プレスリリース
東北農研が葉いもち発生予察情報サービスを開始

- 東北地方の安定した水稲生産に役立つ -

情報公開日:2008年7月28日 (月曜日)

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構(略称:農研機構)東北農業研究センターでは、インターネットを用いて葉いもち発生予察情報・水稲高温障害 予測情報を提供するシステムを開発しました。1kmのメッシュごとの東北地方の7日先までの気象(気温)予測データに基づいた1葉いもち発生予察情報 (BLASTAM;いもち(blast)とアメダス(AMeDAS)の造語)、2水稲高温障害予測情報が、東北6県をカバーするマップで表示されます。こ れらのシステムは、すでに情報提供を開始している水稲生育予測情報、深水管理警報情報などと合わせて用いることにより、安定した水稲生産に役立ちます。な お、本情報はどなたでも無償で利用できます。本システムは、昨年夏より運用を開始した「気象予測データを利用した農作物被害軽減情報サービス」を通じて情報を提供します。(ウェブサイトのURL http://www.naro.affrc.go.jp/tarc/contents/kanjime/index.html) なお、本サービスは、農林水産省の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」のうち「やませ気象下の水稲生育・被害予測モデルと冷害回避技術の開発(2004年~2006年度)」の成果を活用したものです。


詳細情報

背景とねらい

東北地方では、夏季天候の年次変動が1980年代以降大きくなっており、冷夏と暑夏が交互に発生しています。そのような不安定な気象条件下では、的確な気象予測に基づいた早期の被害軽減策を施すことが有効です。そこで、気象予測データを基にした農作物被害軽減情報を発信し、いもち病発生等による被害の軽減を支援することを研究のねらいとしました。

成果の内容・特徴

  • 本システムは、データベースサーバとウェブサーバとで構成されています(図1)。データベースサーバは、1kmメッシュ気象予測デー タおよび1kmメッシュリアルタイム気象データを、農林水産研究計算センターサーバから毎日自動的に取得し、水稲生育予測モデル、BLASTAM等の計算 を実行します。ユーザーは、ウェブサーバからの各種情報をGISソフトウェアと連動させて地図上に表示させて閲覧できます。
  • システムにログインし、「水稲情報」アイコンをクリックすると、水稲関連情報サイトへリンクします(図2)。その際、ユーザーIDお よびパスワードが必要になります。ユーザーID とパスワードは、本サイトからメールにより申請していただだければ、すぐに配布します。どなたでも無料で利用できます。
    なお、ユーザーID 、パスワードは本ウェブサイトで運用している「寒締め菜っぱ情報」にも利用可能です。
    (ウェブサイトのURLはhttp://tohoku.dc.affrc.go.jp/yamase.htmlです。)
  • 主な提供情報は、1km メッシュごとの気温データおよび気象予測データを用いた深水管理警報、葉いもち発生予察情報(BLASTAM)、移植および直播水稲生育予測情報、水稲高温障害予測情報です(図3)。
  • 葉いもち発生予察情報では、当日~5日先までの予測値を表示します(図4)。青は発生の可能性が低い地域を、オレンジは発生の可能性 がある地域を、赤は発生の可能性が高い地域を表します。水稲のいもち病は、小雨で風が弱く、葉面の濡れの時間が長いと感染しやすくなります。 BLASTAMは、気象庁のアメダスデータを用いて、葉面の湿潤時間を計算し、いもち病(葉いもち)の感染しやすい条件を推定するシステムです。本研究で は、パラメータを若干変更することにより、気象予測データを用いた計算も行えるようにしました。現在、各県の病害虫防除所でも葉いもち発生予察情報を運用 しておりますが、アメダス点のみの場合がほとんどで、本サービスのような気象予測データをもちいた広範な予測は行われておりません。今後は各防除所とも連 携し、気象予測データをもちいたBLASTAMの有効利用を進めていく予定です。
  • GISウェブを使っているので、任意の範囲で拡大が可能です(図5)。地名や道路、鉄道などの情報も閲覧でき、ユーザーの圃場が含まれた、情報が必要なメッシュが容易に選択できます。
  • 気温予測データを基にして水稲の高温障害発生の予測情報を表示します(図6)。白未熟粒では、日最低気温が22°C以下を「発生少な い」、22-23°Cを「発生注意」、23-24°Cを「発生警戒」、24°C以上を「多発生警戒」と区分して表示しますので、対策の参考にしてください。同様 に、胴割れの発生は、日最高気温が28°C以下を「発生少ない」、28-30°Cを「軽微な割れ発生注意」、30-32°Cを「葉色が淡い圃場で胴割れ発生警 戒」、32°C以上で「胴割れ発生警戒」と区分して表示しますので、対策の参考にしてください。
  • 本ウェブサイトの「寒締め菜っぱ情報」アイコンは、寒締めホウレンソウ生育予測情報サイトへリンクしており、2007年は9 月~2008年3月まで寒締めホウレンソウ関連の情報を発信しました。今年も9月から情報の発信を再開しますので、合わせてのご利用をお待ちしておりま す。

図1.システムの概念図

図2.システムのログイン画面

図3.発信情報のメニュー構成

図4.葉いもち発生予察マップ

図5.葉いもち発生予察マップの拡大例

図6.高温障害警戒情報

用語説明

葉いもち
本田で葉に発生するいもち病を『葉いもち』と呼んでいます。北日本では、分げつ期から出穂期にかけて連続的に発生します。いもち病菌が、葉面に落下したとき適当な温度と水滴があると、発芽して侵入します。いもち病菌の発芽・侵入には葉面の「濡れ」の持続時間が大きく影響し、葉面の濡れの時間が長いほど、侵入率は高くなります。葉いもちは、被害が甚大となる穂いもちの伝染源であり、出穂前25~35日前以降に形成された葉いもち病斑が、穂いもちの主な伝染源となるといわれています。したがって、BLASTAM等を用いた、早期の防除が被害軽減の基本となります。

白未熟粒
米粒に白色不透明な部分を生ずる現象で、出穂後の高温条件で発生が助長されます。検査等級が落ちる原因となります。

胴割れ
米粒の内部に割れを生ずる現象で、出穂後の高温条件で発生が助長されます。検査等級が落ちる原因となります。

1kmメッシュ気象予測データ
最初に気象庁で計算された予測データを、日本気象協会でダウンサイジングし、さらに農林水産研究計算センターのサーバで1kmメッシュまで計算したデータを用いています。ちなみに「予報」とは、晴れや曇り等の天気の解釈まで入ったものを指し、本システムのようにデータのみを用いる場合は「予測」データと呼びます。

1kmメッシュリアルタイム気象データ
東北農業研究センターで開発した計算システムを用いて、縦横約1km単位のメッシュ気温データを日々作成し、ウェブ上で配信しています。
URLは http://tohoku.dc.affrc.go.jp/trmain.html です。

GIS
Geographic Information Systemの略で、地理情報システムのこと。GISは、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術です。本ウェブシステムでは、気象予測データから水稲生育情報までを1kmメッシュ単位で閲覧可能にしております。

    http://tohoku.dc.affrc.go.jp/trmain.html