プレスリリース (研究成果) AIを活用した「ばれいしょ異常株検出支援システム」の試作機を開発
- 種いも生産ほ場へのシステムの普及を目指して -
農研機 構
シブヤ精機株式会社
十勝農業協同組合連合会
ポイント
農研機構、シブヤ精機株式会社、十勝農業協同組合連合会は、市販のほ場管理車両を土台に、AIを活用したばれいしょ異常株検出支援システムの試作機を開発しました。
種ばれいしょの安定供給上、重要な栽培管理工程である異常株の抜取り作業において、病害感染などにより生じた異常株をAIが検出し、生産者に知らせます。
本システムの普及により種ばれいしょ生産の効率化が図られ、我が国の基幹作物であるばれいしょの種苗生産面積の回復や担い手不足解消への貢献が期待できます。
概要
ばれいしょ(じゃがいも)は、一般的には種子ではなく「種ばれいしょ(種いも)」を植付けし栽培する作物です。この種ばれいしょ生産は、高齢化などを背景に、栽培技術の維持・継承や作業の軽労化が喫緊の課題となっています。また、種ばれいしょを種苗として用いるため、一度ウイルス病などに感染すると防除することが困難です。健全無病な種ばれいしょの安定供給には、病気に感染したことで地上部の形状が異常となる株(以下、異常株)などを目視で確認して抜き取る作業(以下、抜取り作業1) )が不可欠ですが、罹病の有無を的確に判定できる経験者や、広大なほ場から異常株を搬出する労力の確保が課題となっています。そのため、経験の浅い生産者などでも確実に抜取り作業が可能になるように、異常株の判定を技術的に支援しつつ軽労化を図る仕組みが求められています。
そこで農研機構、シブヤ精機株式会社、十勝農業協同組合連合会は、種苗管理センターでの試験導入と種ばれいしょ生産現場での精度検証を経て、広大なばれいしょほ場から異常株を検出し、その位置を特定して作業者に知らせる異常株検出機構をほ場管理車両に搭載した「ばれいしょ異常株検出支援システム」の試作機を開発しました。2026年度から順次、道内複数JAに試験導入します。試験で得られた結果を基に改良することで実用機につなげます。
関連情報
予算 : 運営費交付金、生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」「戦略的スマート農業技術の開発・改良事業(JPJ011397)」
問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 基盤技術研究本部 農業情報研究センター
センター長高山 茂伸
研究担当 者 :
同 農業情報研究センター AI研究推進室 認識・推定グループ
上級研究員大石 優
同 北海道農業研究センター 寒地畑作研究領域 環境病害虫グループ
グループ長大木 健広
同 北海道農業研究センター 寒地畑作研究領域
畑作情報・工学グループ 上級研究員津田 昌吾
同 種苗管理センター 生産連携部 連携推進課
課長小林 華代子
主任調査員小林 恵
同 種苗管理センター 生産連携部 種苗生産課
主任調査員鈴木 智
同 本部 人事部 人事管理役(前総括執行役)
村上 則幸
シブヤ精機株式会社 システム本部センサ技術部
係長山本 一哉
広報担当 者 :
農研機構 基盤技術研究本部 基盤研究理事室
室長田口 文緒
詳細情報
開発の社会的背景
ばれいしょ(じゃがいも)は世界4大作物のひとつであり、我が国では年間約230万トンの生産量を有する基幹農作物です。一般的には種子ではなく種ばれいしょ(種いも)を植付け栽培します。種ばれいしょを植えると約10個の子いもが収穫でき、増殖率は一作で10倍程度と少ないことから、一般生産者が必要な種ばれいしょ数を確保するには段階的な増殖が必要です。また、増殖率が低いことに加えて、一度ウイルス病などに感染すると防除することが困難です。そのため国内では、農研機構種苗管理センターが管理する原原種ほ場、道・県・採種組合が管理する原種ほ場・採種ほ場における階的な増殖を経るとともに、植物防疫法2) に基づく検査を行い、病気の感染がないことが確認されたものだけが種いもとして流通し、一般生産者に渡ります(図1 )。
図1 種ばれいしょの生産体系
この検査を実施するための管理作業のうち、最も労力を必要とするのが抜取り作業です(図2 )。抜取り作業は、栽培期間中に病徴を判定できる熟練者が定期的にほ場をくまなく歩き、目視でウイルス病などが疑われる異常株を見つけ、抜き取った株を人力で搬出することで健全株のみを残す、とても負担の大きい作業です。
図2 抜取り作業風景
種ばれいしょ生産は、一般栽培に比べ労力面での負担が大きいです。近年は新規参入者の減少に加え、生産者の高齢化により種ばれいしょ生産者が減少しており、種ばれいしょの需要量に対して供給量の不足が危惧されています。こうした中、高度な知識や経験を要しかつ多くの労力が必要となる抜取り作業の省力化、および経験の浅い人でも抜取り作業を可能にするための支援システムが求められています。
研究の経緯
2019~2021年度のイノベーション創出強化推進事業などにより開発した、ばれいしょ株を真上から撮影した画像から異常株を検出するAI画像認識技術を基盤として、2023年度から農研機構、シブヤ精機株式会社、十勝農業協同組合連合会でコンソーシアムを形成し、戦略的スマート農業技術の開発・改良事業によりAIを活用したばれいしょ異常株検出支援システムの試作機を構築しました。今回、効果的な防除農薬のないジャガイモYウイルスと重要病害である黒あし病の罹病株3) を「異常株」として検出対象としています。
研究の内容・意義
今後の予定・期待
