プレスリリース
(研究成果) AI病虫害画像診断システムをWAGRIで提供開始

- 事業者のサービスを通じてAI病虫害診断の普及へ -

情報公開日:2021年3月15日 (月曜日)

農研機
法政大
株式会社ノーザンシステムサービス

ポイント

農研機構、法政大学、ノーザンシステムサービスは、農業データ連携基盤(WAGRI)1)を通じ、農業情報サービス事業者向けのAI2)病虫害画像診断システムの提供を開始します。当システムを利用することで、各事業者は一般ユーザ向けの病虫害画像診断サービスを構築・提供することができます。当システムは一般ユーザから送られた画像を蓄積して活用し、継続的に診断精度の向上を目指します。本日は第一弾として、トマト・キュウリ・イチゴ・ナスの4種類の野菜/果物を対象とする葉表(はおもて)病害判別器3)を公開します。

概要

農研機構、法政大学、ノーザンシステムサービスは、WAGRIを通じて、民間の農業情報サービス事業者が利用可能なAI病虫害画像診断システムの提供を開始します。提供するシステムを利用することで、各事業者は病虫害画像診断サービスを構築し、生産者などの一般ユーザに向けて診断サービスを提供することができます。高齢化による熟練者の減少や経験の浅い新規就農者・新規参入者への対応、あるいは温暖化により従来発生がなかった(経験のない)地域での病害虫発生への対策として、現場で迅速に診断できるサービスへの活用が期待されます。なお、提供するシステムは、一般ユーザから診断のために送信される画像を蓄積・活用し、継続的にAIを改良することで画像判別の精度向上を目指します。
本日は、病害虫AI診断コンソーシアム(代表機関:農研機構)によって開発されたトマト・キュウリ・イチゴ・ナスの4種類の野菜/果物のAI葉表病害画像診断技術(診断精度は72.6%~89.2%と実運用に十分な高さです)に基づくシステムを先行して公開します。同じ4作物を対象とする、葉裏などの他の部位やAI虫害画像診断(診断の精度82.1%~85.4%)についても、2021年4月に公開を予定しています。同時に、活用を検討する民間事業者を対象に、農家等への診断サービスを実現するアプリケーションソフト(デモアプリ)のお試し利用を無償で提供します。WAGRIを活用したデータ駆動型農業の推進のため、当システムは、これからもさまざまな農作物の広範な病虫害に対応できる様、判別器を追加するとともに、WAGRIを通した民間事業者への公開によって、導入コストを抑えて迅速に農業現場へサービスが展開されると期待されます。

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト「AIを活用した病害虫診断技術の開発」、内閣府官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構農業情報研究センター センター長 本島 邦明
研究担当者 :
農研機構農業情報研究センター 農業AI研究推進室 上級研究員 山中 武彦
広報担当者 :
農研機構農業情報研究センター 連携企画室 大久保 さゆり
AI葉表病害画像診断の開発
研究担当者 :
法政大学 生命科学部 応用植物科学科 専任講師 鍵和田(かぎわだ)
法政大学 理工学部 応用情報工学科 教授 彌冨(いやとみ)
広報担当者 :
法政大学 総長室広報課
AI虫害画像診断の開発
研究担当者 :
ノーザンシステムサービス株式会社 和山 亮介

詳細情報

開発の社会的背景

日本の農業現場には多様な病虫害が発生しており、その防除には多大な費用と労力が費やされています。また、近年の地球温暖化の影響で、病害虫による被害が拡大するとともに、これまで発生しなかった病虫害が発生する懸念があります。高齢化する生産者やそれに伴う熟練者の減少への対応、経験の浅い新規就農者・新規参入者の安定営農を支えるためにも、高度な専門性を必要とする病虫害の診断・防除の充実した支援は欠かせません。一方で、人工知能(AI)による画像判別技術は、特に2010年代後半から急速に精度が上がり人間の認識能力を超えつつあります。このため、農業現場からの病虫害診断要請への迅速な対応を目指し、AIによる画像判別を活用した手軽で安価な病害・虫害診断サービスが求められています。

