プレスリリース
(研究成果) AIを活用した「ばれいしょ異常株検出支援システム」の試作機を開発

- 種いも生産ほ場へのシステムの普及を目指して -

情報公開日:2026年4月 8日 (水曜日)

農研機
シブヤ精機株式会社
十勝農業協同組合連合会

ポイント

  • 農研機構、シブヤ精機株式会社、十勝農業協同組合連合会は、市販のほ場管理車両を土台に、AIを活用したばれいしょ異常株検出支援システムの試作機を開発しました。
  • 種ばれいしょの安定供給上、重要な栽培管理工程である異常株の抜取り作業において、病害感染などにより生じた異常株をAIが検出し、生産者に知らせます。
  • 本システムの普及により種ばれいしょ生産の効率化が図られ、我が国の基幹作物であるばれいしょの種苗生産面積の回復や担い手不足解消への貢献が期待できます。

概要

ばれいしょ(じゃがいも)は、一般的には種子ではなく「種ばれいしょ(種いも)」を植付けし栽培する作物です。この種ばれいしょ生産は、高齢化などを背景に、栽培技術の維持・継承や作業の軽労化が喫緊の課題となっています。また、種ばれいしょを種苗として用いるため、一度ウイルス病などに感染すると防除することが困難です。健全無病な種ばれいしょの安定供給には、病気に感染したことで地上部の形状が異常となる株(以下、異常株)などを目視で確認して抜き取る作業(以下、抜取り作業1))が不可欠ですが、罹病の有無を的確に判定できる経験者や、広大なほ場から異常株を搬出する労力の確保が課題となっています。そのため、経験の浅い生産者などでも確実に抜取り作業が可能になるように、異常株の判定を技術的に支援しつつ軽労化を図る仕組みが求められています。

そこで農研機構、シブヤ精機株式会社、十勝農業協同組合連合会は、種苗管理センターでの試験導入と種ばれいしょ生産現場での精度検証を経て、広大なばれいしょほ場から異常株を検出し、その位置を特定して作業者に知らせる異常株検出機構をほ場管理車両に搭載した「ばれいしょ異常株検出支援システム」の試作機を開発しました。2026年度から順次、道内複数JAに試験導入します。試験で得られた結果を基に改良することで実用機につなげます。

関連情報

予算 : 運営費交付金、生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」「戦略的スマート農業技術の開発・改良事業(JPJ011397)」

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 基盤技術研究本部 農業情報研究センター
センター長高山 茂伸
研究担当者 :
同 農業情報研究センター AI研究推進室 認識・推定グループ
上級研究員大石 優
同 北海道農業研究センター 寒地畑作研究領域 環境病害虫グループ
グループ長大木 健広
同 北海道農業研究センター 寒地畑作研究領域
畑作情報・工学グループ 上級研究員津田 昌吾
同 種苗管理センター 生産連携部 連携推進課
課長小林 華代子
主任調査員小林 恵
同 種苗管理センター 生産連携部 種苗生産課
主任調査員鈴木 智
同 本部 人事部 人事管理役(前総括執行役)
村上 則幸
シブヤ精機株式会社 システム本部センサ技術部
係長山本 一哉
十勝農業協同組合連合会 農産部次長前塚 研二
広報担当者 :
農研機構 基盤技術研究本部 基盤研究理事室
室長田口 文緒

詳細情報

開発の社会的背景

ばれいしょ(じゃがいも)は世界4大作物のひとつであり、我が国では年間約230万トンの生産量を有する基幹農作物です。一般的には種子ではなく種ばれいしょ(種いも)を植付け栽培します。種ばれいしょを植えると約10個の子いもが収穫でき、増殖率は一作で10倍程度と少ないことから、一般生産者が必要な種ばれいしょ数を確保するには段階的な増殖が必要です。また、増殖率が低いことに加えて、一度ウイルス病などに感染すると防除することが困難です。そのため国内では、農研機構種苗管理センターが管理する原原種ほ場、道・県・採種組合が管理する原種ほ場・採種ほ場における階的な増殖を経るとともに、植物防疫法2)に基づく検査を行い、病気の感染がないことが確認されたものだけが種いもとして流通し、一般生産者に渡ります(図1)。

