プレスリリース
「無資材・迅速・簡単」な穿孔暗渠施工機を開発

情報公開日:2013年11月 6日 (水曜日)

ポイント

  • トラクターに装着する穿孔暗渠施工機「カットドレーン」を開発しました。
  • 「カットドレーン」は、圃場の土をブロック状に切断して動かすことで、約70 cmまでの任意の深さに四角形の空洞を成形します。
  • 畦を超えて圃場外へ通じる排水口も成形でき、暗渠と同様の構造を作れます。
  • この施工機により、農家が自分で穿孔暗渠を作ることができます。

概要

農研機構は、株式会社北海コーキ、公益財団法人北海道農業公社と共同で、資材を用いることなく通水空洞を作る穿孔暗渠*1の施工法とその施工機を開発しました。これにより農家が無資材で迅速・簡単に暗渠を施工することができます。

開発した穿孔暗渠施工機「カットドレーン」は、トラクターに装着した施工機のユニットを土に挿入して、暗渠と同程度の約70cmまでの任意の深さに10~15cm四方の大きな空洞を無資材で作ります。この空洞の成形方法は、従来の弾丸暗渠と異なり、土を四角形のブロックに切って動かすことで空洞を作る新しい方法です。空洞は排水路につなげることもできます。

成形した空洞は、これまでの暗渠と同じ役割を果たし、圃場外に余剰水を排除します。排水能力はこれまでの暗渠と同程度です。多湿黒ボク土では施工2年後でも排水を確認しています。重粘土や泥炭土ではこれ以上の耐用年数が期待できます。

予算:農研機構運営費交付金
特許:特願2013-135684


詳細情報

開発の社会的背景と経緯

日本では、雨水などが溜まり排水性に劣る農地が依然として多くあります。このような農地では、農作物の品質が低下し、適切な収量も確保できません。加えて現在、大豆や小麦、野菜などの生産強化が求められる中で、局地的な長雨や集中豪雨などが増加傾向にあり、農地の排水性を良好に保つ必要があります。

農地の排水性を良好にするには、地下1m程度に排水管やモミガラなどを埋める「暗渠」などの排水施設の整備が有効で、公共事業により進められています。

これまで、農地の排水性を良好にするには、(1)排水管やモミガラなどの資材を多く使用するため費用と時間のかかる「暗渠」と、(2)暗渠の機能を補助する構造で、資材を使用しないため耐久性に劣る「弾丸暗渠」や「心土破砕」、などしかありませんでした。抜本的に農地の排水性を良好にするには「暗渠」を整備する必要がありますが、限られた予算の中で、短期間に広域の農地に対して整備することはできませんでした。

そのため、生産現場からは、容易かつ安価で、資材を使用した暗渠と同様の効果のある技術が求められていました。

研究の内容・意義

【農家ができる抜本的な排水改良 穿孔暗渠施工機「カットドレーン」の特徴】

開発した施工機は、農家が無資材で迅速・簡単に施工できる新たな穿孔暗渠施工機です。施工方法は、図1に示すように、1土を縦長で四角形のブロックに切断する、2土の四角ブロックを持ち上げて、下に四角形の隙間を作る、3その隙間の横の土を別の四角形ブロックを切り出し隙間の中に寄せることで溝下部の横に四角形の通水空洞を成形するものです。この技術名は、切断した土のブロックを動かし空洞を作るものであることから「カットドレーン」としました。カットドレーンは、施工機をトラクターに装着し、走行させることで土の深い位置に通水空洞を成形できます。

トラクターを走らせるだけなので、営農技術として対応でき、農家が自分で施工する暗渠の整備よりとても簡単な技術です。また、畦を超えて機械ユニットを排水路内に下ろし、排水路の法面から通水空洞を開けることができ、余剰水を排水路に排除することができます(写真1)。

【カットドレーンの排水機能】

カットドレーンは、暗渠と同様に排水路に排水できます。施工後のカットドレーンの排水量は、暗渠と同じ程度のピーク排水量5 mm/hを確保でき、暗渠としての機能を十分に有しています(図2)。排水機能の持続性は土壌により異なりますが、適した土壌では数年が経過しても排水機能を維持しています。

【カットドレーンの市販機】

カットドレーンは1連式の施工機が標準になります(図1)。北海道のような大型トラクターがあり、大面積の農地に対して効率的に施工する必要がある場合は、心土破砕機と同様に2~3本の空洞を一度に空ける機械も準備しています。

【カットドレーンの適用条件】

カットドレーンは、重粘土や泥炭土などの多湿な土壌に対する適用性は高いのですが、排水管を用いないことから、施工時の空洞の成形性や空洞内の流水による土壌の崩落などを考慮しなければなりません。導入・使用にあたっては、以下の点に留意する必要があります。

  • 砂50%以上又はシルト50%以上では空洞が2~3年後まで維持できないので、数年ごとの再施工などの対応が必要です。
  • 砂礫層あるいは5cmを超える石礫に富む場合、直径5cmを超える埋木がある場合は、施工できません。
  • 傾斜圃場では空洞内の排水の流速を抑えるため、穿孔の勾配を1/500以下に抑えるよう施工方向を調整する必要があります。
  • 穿孔の間隔は、2.5 m~5 m間隔を標準とし、排水の状況を勘案して間隔を調整する必要があります。
  • 主に転換畑、畑、草地で使用します。水田は湛水する必要があるので、既設の暗渠に接続する補助暗渠として使用します。水田での施工方向は既設の暗渠との連結を考慮して、斜め方向あるいは短辺方向とします。

今後の予定・期待

これまで暗渠による排水改良は、公共事業によって計画的に整備されてきました。しかしながら、田畑輪換や輪作、気象条件などにより、早急に排水改良が必要な場合もあります。カットドレーンは、農家の都合に合わせ手軽に施工できる排水改良技術として期待されます。

カットドレーンは、資材を必要とせず、農家が手軽にトラクターの走行だけで施工できるので、多様な利用方法が考えられます。たとえば、作物収穫後や初冬(一定厚の薄い積雪であれば施工可能)から初春の農作業のない時期に施工し、次の作付けに向けた排水改良として行われることが想定されます。また、長雨時の表面滞水を排除するためなど、緊急的な対応が必要な時に利用できます。

施工機の価格は80~150万円(機種別;現在は都度見積による受注生産)となる予定です。個人が所有することもできますが、農協や機械利用組合などの地域組織が導入して共同利用することも想定できます。

用語の解説

*1 穿孔暗渠
穿孔暗渠は、地中の掘削孔の土砂を外に排出して中空構造とする工法です。従来の工法は、トレンチャーやラダー型掘削機などの掘削機によって溝を掘り、地表部の側方の土を押し寄せて蓋を閉じます。主として農家が泥炭地で排水改良する際に業者請負によって施工される場合が多いです。(農林水産省構造改善局(2000):土地改良事業計画設計基準「暗きょ排水」技術書,p.155.)

図1 穿孔暗渠施工機「カットドレーン」による暗渠形成の手順

図1 穿孔暗渠施工機「カットドレーン」による暗渠形成の手順図1 穿孔暗渠施工機「カットドレーン」による暗渠形成の手順

 

写真1 穿孔暗渠施工機「カットドレーン」の施工状況写真1 穿孔暗渠施工機「カットドレーン」の施工状況図2 穿孔暗渠施工圃場の排水機能

図2 穿孔暗渠施工圃場の排水機能