研究の経緯

農林水産省人工知能未来農業創造プロジェクト「AIを活用した病害虫診断技術の開発」により、病害虫AI診断コンソーシアム(代表機関:農研機構、参画30機関)が、2017~2021年の5か年でトマト・キュウリ・イチゴ・ナスの主要病害・虫害に対応できるAI判別器を開発しています。このプロジェクトでは、24都道府県の公設試験場が参画し、専門家による確度の高い正解ラベル付き病虫害画像を大量に収集し、精度の高いAI判別器の開発が進んでいます。この技術を広く普及させるために、多くの民間農業情報サービス事業者が手軽に利用できる仕組みづくりを進めました。

研究の内容・意義

農作物の病害虫の形態や病徴は似かよっているものが多いため、AI画像判別器を十分な診断精度が出せるまでに学習させるには、多くの専門家が多大な労力と時間をかけて正解ラベル付き画像(病虫害の正確な診断がついた画像)を大量に集める必要があります。今回、農研機構と都道府県公設試験場の専門家が、それぞれの専門分野の病害・虫害画像を大量に収集しました※。収集した画像を用い、機械学習に精通した法政大学、ノーザンシステムサービスと共同研究を進めることで、実運用精度の高いAI病虫害画像判別器を作ることに成功しました。
  • 法政大学が開発したトマト・キュウリ・イチゴ・ナスの4作物の葉表を対象とする病害診断システムの提供を開始します(図1)。このシステムでは、現在、農業現場で問題になっている主要な病害数種(例えばトマトについては、うどんこ病、灰色かび病、すすかび病、かいよう病など)に罹患している確率を計算します。専門家が各病害1種類当たり数百から約6,000枚の診断付き学習画像を使って、背景を除去したり、様々なシチュエーションに応じた画像を人為的に合成して画像枚数を増やすことで、実用精度で72.6%~89.2%を達成しました。この精度は、学習に使った画像の撮影場所とは全く異なる地域で撮影した画像を使って検証した結果で、実運用に耐えられるレベルです。
  • ノーザンシステムサービスは同じくトマト・キュウリ・イチゴ・ナスの4作物の葉表、葉裏を対象とするAI虫害画像判別器を開発しました。こちらも実用精度で82.1%~85.4%を達成しています。現在、WAGRIへの搭載を準備中ですが、作業が終了し次第公開します。
  • これらの判別器は、AI病虫害画像診断のためのWAGRI-API4) として民間事業者が利用可能な形で提供されます。さらに 、一般のユーザからAPIを通じて病虫害判定のために送信された画像は、個人情報の保護に配慮しながら農研機構の統合データベースに蓄積・管理され、データの精査、専門家による再ラベリング、半教師付き学習5)などにより、更なるAI病虫害画像判別器の精度向上に利用されます(図2)。
  • AI病虫害画像判別WAGRI-APIは、WAGRI利用会員を対象に、公開後1年程度の期間、無償で提供いたします。ただし、WAGRIをご利用いただくには、事前に有料の会員登録が必要となりますのでご留意ください。会員登録は以下によりお申込みください。
    【農業データ連携基盤(WAGRI)利用申請】
    https://www.naro.affrc.go.jp/laboratory/rcait/wagri/
    なお、「農業データ連携基盤協議会」の会員(WAGRI利用会員とは別で無料)は、AI病虫害画像判別WAGRI-APIの活用イメージを無料の携帯端末用デモアプリで体験いただくことが可能です。協議会会員登録、AI病虫害画像判別WAGRI-APIやデモアプリの体験については以下の問い合わせフォームよりご連絡ください。
    【お問い合わせフォーム】
    https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/research

※撮影した正解ラベル付き病害・虫害画像は無償で公開されています(クリエイティブコモンズ 表示 4.0 国際https://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/damage/)