図1種ばれいしょの生産体系

この検査を実施するための管理作業のうち、最も労力を必要とするのが抜取り作業です(図2)。抜取り作業は、栽培期間中に病徴を判定できる熟練者が定期的にほ場をくまなく歩き、目視でウイルス病などが疑われる異常株を見つけ、抜き取った株を人力で搬出することで健全株のみを残す、とても負担の大きい作業です。

図2抜取り作業風景

種ばれいしょ生産は、一般栽培に比べ労力面での負担が大きいです。近年は新規参入者の減少に加え、生産者の高齢化により種ばれいしょ生産者が減少しており、種ばれいしょの需要量に対して供給量の不足が危惧されています。こうした中、高度な知識や経験を要しかつ多くの労力が必要となる抜取り作業の省力化、および経験の浅い人でも抜取り作業を可能にするための支援システムが求められています。

研究の経緯

2019~2021年度のイノベーション創出強化推進事業などにより開発した、ばれいしょ株を真上から撮影した画像から異常株を検出するAI画像認識技術を基盤として、2023年度から農研機構、シブヤ精機株式会社、十勝農業協同組合連合会でコンソーシアムを形成し、戦略的スマート農業技術の開発・改良事業によりAIを活用したばれいしょ異常株検出支援システムの試作機を構築しました。今回、効果的な防除農薬のないジャガイモYウイルスと重要病害である黒あし病の罹病株3)を「異常株」として検出対象としています。

研究の内容・意義

●試作機の特徴

  • 晴天や曇天などの天候に左右されずに、精度よく異常株を検出することができます。 一般的に、画像の写り方は太陽光の当たり方によって、同じ株でも異なります。この影響を軽減しない限り、異常株を精度よく検出することは困難です。そこで日除けを設置することで、太陽光が葉の表面で反射することによる白とび4)や、株の影の影響などを軽減し、晴天・曇天によらず使用できます。
  • 熟練者でないと判断が難しい軽微な病徴も検出可能です。車両に搭載したカメラ画像に異常株が写ると、異常株の存在を音と画像によって作業者に知らせます。抜き取った株は車両に載せて運搬できるため、ほ場外への搬出で生じる負担軽減を図ることも可能です。
  • 異常株の位置のマッピングやナビゲーションシステムも開発しました。異常株の位置情報をクラウドサーバに送り、ほ場図などにマッピングすることや、異常株の位置まで生産者をナビゲーションできるシステムも開発しました。これにより、非熟練作業者が撮影(異常株検出)のみを実施し、後からナビゲーションシステムを使って、携帯端末やスマートグラスで抜取り作業者を異常株の位置まで誘導することも可能です。
  • 計画的な対象品種の拡大や継続的なAIモデル改良のため、ユーザに使用してもらいながらAI学習用データに使える画像を収集する仕組みを有します。現在、試作機を生産現場で運用しながら、データ収集をし、対象品種の拡大やAIモデルの改良をするなど、持続可能な改良・普及・運用するための体制づくりをしています。試作機の適用品種などの拡大や種ばれいしょ生産現場への普及により、作業の軽労化や技術継承への貢献が期待されます。

●試作機運用法(図3)

2種類の運用法を提案します。

  • 車両を走行させ、異常株を検出したらその場で抜き取り、抜き取った株を台車に載せて運び出します。異常株が検出されて車両を停車させても、どの株が異常と判定されたか分かりにくいという現場の声を反映し、畦ごとに車両の現在位置と異常株の距離が表示されるので、検出された異常株を特定できます。
  • 作業者が撮影(異常株検出)のみを実施し、異常株の位置をマッピング後、ナビゲーションシステムを使って、携帯端末やスマートグラスで異常株の位置を示すことで、ピンポイントで抜き取りが必要な株の地点に向かうことができます。
図3試作機を使った2つの運用法の提案

[システム構成]

試作機は、カメラ・処理装置・結果出力装置、GNSS(全球測位衛星システム)受信機、日除けと、それらを搭載する車両によって構成されます(図4)。カメラに異常株が写った場合、音やライトで作業者に報知するとともに、出力結果などをモニタに表示します。ただし、ばれいしょ生育中期においては、隣接株同士の葉が重なり合い、画像から各株を特定することが困難になります。そのため、生育中期については、カメラに異常葉が写った場合、報知・表示します。さらに、車両の現在位置と異常株の距離を表示できるため、誰でも容易に異常株を特定することが可能です。

