背景とねらい
東北地方では、冬の農業振興が重要な課題の一つとなっており、冬の寒さを利用した寒締めホウレンソウは、農閑期のビニールハウスを有効に使えるだけでなく、価格も高く販売でき、まさに一石二鳥の栽培法といえます。しかしながら、寒締め栽培ではホウレンソウに低温を与える時期とその期間が重要であり、計画的に出荷するには生育状況と気象条件の両方を考慮する必要があります。そこで、気象(気温)データを用いて寒締めホウレンソウの生育状況を予測し、適切に低温を与えることによって計画的な出荷に役立てることを研究のねらいとしました。
成果の内容・特徴
- 本システムは、データベースサーバとウェブサーバとで構成されています(図1)。データベースサーバは、気象予測データおよび1kmメッシュ気象データを、農林水産研究計算センターサーバから毎日自動的に取得し、寒締めホウレンソウの生育予測モデル等の計算を実行します。ユーザーは、ウェブサーバからの各種情報をGISソフトウェアと連動させて地図上に表示させて閲覧できます。
- ウェブサイトのURLはhttp://tohoku.dc.affrc.go.jp/yamase.htmlです。この画面において、「寒締め菜っぱ情報」アイコンをクリックすると、寒締めホウレンソウ生育情報サイトへリンクします(図2-1)。サイトへは、ユーザーIDおよびパスワードを入力することでログインすることができます。ユーザーID とパスワードは、本サイトからメールにより申請していただき、すぐに配布します。どなたでも無料で利用できます。 なお、ユーザーID 、パスワードは本ウェブサイトで運用している「水稲情報」にも利用可能です。
- 主な提供情報は、1km メッシュ情報として展開された気温データおよび気象予測データを用いた寒締めホウレンソウの生育予測情報、並びに寒締めホウレンソウ糖度予測情報です。
- 播種日と生体重予測日を旬別に選択し、生体重予測マップを表示できます。図3には、10月上旬播種した場合の1月上旬の予測生体重マップを示します。なお、生体重予測マップは、ビニールハウスの側窓を開放して生育した場合であり、側窓を閉じた場合はこれよりも生育が進みますのでご注意下さい。
- GISウェブを使っているので、任意の範囲で拡大が可能です(図4)。さらに拡大すると、地名や道路、鉄道などの情報も閲覧でき、必要なメッシュが選択できます(図5)。
- メッシュごとに生育予測のグラフが表示できます(図6)。平年値での生体重予測グラフと気温実測値および予測値に基づいた生体重予測グラフが、側窓を開放した場合と閉じた場合の、合計4通りで表示されます。これらにより、平年よりも生育が進んでいるのか遅れているのかが把握でき、また、一週間分の気象予測データを基にした生育予測も見ることができます。
- 寒締めホウレンソウ糖度予測情報は、外気温(メッシュ気温)から推定した開放ハウスの地温をもとに、予測日前5日間の平均地温から推定した糖度(Brix)を、東北全域のマップに色分けして表示します(図7)。この糖度予測マップは、マニュアル作業により随時掲載しており、ウェブのメニュー画面上から閲覧することができます(図2-2)。糖度予測値は、ビニールハウスの側窓を開放した時の目安として利用可能ですが、 日射量は考慮していませんので、日照の多少で±1度程度の糖度の変動が生じる可能性があります。
- 本ウェブサイトの「水稲情報」アイコンは、水稲生育予測関連情報サイトへリンクしており、2007年は4月~9月まで水稲関連の情報を発信しました。2008年も4月から情報の発信を再開します。






用語説明
寒締めホウレンソウ
「寒締め」は東北農業研究センターの前身である東北農業試験場で開発された栽培技術です。昔からホウレンソウや菜っぱ類が冬に甘く美味しくなることは良く知られていました。実際、ホウレンソウに限らず越冬する植物は雪や寒さに当たると体内の糖分が上がることが分かっています。これは車の不凍液と同じ原理で、凍るのを防ぐ作物の自己防衛反応であると考えられています。「寒締め」はこの現象を積極的に利用した栽培法です。野菜を「寒」さで「締める」という意味で名付けられました。初めから寒さを当てるのでなく、最後に寒さを当てることがこの栽培法のポイントです。実際には収穫可能な大きさまで育った時点でハウスの裾を上げ、外気を入れて中の温度を下げるだけです。寒締めにより糖含量が増え甘く美味しくなっただけでなく、ビタミン類も増加して栄養価が高くなり、更に硝酸含量が低下することが明らかになっています。
気象予測データ
最初に気象庁で計算された予測データを、日本気象協会でダウンサイジングし、さらに農林水産研究計算センターのサーバで1kmメッシュまで計算したデータを用いています。ちなみに「予報」とは、晴れや曇り等の天気の解釈まで入ったものを指し、本システムのようにデータのみを用いる場合は「予測」データと呼びます。
1kmメッシュ気象データ
東北農業研究センターで開発した計算システムを用いて、たてよこ約1km単位のメッシュ気温データを日々作成し、ウェブ上で配信しています。URLはhttp://tohoku.dc.affrc.go.jp/trmain.htmlです。
GIS
Geographic Information Systemの略で、地理情報システムのこと。GISは、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術です。本ウェブシステムでは、気象予測データから水稲生育情報までを1kmメッシュ単位で閲覧可能に運用しております。