今後の予定・期待

現在、農研機構では、社会ニーズの高い園芸作物や果樹、野菜の主要病害・虫害の画像収集を進めており、2021年度中に、順次、追加のAI画像判別器をWAGRI-APIに搭載してゆく予定です。法政大学、ノーザンシステムサービスがこれまで培ったノウハウを活用し、先行する4つの作物で識別能力が向上した判別器を転移学習6)に使用することで開発スピードを加速していきます。現在実現できる精度の中で病害虫防除のお役に立ちながら、継続して成長するAI病虫害画像診断システムの枠組みにより、日本の農業に貢献します。

用語の解説

WAGRI
農業データ連携基盤(WAGRI)は、内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」で開発されたデータ連携のためのプラットフォームです(https://wagri.net、2021年1月接続確認)。WAGRIに参画することで、民間企業の様々な有償データに加えて、農業関係の様々な公的なデータ(土地・地図情報、土壌、気象、市況など)やサービス(作物生育・収量予測など)を商用利用することができます。[ポイントへ戻る]
AI
人工知能(AI: Artificial intelligence)とは、単純にコンピューターに演算をさせるのではなく、これまで人間にしか行えなかった理解や推論、提案などを行うコンピューターの仕組みのことです。画像識別のAI分野では、人間の神経細胞の情報伝達を模したニューラルネットワークというアルゴリズムが長年使われてきましたが、コンピューターの性能向上に伴い、たくさんの疑似神経細胞の層を持つ深層学習器(畳み込みニューラルネットワークConvolutional Neural Network)が開発され飛躍的に認識能力が向上しました。[ポイントへ戻る]
判別器
ここでは、機械学習で得られた特徴を分類するアルゴリズムをさします。一般的に、AIによる画像識別プロセスは、画像から特徴を学習する過程と、学習によって得られたモデルを使って新しい画像の特徴を分類する実用過程に分けられます。学習によって得られたモデルを「判別器」といいます。[ポイントへ戻る]
API(Application Programming Interface)
AI病虫害診断サービスで使用するアプリケーションに必要な情報をWAGRIに問い合わせると、WAGRIが契約するデータ提供者へWAGRIから問い合わせが行われ、結果がWAGRIからサービスアプリケーションに届きます。これらのやり取りを仲介する仕組み、または通信方法をAPIと呼びます。AI病害虫画像診断システムは、WAGRIに構築されたAPIとしてICTベンダーなどの民間事業者へ提供され、それらの事業者を通じたサービスとして利用することができます(一般の方による直接の利用には適していません)。[研究の内容・意義へ戻る]
半教師付き学習
少数の正解ラベル付き画像データを使って、一般ユーザから送られてきた大量のラベルなし画像を効率的に利用する機械学習方法。[研究の内容・意義へ戻る]
転移学習
別の画像グループで学習をさせた学習済みモデルを、別の画像グループの判別のために活かす学習方法。全くゼロから学習させる場合に比べて、学習の効率が高く、最終的な精度も向上することが知られています。[今後の予定・期待へ戻る]

参考図

図1 公開予定の判別器の仕様概要
今回公開する4 作物の病害葉表判別器(開発元:法政大学)は、学習に使った画像の撮影場所とは全く異なる地域で撮影した画像を使って検証した精度が73%~89%と実運用に耐えられるレベルです。同様に高精度な4 作物の虫害判別器(開発元:ノーザンシステムサービス)も近日公開します。
図2 病害虫防除に役立ちながら成長するAI病虫害診断
WAGRIから公開されるシステムは、一般ユーザから診断のために送信される画像を蓄積して活用し、継続的にAIを改良することで画像判別の精度が向上します。現在実現できる精度の中で病害虫防除に役立ちながら、継続して成長するAI病虫害診断システムを実現します。今回の4作物の病害葉表判別器の提供からスタートし、徐々に対象作物を拡大していきます。