プレスリリース
潤滑油やグリースの劣化度を簡易に評価する携帯型測定装置を開発

- ポンプ設備の劣化度の評価に活用 -

情報公開日:2014年3月18日 (火曜日)

ポイント

  • 潤滑油やグリースの劣化度を、簡易に評価する携帯型測定装置を開発しました。
  • 小型軽量であり取扱いが容易なため、専門知識がなくても潤滑油やグリースの劣化度を評価することができます
  • 施設の管理者自らが現地で瞬時に評価することができるため、潤滑油などの分析に掛かる時間とコストを考える必要がありません。
  • 潤滑油やグリースを用いる機械設備は全て対象となるので、幅広い分野での利用が期待されます。

概要

農研機構は、トライボテックス株式会社と共同で、潤滑油やグリースの劣化度を簡易に評価する携帯型測定装置を開発しました。これにより農業用ポンプ設備の性能低下の要因となる潤滑油などの劣化度を簡易に判定することができます。

ポンプ設備の軸受や減速機に使用されている潤滑油やグリースを採取し、測定装置の検出部に塗布するだけで劣化度を簡易に判定することができます。開発した測定装置は小型軽量であり取扱いが容易なため、専門の分析機関に依頼しなくても、農業用ポンプ設備の管理者が日常点検の中で、潤滑油などの劣化度を現地で瞬時に評価することができます。

予算:農研機構運営費交付金、農林水産省官民連携新技術研究開発事業補助金
特許:特願2014-16164


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

基幹的な農業用ポンプ場は全国に2,800カ所以上ある重要な施設ですが、これらの多くは老朽化が進行しており、7割が耐用年数を超過している状況にあります。補修・改修の優先順位を決定し、適時適切に維持管理を行うためには、施設の状態を的確に診断し、性能低下している施設から効率的に保守・保全する必要があります。そこで、近年、ポンプ設備の回転部から採取した潤滑油やグリースを分析することで、ポンプ設備の機能診断を実施しようとする技術が試行されています。

機械の性能低下を引き起こす要因として、潤滑油やグリースの酸化劣化や水分上昇などが挙げられます。しかし、現在、これらを詳細に診断するためには、専門の分析機関に依頼する必要があり、時間とコストが掛かるという問題点があります。そこで、本研究では、施設の管理者自らが現地で簡易に潤滑油などの劣化度を測定し、診断することができる装置を開発しました。

研究の内容・意義

【機械の性能低下を引き起こす潤滑油やグリースの劣化度を評価】

ポンプ設備では、滑動を良くするために、軸受や減速機などの回転部に潤滑油やグリースが使用されています(写真1)。潤滑油などの劣化の多くが酸化劣化と水分上昇であることから、潤滑油などの酸価*1(mgKOH/g)と水分量(ppm)を測定すれば、その劣化度を概ね推定することができます。

【携帯型測定装置の構成と特徴】

開発した携帯型測定装置の外観を写真2に示します。試作機の外寸は縦195mm、横95mm、高さ40mmで、重さは約500gと小型軽量です。測定装置は、図1に示すように、赤外線を透過するプリズム(ATR*2結晶)を用いた検出部と、評価部および表示部から構成されています。本装置は小型軽量であり取扱いが容易なことから、専門知識がなくても潤滑油やグリースの劣化度を現地で瞬時に評価することができます。そのため、潤滑油などの分析にかかる時間とコストを考える必要がありません。

本装置の特徴は、潤滑油などの酸化劣化の指標となるカルボキシル基により赤外線が吸収される帯域と、水分により吸収される帯域の2種の赤外線通過帯域フィルタを採用し、それらを受光素子の前面に並列配置して自動スライドさせることにより、2帯域の赤外線を簡易な機器構成で分光可能にした点にあります。ATR結晶内部を通過した赤外線は、結晶表面に塗布された潤滑油などの影響を受けて反射光のエネルギーが減少します。2種の帯域フィルタを通過した赤外線の強度を受光素子で電気的に検出することによって、潤滑油やグリースの酸価と水分量を各々測定することができます。

【携帯型測定装置の使用方法】

ポンプ設備の回転部から採取した潤滑油またはグリースを、検出部のATR結晶表面に塗布するだけで、潤滑油などの劣化状態を判断できます。

潤滑油を五段階に酸化劣化させて、それぞれの酸価と測定した電圧の関係を図2に示します。酸価の値が大きいほど測定される電圧の値は小さくなり、両者には線形の関係が認められます。その関係を評価部に記録しておくことにより、酸化劣化の程度を三段階に評価(良好、注意、異常)して表示することができます(図2参照)。

水分量についても同様に、スイッチで測定モードを切り替えるだけで評価することができます。

今後の予定・期待

26年度に、装置の使用手順を簡単にまとめた普及マニュアルを作成する予定です。

開発した装置は小型軽量であり取扱いが容易なため、潤滑油などの劣化度を現地で瞬時に定量的に評価することができることから、多くのポンプ場を管理する土地改良区*3の技術者や、施設の機能診断調査を行う国や自治体の職員などに利用が見込まれます。

本装置は、農業用ポンプ設備の日常点検への活用が期待されます。施設を管理する技術者自らが潤滑油などの劣化度を簡便に把握することができれば、施設の長寿命化および維持管理費縮減に大きく貢献できます。

農業用ポンプ設備のみならずゲート油圧作動設備や、電力分野、下水道分野、自動車など潤滑油やグリースを用いる機械設備は全て対象となり、幅広い分野での利用が期待されます。

現在、携帯型測定装置は試作の段階であり、試作機の価格は約60万円と見積もっていますが、量産すれば価格は下がる予定です。

用語の解説

*1 酸価
試料1g中の酸を中和するために必要な水酸化カリウム(KOH)のmg数。油の劣化の度合いを表す尺度になる。
(日本トライボロジー学会(2001):トライボロジー辞典p.96)

*2 ATR(Attenuated Total Reflection、減衰全反射)法
ATR法は、屈折率の高い赤外透過プリズムに試料を密着させ、全反射した赤外線による吸収スペクトルを得る方法である。全反射する赤外線は密着した試料側に波長の1/10程度滲み出し、試料で吸収される。赤外線を多重反射させることにより、表面や薄膜試料のS/N比の良いスペクトルを得ることができる。
(日本トライボロジー学会(2001):トライボロジーハンドブックp.394)

*3 土地改良区
農業用用排水施設の管理等を行う土地改良事業を実施することを目的として、地域の関係農業者により組織された団体

写真1 潤滑油とグリースの採取状況写真1 潤滑油とグリースの採取状況

写真2 携帯型測定装置の試作機

写真2 携帯型測定装置の試作機

図1 装置の概略ブロック図図1 装置の概略ブロック図

図2 潤滑油の酸価と電圧の関係(管理基準値および三段階評価はイメージ)

図2 潤滑油の酸価と電圧の関係
(管理基準値および三段階評価はイメージ)