プレスリリース
飼料イネ用品種「べこごのみ」は5月下旬播種により東北中北部で無コーティング湛水土中直播ができる

情報公開日:2008年12月19日 (金曜日)

農研機構東北農業研究センターでは、飼料イネ専用品種「べこごのみ」を5月下旬に播種することにより、岩手・秋田等の東北中北部で酸素供給剤を用いない湛水土中直播栽培ができることを明らかにしました。
湛水直播においては、通常、出芽苗立促進のために酸素供給剤をコーティング(粉衣)した種子が用いられておりますが、資材費および労力低減の観点から、コーティング過程を省略する方法(無コーティング直播)が考案されています。

本研究では、まず、酸素供給剤を粉衣しない飼料イネ専用品種「べこごのみ」の種子を、播種後10日間の日平均気温が15°Cに達する5月下旬に播種することにより、覆土下でも十分な苗立を確保できることを明らかにしました。さらに、十分な全乾物収量が得られ、食用品種の収穫前に黄熟期を迎えるので収穫作業が競合しないことも確認されました。以上により、東北中北部では「べこごのみ」は5月下旬播種によって無コーティング湛水土中直播が可能になることを明らかにしました。

今後は、この研究成果を利用して東北中北部における飼料イネ栽培の普及拡大を図ることで、一層の生産コストや労力の軽減が期待されます。


詳細情報

背景とねらい

近年、東北地域において稲発酵粗飼料の生産面積が拡大していますが、食用米以上の低コスト・省力生産が求められており、直播栽培の導入が期待されています。湛水直播においては、通常、出芽苗立促進のために酸素供給剤をコーティング(粉衣)した種子が用いられておりますが、資材費および労力低減の観点から、コーティング過程を省略する方法(無コーティング直播)が考案されています。しかしながら、無コーティング直播では、出芽期が低温となる場合に苗立が低下します。それに対し、播種時期を遅らせることによって、出芽期の低温を回避することが有効であると考えられます。しかし、播種時期を遅らせると、出穂の遅延による食用品種との収穫作業の競合や、生育期間の短縮による収量低下の懸念があります。

そこで、東北中北部向けに新たに育成された早生飼料イネ専用品種「べこごのみ」を用いて、無コーティング直播(条播)を行った場合の、苗立、出穂期、黄熟期収穫からみた播種適期の検討を行いました。
成果の内容・特徴

  • 「べこごのみ」の催芽種子による無コーティング直播では、播種後10日間の平均気温が15度に達する5月下旬の播種により、覆土条件においても乾籾換算8kg/10a程度(250粒/ m2)の播種量で100本/m2以上の苗立が確保できます(図1)。
  • 東北中北部の稲作地帯において、食用品種の移植最盛期を過ぎる5月下旬に播種することにより、春作業の競合を回避することができます。また、降雨が少ない時期に相当するため、直播の計画的作業を能率的に行うことができ、出芽促進のための落水出芽法の効果も得られやすくなります(図2)。
  • 「べこごのみ」は、6月上旬の播種では5月上旬の播種に比べて出穂の遅延が大きくなりますが、5月下旬の播種では遅延程度は小さく、8月中旬には出穂するため、食用品種(あきたこまち)収穫前の9月中旬の黄熟期収穫が可能になります(図3)。
  • 無コーティング直播では、播種期が遅くなるにつれて黄熟期乾物量が低下する傾向があり、6月上旬播種収量低下が大きくなりますが、5月下旬播種では、従来法(コーティングを行った5月上旬播種)とほぼ同等の収量を得ることができます(図4)。

 

図1.「べこごのみ」無コーティング直播の異なる播種期での苗立数

 

図2.東北中北部における播種後10日間の平均気温および日降水量の推移

 

図3.「べこごのみ」無コーティング直播における播種期別出穂期及び黄熟期

 

図4.「べこごのみ」無コーティング直播と従来法(酵素供給在有り)の黄熟期全乾物収量の比較

 

用語説明

稲発酵粗飼料
稲の米粒が完熟する前(糊熟期~黄熟期)に、穂と茎葉を同時に刈り取り、ロール状にしてフィルムで包み、密封して発酵させ、サイレージ化した粗飼料。ホールクロップサイレージ(WCS)ともいいます。
べこごのみ
平成18年度に東北農業研究センターで育成された飼料イネ専用品種(旧系統名奥羽飼395号)。東北中北部においても生産が可能な早生品種で、直播栽培にも適しており、既存の早生多収品種より5%以上多収になります。稲発酵粗飼料として牛の飼料に利用されるほか、飼料用米として豚、鶏の飼料にも利用できます。

湛水土中直播
田植えを行わない水稲直播栽培のうち、播種前に入水して代かきした水田に直接種籾を播く方法を湛水直播といいますが、そのうち、覆土や種子打ち込み等の方法により土壌中に播種して出芽させるものを湛水土中直播といいます。湛水した土壌中では出芽の阻害が大きいため、酸素供給剤の種子粉衣や落水出芽法の併用により出芽の向上と安定化を図っています。
酸素供給剤
水稲の湛水直播において、出芽促進を図るために開発された種子粉衣剤。過酸化カルシウムを有効成分とする農薬で、水と反応して徐々に分解し、酸素を発生し、湛水土壌中で種籾の出芽を促進する役割を果たします。催芽種子(あらかじめ十分に吸水させた種子に、発芽に最適な温度を与えて発芽開始状態にした種子。)に対し、乾籾重量の1~2倍量の剤を専用のコーティング機を用いて水を噴霧させながら粉衣させ、風乾したものを播種します。出芽期が低温の場合、コーティングの減量により苗立が低下することが報告されています。
落水出芽法
湛水直播において、播種後約7~10日間、出芽がみられる時期まで入水を行わない水管理法で、播種後湛水管理の場合と比べて出芽率向上効果があり、広く普及しています。
黄熟期
出穂後25~40日後にあたり、黄化した籾の割合が50~75%に達した時期。胚乳はロウ状で爪で容易に破砕できます。栄養価や消化性の面から稲発酵粗飼料の収穫適期とされています。