開発の社会的背景と経緯
農業用水等の資源は、これまで集落などの共同活動によって守られてきました。また、これらの資源は農業だけでなく農村の豊かな自然環境や景観を形づくる上でも大きな役割を果たしています。一方、農村地域の高齢化や人口減少等に伴い、これらをこれまでどおり地域で適切に保全管理していくことが困難になっています。このため本年度から「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」が施行され、地域活動に対する支援が行われることとされています。しかしながら、その対象となる水路の目地補修等については、「簡単」「長持ち」「安い」といったニーズに十分に対応する技術は確立されていません。
研究の内容・意義
【漏水補修テープの特徴】
開発した漏水補修テープは基材層*2と粘着剤層がともにゴム系の材料を使用しています(写真1)。一般的なモルタル補修やアルミニウムフィルムと改質アスファルトを使用した従来の製品(写真2 従来の工法1)に比べ、水路目地部やひび割れ部の気温差による伸縮や、摩耗による水路表面の凹凸に対する追従性が高いことが特徴です。これは、開発したテープが持つ、非常に変形しやすく、わずかな力で引っ張るだけで伸長する性質によるものです。
また、現地での施工を省力化するため長手方向に切れ目のある剥離紙を設け、これを剥がしながら貼り付ける構造としました(写真1)。
【シーリング材が不要でコストが安価】
水路目地部の伸縮や表面の凹凸に対する追従性が同等であるシーリング材と保護テープを組み合わせた工法(写真3 従来の工法2)との比較では、材料費が半額程度(目地施工長1mあたり約1,000円)と安価です。また、シーリング材を塗布する作業が不要で、簡単に、かつ、短時間で施工を行うことができます。
【時間の経過とともに漏水を低減・遮断】
新たに開発したテープは非常に変形しやすい性質があり、水路内の水圧に押されて水路表面の凹凸に対する追従性がさらに高まり、時間の経過とともに漏水量を低減・遮断することができます(写真4)。
【重ね貼りが容易で複雑な形状の箇所の施工も可能】
水路の清掃の際にスコップでテープに穴をあけてしまった場合などにも、新しいテープを必要な大きさに切り取って重ね貼りすることで容易にパッチ補修することができます。また、水路の分岐部等に設けられる枡の隅角部など形状が複雑な箇所もテープを分割して重ね貼りすることで施工が可能です。
今後の予定・期待
今回開発した漏水補修テープは、日東電工株式会社から「水路補修ブチテープ」という商品名で今秋以降に発売開始される予定で、どなたでも購入することが可能となります。
現在は農地の表面より水路底が高い用水路等に施工対象を限定しています。これは水路背面からテープへ作用する外水圧が大きな場合にテープが剥がれる可能性があるからです。現在、室内試験等により対策方法を検証しており、その実用化によって、排水路を含む国内に数多く存在する農業用用排水路等に広く利用されることが期待されます。
用語の解説
*1 多面的機能支払:農業・農村が有する多面的機能が適切に維持・発揮されるよう地域の共同活動を支援する国の交付金制度です。
*2 基材層:粘着剤が塗られているフィルム状のものを「基材層」と呼びます。



