プレスリリース
ビール醸造用の寒冷地向け二条大麦新品種「小春二条」を育成

情報公開日:2008年3月26日 (水曜日)

要約

東北農業研究センターでは、東北・北陸地域での小規模ビール醸造への原料供給を可能にするため、耐寒雪性の強い二条大麦品種「小春二条」を育成し、種苗法に基づく品種登録出願を行いました。本品種は、二条大麦としては耐寒雪性が強く、東北・北陸地域の既存の六条大麦品種と比べ、麦芽エキスやジアスターゼ力などのビール醸造に関連する特性が優れています。また、収量性は高くありませんが、穂発芽しにくく、赤かび病にも強く、穀粒は大きくて外観品質が優れています。

今後、実需者による品質評価を受けながら高品質性を実証し、東北・北陸地域の地ビール用原料として利用され、地産地消への貢献が期待されます。


詳細情報

背景とねらい

東北・北陸の寒冷地では地元産麦を使用したいわゆる地ビールが数社から販売されています。しかし、既存のビール用二条大麦は耐寒性や耐雪性が劣ることから、生産量や品質が安定しません。そのため、耐寒性、耐雪性の優れる六条大麦で代替したり、二条大麦の春播栽培により原料確保を行っている地域もありますが、秋播二条大麦と比べると、麦芽エキスが低い、麦芽の粗蛋白質含量が高いなど、品質が劣ります。そこで、寒冷地にも高品質な原料を供給することを目的として、耐寒性、耐雪性に優れる二条大麦「小春二条」を育成しました。

成果の内容・特徴

  • 「小春二条」(図1)は播性がIIで、出穂期、成熟期が寒冷地の大麦主力品種である「ミノリムギ」とほぼ同程度の中生品種です。早生の主力品種「シュンライ」と比べると出穂期は7日遅いです(表1)。
  • 稈長は「ミノリムギ」と同程度のやや長稈種で、穂数が多く、条性は二条です。(表1、図2)。
  • 「ミノリムギ」と比べると収量は少ないですが、千粒重、リットル重は大きく、穀粒の外観品質は優れます。(表1、図3)。
  • 耐寒性は「中」、耐雪性は「やや弱」で「ミノリムギ」より劣り、「シュンライ」並ですが(表2)、既存の二条大麦品種「あまぎ二条」と比べると明らかに雪害に強いです(図4)。
  • 耐倒伏性は「中」で穂数が多くなりすぎると倒伏します。穂発芽性、赤かび病抵抗性は「やや難」、「やや強」で「ミノリムギ」より優れ、大麦縞萎縮病、うどんこ病抵抗性は同じ「中」です。(表2)。
  • 実験室レベルの分析では、特に麦芽エキス、ジアスターゼ力が六条品種より高く、ビール醸造適性に優れています(図5)。
  • 搗精品質は「ミノリムギ」より搗精時間が短く、精麦白度、炊飯麦の白度がやや高く、食用としての用途にも適しています(表3)。
  • 東北・北陸地域の根雪期間70-80日以下の平坦地に適します。

品種の名前の由来

寒冷地で秋播可能な二条大麦であることをイメージできるように名付けました。また、交配親のビール用二条大麦「ミハルゴールド」にも因んでいます。

図1 岩手県一関市舞川地区における「小春二条」の栽培状況 (2007年6月18日撮影)
図1 岩手県一関市舞川地区における「小春二条」の栽培状況 (2007年6月18日撮影)

図2 「小春二条」の草姿(育成地、ドリル播栽培 2007年8月)
図2 「小春二条」の草姿(育成地、ドリル播栽培 2007年8月)
左から小春二条、ミノリムギ、あまぎ二条。あまぎ二条は寒雪害により短稈化している。

表1 「小春二条」のドリル播栽培での生育特性(育成地)
注)2002~2006年度の平均。シュンライは寒雪害のため成熟期が遅く、子実重が低くなっている。

表2 「小春二条」の病害および諸障害抵抗性
注)病害および諸障害抵抗性は下記成績を元に判定した。
耐雪性および耐雪性 2003~2006年度育成地成績および2001,2005,2006年度岩手県農業研究センター成績。
耐倒伏性および縞萎縮病抵抗性 2002~2006年度育成地成績
穂発芽性およびうどんこ病抵抗性 2001~2006年度育成地成績
赤かび病抵抗性 2001,2005,2006年度作物研究所成績および2003,2005,2006年度長野県農事試験場成績

図3 「小春二条」の穂と粒
図3 「小春二条」の穂と粒(育成地、ドリル播栽培 2007年8月) 左から小春二条、ミノリムギ、あまぎ二条

図4 「小春二条」越冬後の様子
図4 「小春二条」越冬後の様子
左:小春二条(寒害・雪害程度「微」)右:あまぎ二条(寒害・雪害程度「中」~「多」)

図5 「小春二条」のビール醸造適性。
図5 「小春二条」のビール醸造適性。2004~2005年度。育成地ドリル播栽培分析は栃木県農業試験場栃木分場に依頼。

表3 「小春二条」の搗精試験成績
注)2002~2005年度の平均
佐竹製作所TM05Cを用いて、搗精歩留55%になるように搗精を行う。

栽培性に関わる用語の説明

播性
花芽分化のための寒さを必要とする度合い(低温要求量)のことです。IIはその要求量が低いことを示しており、春播きしても種子ができます。

ビール醸造に関わる用語の説明

麦芽エキス
麦芽中の可溶性抽出物の含量。アルコールの元になる物質で、多いほどよい。以下の手順で測定します。
●まず、原料麦を所定の方法で吸水、発芽、乾燥させて麦芽を作る。
●麦芽を粉砕、加水し、所定の温度で糖化させて麦汁を作る。
●麦汁の密度を測定し、換算式により麦芽エキスを求める。
なお、麦汁を煮沸、冷却し、酵母を加えて所定の温度に保つとビールができます。

ジアスターゼ力
糖化能力(でんぷんを分解する能力)を示す指標。高い方がよい。
麦芽中の窒素含量と相関が高いため、測定されたジアスターゼ力を窒素含量で除した値を用います。

搗精に関わる用語の説明(食用、味噌等の加工に用いる場合に重要となる項目)

搗精時間
大麦は穀皮で覆われているため、食用に供するときは穀皮を削る加工(搗精)を行います。東北農業研究センターの試験では歩留55%になるまで削り、このとき削るのに要した時間が搗精時間。時間が短い方が粒が柔らかいと判定されます。

搗精白度
55%に搗精した麦を白度計(ケット製C300)で測定した値。

炊飯麦の白度
蒸し器で炊飯し、白度計(ケット製C300)で測定した値。