情報公開日:2013年9月10日 (火曜日)

ポイント

  • 用水路の分水工に設置し、通過する水流によって、水車と一体化した揚水ポンプ羽根を回転させ、通過する水の一部を揚水するポンプを開発しました。
  • 駆動には電気やガソリンなどの使用は不要です。
  • 揚程は最大2.5m、揚水量は揚程が1mで100~350L/分です。

概要

農研機構 農村工学研究所は、水流のみで駆動する低揚程用の揚水ポンプ(同軸メカニカルポンプ)を開発しました。化石燃料を使用することなく、水路内水位よりも1~2m高い標高の農地へ、毎分100~350リットルを揚水できます。これまで電気やガソリンを使用していた揚水の維持管理費の軽減や二酸化炭素の排出削減に役立ちます。

予算:農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」、課題名「農業水利施設における未利用小規模水力の利活用技術の開発」(平成22-24年度)
特許:特願2013-136908

開発の社会的背景と経緯

農業用水の利用は,灌漑用水の他に農薬散布、農業用機械の洗浄等多目的な利用がされています。これらは、農業用水路から灌漑用水の一部を電動やガソリンポンプによって揚水し利用する場合が多く、動力設備の設置の手間とエネルギーが必要となります。そこで、水路から樋管によって農業用水を分水する箇所(樋管式分水工)の水位を利用し、化石燃料を使用しない無動力で揚水することのできるポンプの開発を目指しました。

(研究の)内容・意義

  • 同軸メカニカルポンプを農業用水路の側面に設置することで、ポンプの上下流水位差による水流がポンプに作用して、水車と一体化した揚水ポンプ羽根を回転させ、ポンプを通過する水の一部を揚水できます(図1、図2)。
  • 開発した同軸メカニカルポンプは、ポンプ口径が200mm、揚水管口径が80mmです。用水路の側面に新たな孔を開けてポンプを設置するのではなく、既存の施設(樋管式分水工)に繋ぐ方法を選びました(図1)。同軸メカニカルポンプを設置した場合、設置前の分水量をQとすると、設置することにより分水量(ポンプ通過水量:Qpass+ポンプ揚水量:q)は60%に変化し、そのうちの10%(従前の分水量の6%)がポンプから揚水されます(図1)。
  • 同軸メカニカルポンプを活用することにより、用水路の水位より高い位置にある農地や給水所へ、化石燃料を使用することなく、無動力で効率良く安定的に水が供給できます(図3)。
  • 開発した同軸メカニカルポンプは、図4で示されているとおり、これまで開発されていた無動力の揚水機と比べて、ポンプ上下流水位差(図1)が1m以下と小さく、揚水量は100~350L/分と大きいとの特徴があります。図4横軸の揚水量は図1のポンプ分水量(q)を、縦軸の揚程は図1のポンプ揚程(y)を、ΔHは図1のポンプ上下流水位差を指します。たとえば、ΔHが0.7mの時に、揚程が1.0mならば250L/分を揚水できますが、揚程を1.5mに大きくすると揚水量は150L/分に減少します(図4の赤丸→黒丸)。また、同じ揚水量で揚程を大きくしたい場合はポンプ上下流水位差を大きくする必要があります(図4の赤丸→緑丸)。

今後の予定・期待

同軸メカニカルポンプの適用場面として、これまで用水路の樋管式分水工について検討を実施し、今後は用水路途中の放流施設、水路の分水工など既存の他施設についても導入の検討を行っていきます。今回開発した同軸メカニカルポンプは、農業用水の一部を洗浄用水や防除用水として利用するために必要な給水施設に、安定的・経済的に水を供給するもので、今後実施される用水路の改修や新たな水利事業において、用水路の路線計画、用水管理の効率化などに貢献できるものと期待しています。

用語の解説

1)揚程
ポンプが水を揚げることのできる高さ。

2)分水工
幹線水路を流れる水の一部を接続する支線水路に分配する施設。

3)樋管式分水工
分水工の型式のひとつで、用水路の側面に樋管を直付けし、併設しているゲートを人力により開閉操作することにより分水量をコントロールする施設。全国どこにでも見られ、小規模な分水を中心に用いられています。

 

図1 同軸メカニカルポンプを用水路に設置したときの水路横断面図図1 同軸メカニカルポンプを用水路に設置したときの水路横断面図

 

図2 同軸メカニカルポンプと水の流れ図2 同軸メカニカルポンプと水の流れ

 

図3 同軸メカニカルポンプによる送水可能な圃場配置(平面図)図3 同軸メカニカルポンプによる送水可能な圃場配置(平面図)

 

図4 同軸メカニカルポンプの性能曲線図4 同軸メカニカルポンプの性能曲線
(ポンプ流入孔口径:200 mm、揚水管口径:80 mm の場合)