開発の社会的背景と研究の経緯
東日本大震災以前の海岸堤防の設計においては、津波が海岸堤防を乗り越えることが想定されておらず、越流した津波によって多くの海岸堤防に壊滅的な被害が生じました。
沿岸域では海岸堤防の機能の一部喪失により、津波が減勢されることなく後背地深くまで流れ込み、甚大な被害を招いた地域が多く発生しました。このような状況を受けて中央防災会議(H23.12)では、最大級の災害に対して被害を最小限に留める減災対策の導入の必要性が提唱され、津波に対して粘り強い強靭な海岸堤防の構築技術の必要性が示されました。
農研機構では、地震や津波の衝撃や越流に粘り強く抵抗する強靱な海岸堤防構造とその構築技術を開発することを目的に、(株)竹中土木と共同で研究を実施し、今回、「地震・津波に対して強靭な三面一体化堤防」を新たに開発しました。
研究の内容・意義
今回開発した「三面一体化堤防」の主な構造的特徴と期待できる効果を以下に挙げます。
【特徴】
- 堤防表面にジオテキスタイルで固定されたプレキャストブロックとセメント改良土層を用いることによる、盛土本体とも一体化した強固な表面被覆構造です。
- ブロック同士をジョイントで結合するとともに、堤防の天端のコンクリートとも連結して、さらにのり先地盤をセメント改良土で改良し、洗掘に対して強化することで、表と裏ののり面および天端の三面が一体化した、安定した被覆構造です。東日本大震災級の津波を想定した実験等によって津波に対する粘り強さと強靭性が確認されています【図1】。
- 設計法、土木資材など各種の要素技術の開発により、従前の緩勾配堤防に比べて堤防を急勾配化することができるので、低コストで建設できます。
【図3】は実際に製作した新型堤防モデルの実証堤防です。
【期待できる効果】
- 津波の衝撃や越流による被覆ブロックの剥離・不安定化に対して安全です。
- 従来工法に比べて、被覆ブロックがジオテキスタイルで固定され、かつ、盛土がジオテキスタイルとセメント改良土によって強度が向上するので、耐震性を大幅に向上することができます。
- 従来工法に比べて急勾配化が可能であるため、10%程度のコスト削減が見込め、また限られた建設用地でも適用できます。
- プレキャストコンクリートブロックの使用により、現場での生コン等の資材不足にも対応できます。
- ブロックの段差によって、幾何学的な形状を持った法面に仕上げることができます。
- ブロック部分にステップを設けることで、緊急時の避難を容易にすることもできます。
なお、設計法、土木資材など各種の要素技術や構築技術の開発にあたっては、産学の技術協力を得ました【図4】。また、東北農政局で開催されている新技術導入推進委員会に提案し、「津波に対してすぐに壊れない粘り強い海岸堤防等の構築技術」について技術的助言を受けました。
今後の予定・期待
H26~H27年度の農林水産省の海岸堤防復旧事業へ技術提案を行い、普及に結びつける予定です。
今後、東日本大震災の復興事業に加え、東南海トラフ地震で津波の被害が予想される地域での活用が期待されます。
用語の解説
*1 天端
堤防の一番高い部分。
*2 ジオテキスタイル
盛土を補強するための高分子材料で作られたネット。
*3 プレキャストコンクリートブロック
工場で予め製造してあるコンクリート製のブロック、現場ではそれを積み重ねて施工する。新たなコンクリート成形は不要となるので作業性が向上する。
*4 セメント改良土
土にセメントを混ぜた地盤材料。
*5 農研機構が開発したジオテキスタイルによる耐震技術
震度6強の地震に対しても壊れない堤防の補強工法として、実物大の模型を使い、兵庫県南部地震を作用させた震動実験等を通じて開発した技術。
*6 のり先
のり面の最下端の部分。
*7 洗堀
流水や波浪により河岸、海岸または河床や海底などの土砂が洗い流されること。
図1 新型堤防の概略図(左)と開発に当たって行った実験例(右)
図2 三面一体化堤防モデルの例
図3 実際に製作した新型堤防モデルの全景
図4 研究開発体制