プレスリリース
勾配の緩やかな水路で発電できる開放型水力利用装置
-水車自体が水位差を作りエネルギーを取り出す-

情報公開日:2013年9月10日 (火曜日)

ポイント

  • これまで利用が困難であった勾配の緩やかな開水路内の流水のエネルギーを、大きな土木工事を行わずに取り出せる水車を開発しました。
  • 水車に付けられているカバーの開度を調節することで、水路の水が溢れない範囲で水車の上下流の水位差を大きくして、取り出せる流水のエネルギーを作り出します。
  • 幅0.9m、勾配1/500~1/300、流量236L/秒で、最大465W発電します。

概要

農研機構 農村工学研究所は、勾配の緩やかな開水路において、大きな土木工事を行うことなく設置でき、比較的高い効率で発電できる水車を開発しました。水路幅0.9m、水路勾配1/500~1/300の矩形断面水路で、毎秒236Lの流量が流れたときに、465Wを発電できます。エンジン発電機に比べて発電原価{円/kWh:(製造費と耐用年数15年間のランニングコスト)/15年間の発電量}を25~30%削減できます。

予算:農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」、課題名「農業水利施設における未利用小規模水力の利活用技術の開発」(平成22-24年度)
特許:特願2012-213809

開発の社会的背景と経緯

農村地域に多く存在する小水力は、高度経済成長期までは揚水、動力水車として活用されていました。東日本大震災以降、再生可能エネルギーの利活用が社会全体から求められるようになった中で、小水力が再び着目され、特に発電としての利用が期待されています。農業用水を利用した小水力発電は、これまでもダムや落差工などの1m以上の大きな落差のある地点で実施されてきましたが、既設の水利施設で大きな土木工事を行わないで今後新たに実施できる地点は多くありません。一方で水路の大部分を占める緩勾配の開水路部分では流水のエネルギーを取り出すことは非常に難しいので、実施事例は非常に少ないのが現状です。そこで、緩勾配の開水路における小水力を有効に活用できる水車を開発しました。

研究の内容・意義

  • 開発した水車(開放型水力利用装置)には水位調節カバーが付けられています。このカバーの開度を調節して、水車の上流側で水が溢れない範囲内で水深を深くします。一方で水車の下流側からの放流水は、一時的に水深が浅くなります。このように水車自体によって水車設置前よりも水車の上下流の水位差を大きくすることで取り出せる流水のエネルギーを作り出すので、発電が可能になります(図1)。
  • 農業用水路では、灌漑期と非灌漑期で流量が大きく変化します。流量が多い期間は水位調節カバーの開度を大きく、流量が少ない期間は開度を小さくして、水車の上流側で水が溢れない範囲内で水深を一定に保つことができます。
  • 直径1m、カバーを含む幅0.9mの本水車を、幅0.9m、勾配1/500~1/300の矩形断面水路に設置する場合には、単位幅流量が0.1~0.25m3/s/mのときに、発電出力は100~400Wが得られます(図2)。ベストエフォートは465Wであり、この出力で設備利用率を70%とすると、エンジン発電機に比べて発電原価{円/kWh:(製造費と耐用年数15年間のランニングコスト)/15年間の発電量}を約25%削減できます。
  • 農業用水路では降雨時に流量が大きく変化することがあります。水車を設置したままでは水が溢れる危険があります。また、水車のメンテナンス時には水車を水路から持ち上げなければなりません。そこで水路側壁の頂部に水車や発電機などの装置一式を上方に待避させるアームを設置しました(図3)。
  • この水車は水位調節カバー、発電機、アームと一体となった構造であるため、大規模な土木工事を行わず、水路上方からクレーンでつり下げながら取り付けることができます。

今後の予定・期待

開放型水力利用装置を比較的小規模な農業用水路に設置することにより、電力系統から離れたところで照明や電気柵などのための電力を必要とする地域で役立ちます。また、本装置で発電した電力をバッテリーに蓄えるシステムを農村地域に配置することによって、電気自動車など移動機器への安定した電力供給が可能となります。今回開発した開放型水力利用装置は、農村地域における再生可能エネルギーを利用したスマートビレッジの構築に向けて貢献できると期待しています。

用語の解説

1)矩形断面水路
水路の横断面が長方形の水路です。

2)単位幅流量
矩形(長方形)断面水路を流れる流量を水路幅で割った値です。幅1mに流れる流量に換算した値となります。

3)設備利用率
年間設備利用率(%)=1年間で発生した発電電力量(kWh)÷〔定格電気出力(kW)×365日×24時間〕×100

4)堰上げ
水路内に水車など構造物を設置すると、水の流れる面積が小さくなり構造物の上流側の水位が上昇します。この現象を堰上げと呼びます。

図1 開放型水力利用装置を用水路に設置したときの水路横断面図図1 開放型水力利用装置を用水路に設置したときの水路横断面図

 

図2 水路の単位幅流量と発電出力の関係図2 水路の単位幅流量と発電出力の関係

 

図3 水路の上方への待避方法図3 水路の上方への待避方法