プレスリリース
東北地域向けの早生の飼料イネ新品種「べこごのみ」を育成

情報公開日:2007年10月 3日 (水曜日)

要約

東北農業研究センターでは、東北地域での自給飼料生産の拡大に向けて、早生の飼料イネ品種「べこごのみ」を育成しました。本品種は、東北地域中北部においても生産が可能で、省力・低コストの直播栽培にも適しており、既存の早生多収品種よりも5%以上多収です。稲発酵粗飼料として牛の飼料に、また飼料米として豚、鶏の飼料に利用することができます。

本品種により、東北地域中北部においても専用品種による飼料イネ生産が進むことが期待されます。 なお、本研究は、農林水産省プロジェクト研究「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発」予算で実施されました。


詳細情報

背景とねらい

我が国の飼料自給率は低く、最近のトウモロコシを中心とした国際価格急騰の影響もあって自給飼料の増産が強く求められています。飼料イネは水田での生産が可能で、導入が容易な飼料作物として期待されています。現在までに東北地域で栽培できる飼料イネ品種として、中晩生の「べこあおば」、「夢あおば」が育成されていますが、東北地域中北部では熟期がやや遅く、食用品種と収穫時期が競合し、飼料として早く収穫することができません。そこで、東北地域中北部においても生産が可能な、早生の飼料イネ品種を育成しました。

成果の内容・特徴

  • 「べこごのみ」(図1)は、早生の多収品種「アキヒカリ」より4日早く、"極早生"に属するうるち品種です。黄熟期は「アキヒカリ」と同程度、既存の飼料イネ品種「べこあおば」、「夢あおば」より10日以上早く、東北地域中北部の食用品種よりも早く収穫が可能です。
  • 稈長は「アキヒカリ」より、長い中稈、穂長は「アキヒカリ」より長い"やや長"、穂数は少なく"穂重型"です(図2)。
  • 稲発酵粗飼料としての黄熟期の乾物収量及びTDN収量は、移植栽培でいずれも「アキヒカリ」より6%多収です(表1)。
  • 倒伏に強く、省力・低コストの直播栽培にも適しており、直播(表面散播)栽培での黄熟期の乾物収量及びTDN収量は、それぞれ「アキヒカリ」より9%、5%多収です(図2、表2)。
  • 飼料米としての成熟期の玄米収量は、「アキヒカリ」より5%多収で(移植栽培)、粒大は玄米千粒重が「アキヒカリ」並の22gで、玄米品質は心白や乳白が多く「アキヒカリ」より劣る"上下"です(表1、図3)。
  • 多収事例として、黄熟期のTDN収量で921kg/10a、成熟期の玄米収量で816kg/10aの報告があります(いずれも2005年秋田県大仙市、施肥量は窒素成分で16kg/10a(基肥6kg/10a、追肥10kg/10a))。
  • 栽培適地は、東北地域の中北部及びそれ以南の地域です。

品種の名前の由来

べこ(牛:東北の方言)が好んで食べる飼料イネであることを表しています。

図1 「べこごのみ」の草姿(移植栽培、育成地、2006年8月)

表1 「べこごのみ」の移植栽培での生育特性(育成地)

図2 直播栽培(表面散播)での「べこごのみ」の草姿

表2 「べこごのみ」の直播栽培での生育特性(育成地)

図3 「べこごのみ」(左)と「アキヒカリ」(右)の玄米と籾

用語説明

稲発酵粗飼料
ホールクロップサイレージ(WCS)ともいい、稲の米粒が完熟する前(糊熟期~黄熟期)に、穂と茎葉を同時に刈り取り、発酵させてサイレージ化(漬け物のようなもの)した粗飼料。一般的に、サイレージ化はロール状にした穂や茎葉をフィルムで包み込み、発酵させて作られます。

TDN収量
TDN(Total Digestible Nutrients)は飼料の栄養価(エネルギー含量)を表す単位であり、可消化養分総量ともいいます。消化吸収される飼料の養分の総量をさします。
TDN収量は、単位面積あたりにおける消化吸収可能な粗飼料の収量です。