  • 処理装置では、カメラで撮影した画像に異常株または異常葉が含まれるかを判定します。時速4 kmで走行する車両に搭載した6台のカメラで撮影した画像を準リアルタイム5)処理できるよう高速化したアルゴリズムを利用しています。
  • GNSS受信機は、RTK(Real Time Kinematic)もしくはみちびき衛星のCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を使用し、個々の株を特定できる精度で異常株検出位置および現在位置を記録するとともに、その相対位置を計算するのに用います。
  • 太陽光の当たり方によって、同じ株であっても画像の写り方は異なります。この影響を軽減しないと異常株を精度よく検出することは困難です。そこで日除けを設置することで、太陽光が葉の表面で反射することによる白とびや、株の影の影響などを軽減し、天候によらず使用可能にしました。また、日除け・カメラの設置位置は、ばれいしょ株の生育に応じて高さを変えることが可能です。これにより、カメラと株の距離を一定に保つことができ、AIによる異常株検出精度を安定化させています。
  • ほ場内を歩行するのは重労働のため、乗車できる車両も開発して欲しいという現場の要望に応えて、ほ場管理車両搭載型以外にも電動乗用カートも開発しました(図5)。電動乗用カートの日除け・カメラと座席は、高さを変えることができます。これにより、カメラと株の距離を一定に保つだけでなく、利用者の視野も確保しています。また、左右後輪を独立駆動させることで、ほ場内でも安定した走行が可能になりました。
図4システム構成
図5開発した電動乗用カート

[機能]

  • 従来は、熟練者が歩きながら(時速約2 km)2畦ごとの目視判定をしていましたが、試作機では時速4 kmで自走しながら最大6畦の異常株を準リアルタイムで検出(作業効率6倍)し、作業者に音と画像によって通知します。
  • 異常株の位置をほ場図などにマッピングし、異常株の位置までナビゲーションする機能を有しています。
  • 継続的なAIの改良のため、ユーザに使用してもらいながらAIの教師データ6)に使える画像を収集する仕組みを有しています。システムを利用し異常株が検出された場合、もしくはユーザが「保存ボタン」を押した場合に、自動で撮影画像とは別のフォルダに画像が保存されます。システム利用後、クラウドサーバにアップし、AIの改善に利用可能です。

[性能]

  • 抜取り作業の熟練者である農研機構種苗管理センター職員が作成した延べ13万以上のAIの教師データにより、熟練者でないと判断が難しい軽微な病徴も検出可能です。
  • 現在のところ対象品種7)は「トヨシロ」「コナヒメ」「キタアカリ」で国内生産の3割以上をカバーしています。
  • 効果的な防除農薬のないジャガイモYウイルスと重要病害である黒あし病の罹病株を「異常株」として検出対象としています。さらにこれらの病気は生育時期によって症状が異なることを考慮し、生育初期の検出対象となる症状は、重度な生育の遅れ、モザイク・れん葉、萎れです。生育中期の検出対象となる症状は、モザイク・れん葉、黄化・壊疽、萎れです。ただし干ばつの際、生育中期において健全株であっても萎れることから、軽微な萎れを健全と分類することも選択可能です(図6)。
  • 生育初期・中期ともに、「1回あたり検出精度83%」の目標をクリアしました(2021~2023年に試験ほ場で撮影した画像を使ってAIモデルの学習およびテストをした結果)。作業期間中は延べ4回以上検出するので、植物防疫法で定められた「罹病株の抜き残し0.1%以内」を達成することができます。
図6対象品種と検出対象となる症状(異常株)

今後の予定・期待

開発したばれいしょ異常株検出支援システムの試作機は2024年度から、種苗管理センターへの試験導入と種ばれいしょ生産現場での試験を実施しており、2026年度から道内複数JAにて試験導入します。試験で得られた結果を基に改良することで実用機につなげます。システムを使用しながらデータ収集できる仕組みを使って種ばれいしょ生産ほ場で継続してデータ収集をし、対象品種を拡大するとともにAIの汎化性能8)を向上させます。さらに、継続的にこれらの取り組みができる体制も構築します。これらの取り組みにより、試作機を国内の種ばれいしょ生産現場(約4,500 ha)に普及することで、種ばれいしょにおける異常株抜取り作業の軽労化・効率化および経験の浅い人でも抜取り作業を可能にし、ばれいしょの種苗生産面積の回復や担い手不足解消に貢献します。

