プレスリリース
北上山地の高標高草地における日本短角種の親子放牧は良好な家畜生産システムである

情報公開日:2008年11月25日 (火曜日)

日本短角種の繁殖経営では、公共草地を利用した親子牛群放牧による肥育素牛生産が行われています。

農研機構 東北農業研究センターでは、北上山地の高標高草地において親子牛群放牧をおこなった場合、子牛および育成雌牛(後継牛である雌1歳牛)の個体当たりの日増体量が発育標準値に比べて同等かそれより高くなることを明らかにしました。さらに、繁殖成雌牛(親牛)も放牧期間中に増体することを明らかにしました。このことは、これまで経験的に行われてきた高標高地での日本短角種の親子放牧が良好な家畜生産システムであることを示すものです。


詳細情報

背景とねらい

日本短角種の繁殖・肥育素牛生産では、公共草地における親子牛群放牧が行われてきました。これまで、生産物である子牛の生育については知見が蓄積されてきましたが、営農現場における子牛以外の育成牛や繁殖成雌牛も含めた日本短角種親子牛群の体重変化についての知見は不足していました。そこで、高標高の公共草地において、繁殖農家の日本短角種親子牛群を対象に、放牧期間中の全頭の体重を定期的に測定し、牛の体重推移と日増体量を明らかにしました。

成果の内容・特徴

  • 子牛の体重は、季節変化が小さく、ほぼ直線的に増加し、発育標準値と同等かそれより高く推移します。そのため、放牧期間を通じた日増体量は、発育標準値と同等かそれより高くなります(表1と図1)。
  • 育成雌牛(後継牛)の体重は、増体が夏にやや鈍るものの、発育標準値と同様かそれより高く推移します。放牧期間中の増体量は発育標準値より高くなります(表1と図2)。
  • 繁殖成雌牛(親牛)の体重は、春から夏にかけて増加し、その後減少しますが、放牧期間を通してみると増加しています(表1と図3)。これは、成雌牛が、個体維持と授乳のために十分な栄養を得ていることを示しています。
  • 調査対象とした高標高草地において、日本短角種親子牛群は1.1~1.5組/haで放牧されており、牧草の年間生産量は草地管理指標の生産目標(600~900g乾物/m2)と同程度でした(表1)。このような草地での、日本短角種の親子牛群放牧は良好な家畜生産システムと言えます。

表1.北上山地高標高(930m~1000m)草地における牛群の日増体量

図1.去勢雄子牛群の放牧機関の体重変化

図2.育成雄牛群の放牧期間の体重変化

図3.繁殖成雄牛群の放牧期間の体重変化

用語説明

高標高草地
今回の調査地は標高930~1000mに位置しており、北上山地では比較的高い場所です。500mあたりの草地に比べ気温が低いために、牛にとって害虫が少なく過ごしやすく、導入されている牧草も生長しやすい環境であり、草種の構成も異なります。これらの違いが家畜生産にも影響していると考えられます。

発育標準値
我が国のこれまでに行われた試験研究結果から作成された「日本飼養標準・肉用牛(2000年版)農林水産省農林水産技術会議事務局発行」に示された標準的な日本短角種の発育値(体重)を示しています。

日増体量
1日1頭あたりの体重変化を示します。家畜生産において、体重変化は牛の健康を把握するのに大切な指標であり、肉用牛の場合には直接肉生産にも関係します。

放牧期間の体重変化
一般的には、牧草の栄養価は、春が高く、夏に低くなり、秋に回復し、冬に向かって枯れて低くなる季節変化が見られます。これにあわせて、成長期に当たる牛の増体も、育成雌牛で見られたように草の栄養に合わせて変化します(図2)。一方、親子放牧によって母乳から草の栄養不足を補っている子牛では、放牧期間中に直線的に体重が増加しています(図1)。

去勢雄子牛
一般的に肉牛生産では、商品価値を付けるために雄は去勢されます。日本短角種では平均して4~5カ月齢で行われます。