新品種育成の背景・経緯
フェストロリウムは、高品質・多収で耐湿性に優れたライグラス類と環境耐性や永続性に優れるフェスク類の特性を属間交雑によって結合させた牧草です。これまで、欧米を中心に品種開発が行われてきましたが、わが国で育成された品種はありませんでした。東北農業研究センターでは、越冬性と耐湿性に優れ、採草利用に向く草種としてフェストロリウムを位置づけ、平成12年から寒冷地の転作田や耕作放棄地において、低投入で良質粗飼料を生産できる新品種の開発に取り組んできました。「東北1号」は、フェストロリウムの導入品種・系統から、このような栽培目的および条件に適するよう育種した品種で、寒冷地の中標高以下の転作田や畑地で3~5年程度の採草利用に適しています。水田転作作物として、また里山草地や畑など低標高の草地基盤を有効に利用できる牧草として広く普及することが期待されます。
新品種「東北1号」の特徴
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「東北1号」は主要な寒地型牧草と比べて多収で、ハイブリッドライグラス「ハイフローラ」と同様に乾物消失率が高い特徴を備えています(表1)。
越冬性の指標となる耐雪性は、オ-チャードグラス「キタミドリ」、フェストロリウムの海外導入品種「バーフェスト」より劣りますが、「ハイフローラ」より
も優れます。牧草が残存している割合を示す被度は、利用3年目の秋には「キタミドリ」より劣りますが、「ハイフローラ」よりも優れます。
- 「東北1号」の出穂は「バーフェスト」とほぼ同時期で、出穂期の草丈は「バーフェスト」より高くなります(表2)。また、耐湿性が「バーフェスト」よりも明らかに優れ、水田転作作物として広く利用されているイタリアンライグラスと同様に栽培できます(表3)。




品種の名前の由来
系統名東北地域など寒冷地に適する、我が国初のフェストロリウムの品種であることから「東北1号」と名付けました。
種苗の配布と取り扱い
平成21年7月22日に品種登録出願(品種出願登録番号:第23931号)を行いました。
種子は、家畜改良センター及び日本草地畜産種子協会を通じて現在増殖中です。今後、主な各種苗会社を通じて種子が販売される予定です。
利用許諾契約に関するお問い合せ先
農研機構 情報広報部
知的財産センター 種苗係
Tel 029-838-7390 Fax 029-838-8905
用語の説明
ライグラス類
地中海地域を原産地とする寒地型のイネ科Lolium属(ドクムギ属)の植物です。牧草として重要な種は、ペレニアルライグラス
(Lolium perenne L.)とイタリアンライグラス(Lolium multiflorum
Lam.)です。ペレニアルライグラスは欧米で最も重要な多年生牧草で、英国、フランス北部、ニュージーランド等の草地の多くがこの牧草です。イタリアンライグラスは我が国暖地・温暖地で最も主要な冬作飼料作物として栽培されています。
フェスク類
地中海地域を原産地とする寒地型のイネ科Festuca属(ウシノケグサ属)の植物です。牧草として重要な種は、トールフェスク
(Festuca arundinacea Schreb.)とメドウフェスク(Festuca pratesis Huds.)です。トールフェスクは、米国で最も重要な牧草で、耐暑性が優れるので西日本の高原草地の基幹牧草になっています。メドウフェスクは耐寒性が優れるので、北海道根釧地域などでも利用されています。
フェストロリウム
ライグラス類とフェスク類を交雑することによって人為的に作出された新牧草です。欧米を中心に、多数の品種が育成されていますが、我が国の環境や利用法に適するものはほとんどありません。

乾物消失率
酵素(アクチナーゼ及びセルラーゼ)によって牧草の茎葉を処理し、それによって分解された割合を示します。ウシなど反芻動物による消化率を簡易に推定することができます。
ハイブリッドライグラス
イタリアンライグラスとペレニアルライグラスの交雑による採草向き多年性牧草です。「ハイフローラ」は山梨県で育成された我が国で唯一の品種です。
耐雪性
積雪地で冬期に長期間にわたって雪に覆われると、植物は光合成ができず雪腐病という病気にかかりやすくなります。この病気が重くなると植物は枯死します。雪解け後の被害程度と春の萌芽の程度で耐雪性を判断します。