プレスリリース
東北地域において水稲湛水直播栽培により玄米品質が向上することを証明

情報公開日:2008年11月25日 (火曜日)

農研機構 東北農業研究センターと東北各県の農業試験研究機関では、2004~2006年に水稲の湛水直播栽培の品質特性を明らかにするため共同試験を実施しました。その結果、東北地域では出穂の遅れや籾数の減少等により、千粒重の増加及び整粒歩合が向上し、玄米品質が高まることを証明しました。今後、これらの研究成果を利用して、直播栽培の収量性向上と高品質化の両立を目指した栽培法の開発につながることが期待されます。


詳細情報

背景とねらい

水稲の湛水直播栽培は、稲作の省力化や大規模化に有効な栽培法として期待されていますが、近年はコメの品質が重視されており、直播栽培の導入により品質が低下するようでは、そのメリットが生かされません。それに対して、これまで東北地域における湛水直播水稲について品質特性の詳細な検討事例は少なく、さらに地域全体を総括するような解析は行われていません。そこで、東北農業研究センターと東北各県の農業試験研究機関では、東北地域における湛水直播水稲の品質関連形質の特徴を明らかにすることを目的に、2004年~2006年に共同試験を実施し、東北各地で移植および湛水直播栽培の圃場試験を行いました。

成果の内容・特徴

  • 東北地域の移植および直播の普通期栽培を比較すると、直播栽培により出穂期が平均で5~10日程度遅くなるため、登熟気温(出穂後40日間)は、移植栽培の場合と比較して約1°C低下します(表1)。
  • 直播栽培では、移植栽培と比較して籾数が減少することで収量性は低下しますが、1穂籾数が減少することにより、登熟に不利になる2次枝梗着生籾が減少しています(表1)。
  • 登熟気温の高い条件では整粒歩合が低下しやすいため、出穂の早い移植栽培では整粒歩合が低下しやすくなります。それに対し、登熟気温が低下する直播栽培では、整粒歩合が安定して高くなります(表1、図1)。
  • 直播栽培の出穂期の遅れに伴う籾殻形成期(出穂5~24日前)の気温上昇や登熟前半(出穂後20日間)の気温低下により、玄米の「長さ」が増大します(表2)。
  • このように、直播栽培では移植栽培と比較して、2次枝梗着生籾の減少、登熟気温の低下、玄米粒形の増大を生じるため、千粒重の増加や整粒歩合の向上により玄米品質が向上します。表1.移植・直播普通期栽培における収量・品質関連形質

図1.登熟気温と整粒歩合の関係

表2.生育気温の栽培方間差および玄米長さとの関係

用語説明

2次枝梗着生籾
籾は穂の「枝」につくものと「枝から出た枝」につくものがあります。「2次枝梗着生籾」とは「枝から出た枝」につく籾のことで、「枝」に直接つく籾に比べて充実が悪くなる傾向があります。

登熟気温
穂が出てから成熟するまでの期間の日平均気温の平均値です。本研究の場合は、穂が出てから40日間の日平均気温の平均値を用いました。

千粒重
玄米の水分を15%に換算した時の玄米1000粒の重さ。一定のふるい目(例えば1.85mmや1.90mm)を通して落ちない玄米について測定します。同じ品種なら値が大きいほど充実したよい玄米であることを示します。

整粒歩合
一定のふるい目(例えば1.85mmや1.90mm)を通して落ちない玄米について、透明で充実のよい「正常粒」と正常でない「被害粒」に分けたときの、正常粒の割合。白濁部分が大きいものや、大きなひびが入っているもの、変色しているもの等は被害粒とされます。