プレスリリース
腟内留置型黄体ホルモン製剤の適正な使い方

- 肉用牛で発情日にCIDRの処置を開始すると発情同期化の効果は低下する -

情報公開日:2007年11月 5日 (月曜日)

要約

東北農業研究センターでは、肉用牛の繁殖機能を安定して制御できる技術の開発に取り組んでいます。このたび、牛群の発情を揃える、発情同期化のために国内で広く利用されている腟内留置型黄体ホルモン製剤(CIDR)の適正な使用方法について再検証しました。その結果、肉用牛でCIDRの処置を発情日に開始した場合、同期化の効果が低下することを明らかにしました。この結果から、CIDRで肉用牛の発情同期化を行う場合、処置開始として発情日は避けるべきと考えられます。


詳細情報

背景とねらい

牛群の発情を揃える発情の同期化は、その後の人工授精や胚移植を効率よく行い、安定した子牛生産のために、重要な技術として行われています。処置方法が簡便な腟内留置型黄体ホルモン製剤(CIDR)は、黄体退行薬と異なり、発情周期中のどの時期でもいつでも処置を開始できるとされており、同期化薬として国内で広く利用されていますが、有効な効果が得られない場合があります。

そこで、その原因を明らかにするとともに、同期化効果の向上や適正な利用推進のために、CIDRの発情同期化効果と発情周期中に処置開始を行う時期との関係を再検証しました。

成果の内容・特徴

  • 発情日にCIDRの処置を開始すると、発情発現率は低下し、CIDRを取り除いた後の排卵が遅れ、同期化効果が低下します(表)。
  • 黄体開花期に処置を開始した場合(図、青)、CIDR留置中に黄体ホルモン濃度は低下します。これは黄体機能が低下することを示しています。さらに、抜去後は黄体ホルモンが急激に低下するため、発情と排卵が誘起されます。
  • 発情日の処置開始(図、赤)では、黄体ホルモン濃度は上昇します。この理由としては、処置開始翌日に排卵が起こり、新たな黄体が発育するためであることがわかりました。さらに、抜去後の数日間は黄体機能が持続し、その後の黄体退行が緩慢となるため、発情および排卵が遅れ、発情は微弱化することが明らかとなりました。
  • これらの結果から、CIDRで肉用牛の発情同期化を行う場合、処置開始として発情日は避けるべきと考えられます。

表 CIDRの処置開始時期が発情同期化効果に及ぼす影響

図 CIDR処置前後の黄体ホルモンの推移

用語説明

黄体退行薬
黄体を縮小させ、その機能を消失させる効能を持つ薬物。生理活性物質の一つであるPGF2α(プロスタグランジンF2α)が強い黄体退行作用を持つ。しかし毒性も強いため、その副作用を少なくしたPGF2αの類縁物質が黄体退行薬として市販され、利用されている。牛では、機能的な黄体がある時期に黄体退行薬を注射すると、注射後3日目前後に発情が起こる。

CIDR
腟内留置型黄体ホルモン製剤(controlled intravaginal drug releasing device ; CIDR、商品名:イージーブリード、InterAg)。 基本的な使い方は、CIDRを牛の膣内に入れて留め置き、発情してほしい時期の直前に引き抜く(抜去)。CIDRを腟内に入れて置くと、CIDRの黄体ホルモンが溶け出して膣に吸収され、12~14日後には、黄体は黄体ホルモンの分泌能力を失う。その状態でCIDRを抜去すると、血中の黄体ホルモンの急激な低下が起こり、それに続いて発情が起こる。 下は、CIDRの写真と使用方法。使用する際は、専用の挿入器具にCIDRを装着する。この器具に装着することで、先端のT字型の部分が閉じ、I型の形状となる。その状態で膣内へ挿入し、挿入器具だけ膣外に抜く。CIDRは膣内でT字型に開き固定される。ひもの部分は体外へ出しておき、ひもの部分を持ってCIDRを抜去する。

写真 CIDR