プレスリリース
稲のカドミウム吸収に品種間差異があることを明らかにし、玄米カドミウム濃度が低い系統を開発

情報公開日:2008年12月18日 (木曜日)

独立行政法人農業環境技術研究所(農環研)は、このたび稲のカドミウム吸収に品種間差異があることを明らかにしました。また、この知見に基づいて、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター(農研機構 東北農研)は、玄米カドミウム濃度の低い品種を育種素材として、一般普及品種に比べ玄米カドミウム濃度が半分程度低い、新たな系統を開発しました。
食品を通じて一定の量を超えるカドミウムを長年にわたり摂取し続けると、人体に有害な影響を引き起こす可能性があります。食品中のカドミウムには食品衛生法に基づく規格基準が定められており、国際的にも、コーデックス委員会によって国際基準値が設定されています。このため、国内では、コメを中心として食品中のカドミウム濃度を低減するため、客土等による水田土壌の浄化や、水稲がカドミウムを吸いにくくするための水管理、アルカリ資材の投入等の対策が実施されてきました。しかしながら、これらの対策はコストや効果の面から適用可能な農地が限定されるため、より低コストで環境負荷の少ない、恒久的なカドミウム吸収抑制技術が求められています。
そこで、農環研と農研機構 東北農研は、新たな汚染低減技術として、低カドミウム品種の開発を検討しました。まず、既存の品種の中から、コシヒカリ等の一般品種に比べて玄米カドミウム濃度の低い品種「LAC23」を選抜しました。つづいて、LAC23 に対し、草姿良好な安定多収品種「ふくひびき」を交配し、玄米カドミウム濃度が低く、かつ栽培特性が向上した5系統を選抜しました。これら5系統の玄米カドミウム濃度は一般品種の半分程度でしたが、鉄や亜鉛などのミネラル含量は同程度でした。今後、これらの系統を用いて、実用的な低カドミウム品種の育成が期待できます。
なお、本研究は農林水産省農林水産技術会議事務局の委託プロジェクト研究「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」により実施したものです。


詳細情報

成果の内容の詳細

  • カドミウム吸収における稲の品種間差異を調べるために、カドミウムで汚染された土壌で各品種を栽培し、玄米と稲わらのカドミウム濃度を測定しました。その結果、玄米のカドミウム濃度は品種間で2~10倍以上の差がありました(図1左)。とくに、熱帯原産の品種「LAC23」の玄米カドミウム濃度は、「コシヒカリ」等の主力品種の半分程度でした(図1左)。LAC23 の稲わらカドミウム濃度はコシヒカリ等と同程度か高い傾向を示し、この品種は茎葉にカドミウムを蓄えて、玄米への移行を抑制する特徴を持つと考えられます(図1右)。
  • LAC23 は出穂が遅く、長稈、長粒、低収量であるため、実用的な栽培には不向きです。そこで、草姿良好な安定多収品種「ふくひびき」と交配することによって、栽培特性が向上した低カドミウム吸収系統を選抜・育成しました。低吸収系統を確実に選抜するため、比較的高い土壌カドミウム濃度(0.1 M 塩酸抽出で3 mg kg-1)とカドミウム吸収を高める水管理条件のもとで、自殖第3世代(F3)から第5世代(F5)の126系統を栽培し、玄米カドミウム濃度が比較的安定して低く、栽培特性が向上した5系統を選抜しました(表1)。これら選抜系統の玄米カドミウム濃度は、国際基準値の 0.4 mg kg-1 前後でしたが、「ふくひびき」や「ひとめぼれ」に比べて、40~50%程度低くなりました(表1)。また、玄米粒形はやや細長が多いものの、LAC23 に比べて出穂が早く、比較的丈が短くなっています(写真1)。これら5系統に、育成地(東北農研)の系統番号「羽系1118」~「羽系1122」を付与しました。
  • カドミウムは人の健康に必要な重金属ミネラル(銅、鉄、マンガン、亜鉛)と化学的な性質が似ています。そのため、玄米カドミウム濃度が低いコメは、これら必須重金属濃度も低い可能性が考えられます。そこで、育成された5系統の玄米における重金属濃度を測定したところ、カドミウム以外の濃度は「ふくひびき」や「ひとめぼれ」とほぼ同等であり、カドミウムのみ減らした系統を育成できたことが確認されました(図2)。
  • 育成した系統は、まだ実用的な品種ではありませんが、今後、実用品種育成の母本として利用が期待できます。

図1.玄米と稲わらのカドミウム濃度における品種間差

 

表1.選抜した系統の玄米カドミウム濃度(カドミウム汚染圃場での成績)と栽培特性(育成地での試験、2007年)

 

写真1.羽系1120およびその両親の草姿

 

図2.羽系5系統(平均値)の玄米中重金濃度

用語説明

国際基準値
コーデックス委員会(FAO(国連食料農業機構)とWHO(世界保健機構)の合同食品規格委員会)によって、設定された食品に含まれるカドミウムの国際基準値(2006年7月決定)。