プレスリリース
1-デオキシノジリマイシン高含有桑葉エキスは食後の血糖値上昇を抑制する

情報公開日:2008年7月 8日 (火曜日)

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)東北農業研究センターを始めとする研究コンソーシアム(東北大学大学院農学研究科、日本医科大学内科学講座、ミナト製薬株式会社)は、血糖値上昇抑制物質である1-デオキシノジリマイシン(DNJ)*を豊富に含む桑葉エキスが食後の血糖値上昇を抑制すること、一ヶ月以上の連続摂取でも低血糖を起こさないことを世界で初めてヒトで明らかにしました。これにより、桑葉の糖尿病予防効果の解明、安全性への飛躍的な進展が期待されます。

本研究は農林水産省の委託プロジェクト研究「安全で信頼性、機能性が高い食品・農産物供給のための評価・管理技術の開発」の研究資金支援をうけ実施しました。

*DNJ:「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日付第476号厚生省薬務局長通知)の別添「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」に記載されている化学物質です。


詳細情報

背景とねらい

2型糖尿病の発症予防および進展遅延のためには食後の急峻な血糖値の上昇をコントロールする事が最も重要であることが明らかになりつつあります。α-グルコシダーゼ阻害物質(α-GI)は、小腸における糖の吸収を遅延させ、食後の高血糖及びインスリン過分泌を抑制します(図1)。桑葉には強力なα-GI物質の1-デオキシノジリマイシン(DNJ)が含まれており、糖尿病予防効果の検証が期待されます。ところが、桑葉DNJ含量はばらつきが大きい上、微量なため、桑葉の糖尿病予防効果のヒトでの研究は行われていませんでした。そこで、日常継続的摂取が可能なDNJを豊富に含む桑葉エキスを作成し、その有効摂取量(エキス量、DNJ量)をヒトで明らかにし、さらに1ヶ月以上の連続摂取による影響を明らかにすることを目指しました。

成果の内容・特徴

  • 7~8月の桑の枝先端から20cm以内の桑葉を50~80%のエタノール水で抽出し粉末化したエキスを試験食としました(表1)。本エキスはDNJを約1.5%(一般桑葉粉末の約12倍)含みます。本桑葉エキスの製造法は特許出願を行っています。
  • ヒトへのショ糖負荷試験において、桑葉エキスは用量に依存し、0.8g以上(DNJとして6mg以上)の摂取により負荷後(食後)の血糖値上昇を抑制し、その結果インスリン値の上昇も抑制します(図2)。このインスリン分泌の抑制は、血糖値上昇の抑制のためで、膵臓へ働きかけたものではないと考えられます。
  • 有効投与量である1.2gの桑葉エキスの健常なヒトへの毎食前の38日間の連続摂取では、有害事象は観察されず、安全上懸念されるインスリンの分泌異常、低血糖は起こしませんでした(図3)
  • 本成果は桑エキスが糖尿病予防食材としての可能性を科学的に示したものですが、商品の効能を謳うものではありません。本成果により、ヒト、動物での桑葉DNJの糖尿病予防効果と安全性の研究が遂行可能となります。

図1.α-グルコシダーゼ阻害物質(α-GI)は糖分の吸収を抑制する

表1.1-デオキシノジリマイシン高含有桑葉エキス(試験食概要)

図2.ショ糖負荷条件における桑葉エキスが血糖値とインスリンに与える影響

 

図3.桑葉エキスの長期間摂取(38日間)が血糖値とインスリン値に与える影響

 

用語説明

糖負荷試験
糖尿病の検査に一般に用いられる試験。空腹時にブドウ糖75gを水に溶かして飲み、経時的に血糖値(または、尿糖、血中インスリンなど)を測定し、その変化を観察する。正常な場合、血中に取り込まれたブドウ糖(血糖値)は30分~60分でピークを迎え、その後インスリンの働きにより2時間程度で元に戻る。今回はグルコシダーゼ阻害作用のためショ糖を負荷食としている。

プラセボ
ヒト試験を行う場合、有効成分を含まないにもかかわらず、「薬を飲んだ」という意識から薬効とは関係なく治療効果が出ることがある。そのため、試験薬と薬効や安全性などのデータを比較するために用いられる偽の薬(今回は食品)。通常、治験薬と色や形は似ていながらも、有効成分は含まない。

1-デオキシノジリマイシン(DNJ)
桑に特徴的に見られるブドウ糖に極めて構造が類似している糖様物質
桑に特徴的に見られるブドウ糖に極めて構造が類似している糖様物質(上図参照)。食物のデンプンなどの炭水化物は消化され、最終的に小腸上皮にあるα-グルコシダーゼと呼ばれる糖分解酵素によりブドウ糖に分解され、体内へ吸収される。DNJはこのα-グルコシダーゼの強力な阻害剤として知られる。