開発したばれいしょ異常株検出支援システムの試作機は2024年度から、種苗管理センターへの試験導入と種ばれいしょ生産現場での試験を実施しており、2026年度から道内複数JAにて試験導入します。試験で得られた結果を基に改良することで実用機につなげます。システムを使用しながらデータ収集できる仕組みを使って種ばれいしょ生産ほ場で継続してデータ収集をし、対象品種を拡大するとともにAIの汎化性能8) を向上させます。さらに、継続的にこれらの取り組みができる体制も構築します。これらの取り組みにより、試作機を国内の種ばれいしょ生産現場(約4,500 ha)に普及することで、種ばれいしょにおける異常株抜取り作業の軽労化・効率化および経験の浅い人でも抜取り作業を可能にし、ばれいしょの種苗生産面積の回復や担い手不足解消に貢献します。
用語の解説
抜取り作業
種ばれいしょの無病性を確保するため、ほ場の中を歩行しながら異常株を除去する作業です。主にウイルス病や細菌病に感染した株が対象となりますが、モザイク症状やれん葉症状の早期判定には多くの経験を要し、専門的な知見を備えた熟練作業者を必要とします。また、栽培の全期間で実施する作業である一方、作業者は一人で2畦程度しか同時判定できないため、非常に多くの作業時間を要します。北海道農業生産技術体系では、一般栽培に比べて1ヘクタール当たり40.4時間(総投下労働時間207.6hr/haのうち19.5%)もの追加労力を要するとされています。また、抜き取った株の搬出作業についても、全て純粋な人力で行っていることが多く、作業者負担を増大させる要因となっています。
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植物防疫法
植物の輸出入や国内移動において検疫を行い、有害な動植物の駆除や蔓延防止を図るために定められた法律です。種ばれいしょは、植物防疫法に基づき、検査基準に合格した種ばれいしょしか流通できない仕組みとなっています。
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ジャガイモYウイルスと黒あし病
いずれも国内発生が確認され、感染力が高く、拡大すると減収被害が大きくなる病気です。ジャガイモYウイルスは、モザイク、れん葉、黄変・壊疽などの病徴を呈します。アブラムシによって媒介されるため、徹底したアブラムシ対策や感染株の早期除去、生産農場周辺の環境浄化などで対応する必要があります。黒あし病は種ばれいしょの腐敗や萎れ、茎基部の黒変などの病徴を呈します。種ばれいしょからできた次世代(子いも)に伝染するため、種ばれいしょが増殖されることによってまん延する可能性があり、感染株の早期除去などで対応する必要があります。
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白とび
画像では、記録できる明るさの範囲があります。明るさがこの範囲を超えると、白になります。そのため、太陽光が葉の表面で反射するなどの原因で周囲に比べて極端に明るい部分は、白くなります。白とびとは、画像の中の明るい部分が真っ白に潰れてしまい、本来の色情報などが失われた状態です。異常株検出には色情報などは重要で、白とびが起きないよう撮影を工夫する必要があります。
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準リアルタイム
データの処理要求時において、即座に処理を実行して結果を利用者に返すリアルタイム処理とは異なり、利用者の許容範囲内での遅延時間を認める処理方式を指します。本システムには、自走するほ場管理車両から撮影した画像に写った異常株を、AI判定に要するごくわずかな遅延時間で処理することができます。
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教師データ
機械学習において「教師あり学習」に使用されるデータで、AI(人工知能)が例題の入力に対して正解が出力されるよう訓練するために用いられます。「教師あり学習」では、この教師データの量と質によってAIの性能が左右され、この作成作業には大きな労力と時間を要します。
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対象品種
種苗管理センターが生産・配布している約60品種から、加工用、でんぷん原料用、生食用それぞれの用途において需要の大きい品種を選定しました。2022年度ばれいしょ原原種生産計画において、各品種が全体に占める割合は、「トヨシロ」(加工用)9.0%、「コナヒメ」(でんぷん原料用)18.2%、「キタアカリ」(生食用)5.0%で、3品種の合計は約32%です。なお、「トヨシロ」「キタアカリ」は農研機構(旧北海道農業試験場)、「コナヒメ」はホクレン農業総合研究所の育成品種です。
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汎化性能
モデルの学習に使用したデータセット以外の未知のデータに対する性能で、実用化に向け様々な生育環境に対応できるシステムにするには汎化性能を高める必要があります。
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発表論文
Yu Oishi et al. Automated Abnormal Potato Plant Detection System Using Deep Learning Models and Portable Video Cameras, International Journal of Applied Earth Observation and Geoinformation, 104, 102509, 2021.
https://doi.org/10.1016/j.jag.2021.102509 .
大石 優 : AIを活用した「ばれいしょ異常株検出支援システム」の開発, 農研機構技術報告, 17, pp. 12-13, 2025.