背景とねらい
トウモロコシは高栄養で、家畜の嗜好性も高い飼料作物です。また、単位面積あたりの生産量が多いため、飼料の自給率を向上させるためにもその栽培面積を拡大させることが望まれています。しかし、トウモロコシの収穫・サイレージ調製のためには一般的に共同作業が必要とされており、労働力が不足している現状においては、その栽培面積は減少傾向にあります。近年、細断型ロールベーラが開発されたことにより、サイロ施設から離れた圃場においても単独作業によりトウモロコシサイレージを生産することが可能となってきました。これに伴い、利用されないまま放置されてきた公共草地が、東北地域の新たなトウモロコシの生産基盤として注目されています。しかし、公共草地の多くは寒冷な高標高地に点在しており、また、サイロ施設から離れた場所に存在しているために、これまでにトウモロコシの栽培実績がありませんでした。
そこで、本研究では、飼料生産基盤の拡大のために、極早生品種を用いて、北上山系の高標高地におけるサイレージ用トウモロコシの生産の可能性を検討しました。
成果の内容・特徴
- 北上山系の高標高地でサイレージ用トウモロコシを栽培する場合、極早生 品種(相対熟度75日程度)を5月中に播種すると、1500kg/10a程度の乾物収量が確保できます(表)。
- 5月下旬以降、播種期が遅くなるほど、収穫期のトウモロコシの乾物率が低下します。細断型ロールベーラを用いた時、サイレージ調製が可能な25%以上の乾物率を確保するには、5月中に播種する必要があります(図1)。
- 収穫時のトウモロコシの乾物率を25%以上とするためには、播種から収穫までの生育期間の単純積算気温が1900°C・日以上であることが一つの指標となります(図2)。
- 以上のように、遠隔で、寒冷な高標高地においても、極早生品種を5月中に播種し、細断型ロールベーラを用いると、良質なトウモロコシサイレージを生産することができます。
- 本成果は、岩手県早坂高原(標高916m)で実施した試験から得られたものであり、同様な高標高で寒冷な遠隔地においてトウモロコシを導入し、飼料基盤を強化することが可能であると考えられます。
- 本研究は、岩手県農業研究センター畜産研究所の協力を得て実施しました。



用語説明
乾物率
乾物率とは植物の生重量に対する乾燥重量の割合のことです。トウモロコシは成熟に伴い、その乾物率が上昇します。乾物率の低いトウモロコシを用いてサイレージを調製すると、養分を多く含んだ排汁が多量に発生してしまいます。
細断型ロールベーラ
従来、トウモロコシのサイレージ調製のためにはサイロ施設が必要でした。しかし、細断型ロールベーラの開発により、トウモロコシを牧草と同様にロールベールに成形することが可能となりました。細断型ロールベーラを用いることで、サイロ施設から離れた圃場においても、高品質のサイレージを作ることが出来るようになりました。また、共同作業が必要であった収穫・調製作業の省力化も可能となりました。 これまでに東北農業研究センターでは、収穫時のトウモロコシの乾物率が25%以上の場合には、細断型ロールベーラを用いて排汁の少ないロールベールサイレージを調製することが可能であることを明らかにしています。
相対熟度
トウモロコシの早晩生を相対的に数値化したもので、栽培期間中の平均気温が20°C程度の場合に、おおむね収穫までに要する日数を表しています。早生品種の相対熟度は115日前後、中生品種は125日前後、晩生品種は135日前後とされています。
単純積算気温
一定期間内の0°C以上の日平均気温を合計した数値のことです。一般に、温度条件から作物の生育を予測する場合には、10°Cを基準気温とし、それ以上の気温を積算する有効積算気温が用いられています。しかし、東北農業研究センターでは、東北地方においてサイレージ用トウモロコシの生育予測を簡便に行う場合には、0°Cを基準気温とする単純積算気温を用いた方が適当であることを明らかにしています。