用語の解説

抜取り作業
種ばれいしょの無病性を確保するため、ほ場の中を歩行しながら異常株を除去する作業です。主にウイルス病や細菌病に感染した株が対象となりますが、モザイク症状やれん葉症状の早期判定には多くの経験を要し、専門的な知見を備えた熟練作業者を必要とします。また、栽培の全期間で実施する作業である一方、作業者は一人で2畦程度しか同時判定できないため、非常に多くの作業時間を要します。北海道農業生産技術体系では、一般栽培に比べて1ヘクタール当たり40.4時間(総投下労働時間207.6hr/haのうち19.5%)もの追加労力を要するとされています。また、抜き取った株の搬出作業についても、全て純粋な人力で行っていることが多く、作業者負担を増大させる要因となっています。 [概要へ戻る]
植物防疫法
植物の輸出入や国内移動において検疫を行い、有害な動植物の駆除や蔓延防止を図るために定められた法律です。種ばれいしょは、植物防疫法に基づき、検査基準に合格した種ばれいしょしか流通できない仕組みとなっています。 [開発の社会的背景へ戻る]
ジャガイモYウイルスと黒あし病
いずれも国内発生が確認され、感染力が高く、拡大すると減収被害が大きくなる病気です。ジャガイモYウイルスは、モザイク、れん葉、黄変・壊疽などの病徴を呈します。アブラムシによって媒介されるため、徹底したアブラムシ対策や感染株の早期除去、生産農場周辺の環境浄化などで対応する必要があります。黒あし病は種ばれいしょの腐敗や萎れ、茎基部の黒変などの病徴を呈します。種ばれいしょからできた次世代(子いも)に伝染するため、種ばれいしょが増殖されることによってまん延する可能性があり、感染株の早期除去などで対応する必要があります。 [研究の経緯へ戻る]
白とび
画像では、記録できる明るさの範囲があります。明るさがこの範囲を超えると、白になります。そのため、太陽光が葉の表面で反射するなどの原因で周囲に比べて極端に明るい部分は、白くなります。白とびとは、画像の中の明るい部分が真っ白に潰れてしまい、本来の色情報などが失われた状態です。異常株検出には色情報などは重要で、白とびが起きないよう撮影を工夫する必要があります。 [研究の内容・意義 ●試作機の特徴1.へ戻る]
準リアルタイム
データの処理要求時において、即座に処理を実行して結果を利用者に返すリアルタイム処理とは異なり、利用者の許容範囲内での遅延時間を認める処理方式を指します。本システムには、自走するほ場管理車両から撮影した画像に写った異常株を、AI判定に要するごくわずかな遅延時間で処理することができます。 [研究の内容・意義 [システム構成]へ戻る]
教師データ
機械学習において「教師あり学習」に使用されるデータで、AI(人工知能)が例題の入力に対して正解が出力されるよう訓練するために用いられます。「教師あり学習」では、この教師データの量と質によってAIの性能が左右され、この作成作業には大きな労力と時間を要します。 [研究の内容・意義 [機能]へ戻る]
対象品種
種苗管理センターが生産・配布している約60品種から、加工用、でんぷん原料用、生食用それぞれの用途において需要の大きい品種を選定しました。2022年度ばれいしょ原原種生産計画において、各品種が全体に占める割合は、「トヨシロ」(加工用)9.0%、「コナヒメ」(でんぷん原料用)18.2%、「キタアカリ」(生食用)5.0%で、3品種の合計は約32%です。なお、「トヨシロ」「キタアカリ」は農研機構(旧北海道農業試験場)、「コナヒメ」はホクレン農業総合研究所の育成品種です。 [研究の内容・意義 [性能]へ戻る]
汎化性能
モデルの学習に使用したデータセット以外の未知のデータに対する性能で、実用化に向け様々な生育環境に対応できるシステムにするには汎化性能を高める必要があります。 [今後の予定・期待へ戻る]

発表論文

  • Yu Oishi et al. Automated Abnormal Potato Plant Detection System Using Deep Learning Models and Portable Video Cameras, International Journal of Applied Earth Observation and Geoinformation, 104, 102509, 2021.
    https://doi.org/10.1016/j.jag.2021.102509.
  • 大石 優 : AIを活用した「ばれいしょ異常株検出支援システム」の開発, 農研機構技術報告, 17, pp. 12-13, 2025.