プレスリリース
「プラウ耕・グレーンドリル播種体系の乾田直播栽培技術マニュアルVer.2」を作成

- 機械の汎用利用・高速化、漏水対策等により低コスト水田輪作が可能 -

情報公開日:2012年4月26日 (木曜日)

ポイント

  • 「グレーンドリル」などの畑作用高速作業機の水稲乾田直播への汎用利用と直播適性品種を組み合わせることにより、労働時間・機械コストを大幅に削減して移植並以上の収量が得られる乾田直播栽培技術を開発し、生産者向けマニュアルを作成しました。
  • 本マニュアルでは、乾田直播の普及拡大のネックとなる漏水対策を充実させ、実際の経営に乾田直播を導入した場合のコスト削減効果を具体的に示しました。

概要

  • 農研機構東北農業研究センター(東北農研)は、大規模畑作で麦用に使われている播種機「グレーンドリル」などを水稲乾田直播に汎用利用する技術を開発し、生産者向けマニュアルを作成しました。これは、従来のマニュアル(Ver.1)に、以下のような新しい技術等を追加・整理して分かりやすく説明したものです。
  • ロータリーシーダなどを用いる通常の乾田直播に対し、プラウによる深耕とグレーンドリルによる時速10km程度の高速作業が可能で、直播適性品種「萌えみのり」を用いることで、移植栽培と同等以上の収量が得られます。
  • ハローパッカなどによる鎮圧やトラクタ車輪による踏圧など、乾田直播栽培の普及拡大のネックであった漏水対策技術の開発により、復元田においても適正な減水深に保つことができるようになりました。これにより、水稲と麦・大豆などの水田輪作が容易にできます。
  • このほか、本マニュアルは、乾田直播において重要となる水管理、漏水対策のほか、肥培管理、大区画化ほ場の地力ムラ対策、雑草対策等について、作業の写真や実証試験結果のデータを多く掲載し、乾田直播の技術体系をさらにわかりやすく説明しています。また、大規模経営農家に技術導入した場合の経営評価と、導入農家の評価も掲載しており、新たに技術を導入する方が理解しやすいように作成しています。
  • マニュアルの入手方法:
    東北農研のウェブサイトからダウンロードしてご利用ください。
    http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/030716.html
    なお、冊子体をご希望の方は情報広報課へFaxまたはE-mailでお申し込みください。
    Fax:019-643-3588 E-mail:東北農研プレス用メール

関連情報

予算:
農林水産省委託プロジェクト「担い手の育成に資するIT等を活用した新しい生産システムの開発:超低コスト土地利用型作物生産技術の開発(平成19~21年度)」
農林水産省委託プロジェクト「水田の潜在能力発揮等による農地周年有効活用技術の開発 4系 超低コスト土地利用型作物生産技術の開発(平成22~23年度)」


詳細情報

社会的背景と研究の経緯

東北地域の直播栽培の普及面積は約4,800ha(平成22年現在)で、湛水直播が大部分を占めています(図1)が、青森県、宮城県、山形県では乾田直播の増加傾向が顕著です。その背景には、50haを越えるような大規模農家が増加している生産構造の変化があります。

米の生産費は、労働費と農機具費で半分以上を占めており(図2)、労働費と農機具費の削減なくして低コスト化は考えられません。労働費・農機具費を削減するためには、高速作業が可能な機械を利用して作業時間を削減するとともに、機械を様々な作目にフル活用する必要があります。また、米60kg当たりの生産コストを下げるためには、これら労働費・農機具費の削減と同時に移植並以上の収量を得る必要があります。

このほか、全国で100万haの生産調整が行われている現状では、水稲のみを対象とした技術開発ではなく、麦、大豆などの戦略作物も含めた水田輪作体系としての技術開発も重要です。

このようなことから、東北農研では大規模畑作で麦の高速播種に用いられるグレーンドリルを利用した乾田直播体系の開発を行ってきました。平成19年に東北農研内の1.9haの大区画水田(380×50m)で技術開発し、それから5年間にわたり、岩手県花巻市の大規模経営農家(62ha)で、水田輪作のなかで体系化実証試験を行ってきました。

研究の内容・意義

  • グレーンドリル(播種)、プラウ(耕起)などの畑作用機械を所有する大規模水田作経営で営農実証試験を行い、基盤管理、除草体系、施肥体系など個々の技術を体系化しました(図3)。
  • 直播栽培においては、苗立ち確保が重要なポイントです。乾田直播で苗立ちを良くするには、播種前に土壌を十分乾燥させることが重要です。そのため、前年秋にプラウ耕を実施し、春の融雪とともに土壌を乾燥させて播種床を作る体系を開発しました(図3)。
  • グレーンドリルは、麦類、ソバ、ナタネ、小粒大豆に利用でき、時速10km程度の高速播種作業が可能です。グレーンドリルを寒冷地の乾田直播に用いるための方法として、硬い播種床を作る技術体系を開発しました(図3)。
  • 乾田直播は代かきをしないことで畑作物の湿害が生じにくいため、田畑輪換に適するメリットを持っていますが、一方で漏水し易いデメリットもありました。本体系では、ハローパッカなどによる鎮圧やトラクタ車輪による踏圧による漏水対策技術を開発し、減水深を許容範囲の2cm/日以下に抑えることができました(図3)。
  • 岩手県花巻市の大規模経営農家での実証試験の結果、東北農研が育成した直播適性の高い品種「萌えみのり」を用いることで600kg/10a程度の収量が得られ、米60kg当たり費用合計は、東北平均と比較して55%程度まで低減しました(図4)。
  • 本マニュアルは東北農研のウェブサイトからダウンロードすることが可能です。
    http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/030716.html
    また、冊子体をご希望の方は東北農研情報広報課へFaxまたはE-mailでお申し込みください。
    Fax:019-643-3588 E-mail:東北農研プレス用メール

今後の予定

本マニュアルは、新しく開発した技術や、普及事例等を追加し改訂していく予定です。

また、圃場作りや播種作業などをより理解しやすいように、ビデオマニュアルを作成する予定です。

用語の解説

グレーンドリル
麦を高速で播種する作業機で、北海道の十勝地域では、この播種機を用いて3時間/10aの麦作体系が確立されています。作業幅2.5mクラスは50馬力程度の中型トラクタに装着して作業することができ、同時施肥が可能な機種もあります。

ハローパッカ
へら状の部品(タイン)と突起を有する鎮圧リングで構成され、タインで土壌表面を平らにし、その後鎮圧リングで砕土・鎮圧する構造の作業機です。時速10km程度でのの作業が可能です。

ロータリーシーダ
ロータリ(耕耘装置)の後ろに播種ユニットを装着した耕うん同時播種機で、水稲の乾田直播や、麦の播種に使われます。本播種機ではトラクタのエンジンの動力を伝動して作動させる機構を必要とし、作業速度は時速2km程度です。

プラウ
水田や畑における種まきや苗の植え付けに備えて土壌の耕起、反転等に使用する作業機で、一般的にトラクタで牽引して使用します。

カルチパッカ
耕起した畑の地表面を鎮圧するために用いる作業機で、ソロバン玉を連結したローラー状になっており、一般的にトラクタで牽引して使用します。

図1 東北地域の水稲直播栽培普及状況

図2 10a当たり米生産費構成割合

図3 乾田直播の作業体系

図4 乾田直播の生産コスト