プレスリリース
米ぬかからの高純度トコトリエノール製造技術を開発

- 米油廃棄残渣の有効利用 -

情報公開日:2007年7月12日 (木曜日)

要約

東北農業研究センターを始めとする研究グループ(東北大学大学院農学研究科、三和油脂株式会社、オルガノ株式会社)は、米ぬかからの米油の製造過程で排出される廃棄残渣から、95%以上の高純度トコトリエノールを工業的に連続生産する技術開発に世界で初めて成功しました。トコトリエノールはビタミンEの一種であり、ビタミンE一般にみられる抗酸化作用のほか、ヒトでのコレステロール低下作用や動脈硬化、リウマチ性関節炎などの予防効果についての報告もあることから「スーパービタミンE」と呼ばれることもあります。今後、食品や医薬品、化粧品への展開が検討されています。本技術は、米油残渣の有効利用に資するほか、我が国で大量に排出されるイネ由来の廃棄物系バイオマスの利用を可能にする技術として期待されます。 本研究は、農林水産省の委託プロジェクト研究「農林水産バイオリサイクル研究」により実施しました。


詳細情報

背景とねらい

ビタミンEの一種であるトコトリエノールは食品や医薬品、化粧品への展開が期待されており、大きな需要が見込まれますが、現状の製造技術では純度60%以下の低含量のものが少量しか製造されていません。このため、純度の高いトコトリエノールの大量供給が望まれています。

イネはトコトリエノール生産の有望作物として知られています。米油の製造工程で排出される脱臭スカム油にはトコトリエノールが比較的豊富に含まれています。そこで、工業的クロマト分離技術である擬似移動層クロマトグラフィーを適用して、米ぬか脱臭スカム油から高純度トコトリエノールを連続して製造する技術の開発を目指しました。

成果の内容・特徴

  • 米油の製造工程で排出される脱臭スカム油(トコトリエノールを約2%含有)を原料とします(図1)。
  • 工業的クロマト分離技術である多成分分離方式擬似移動層クロマトグラフィーの条件を最適化することで、高純度米ぬかトコトリエノールの連続製造を可能にしました(図2)。
  • 本技術で使用する溶媒(エタノールと水の混合溶媒)は人体に無害で食品としても利用されていますので、製造されるトコトリエノールは、食品として利用できます(図2)。
  • 得られるトコトリエノールは、α,γ-体を主成分とする混合物で、純度は95%以上(図3,4)、回収率は80%以上です。

図1 米ぬかからのトコトリエノール製造の流れ

図2 米ぬかトコトリエノール分離装置

図3 製造された高純度トコトリエノール

図4 製造されたトコトリエノールの組成分析

用語説明

トコトリエノール
ビタミンEの一種。
一般に、ビタミンEはトコフェロールとして知られているが、トコトリエノールはトコフェロールの側鎖に二重結合を3つ有するところが異なる。
a, b, g, d の4つの異性体がある(下図参照)。

図5 トコトリエノールとトコフェロールの科学構造

擬似移動層クロマトグラフィー
クロマトグラフィーは、吸着を利用して混合物を分離する技術で、擬似移動層クロマトグラフィーは、工業的に混合物を分離するクロマトグラフィーのひとつ。

移動相の流れに対し、逆方向に固定相(カラム)を擬似的に移動させることにより、連続的に目的物質を単離するものである。

今回は、原液中にトコトリエノールのほか、遊離脂肪酸、ステロール、トコフェロールが含まれるが、トコトリエノールの分離速度でカラムを擬似的に移動相とは逆方向に移動させることで、トコトリエノールはその場にとどまり、夾雑物のみが移動し、分離される(下図参照)。

図6 擬似移動層クロマトグラフィーの原理図

脱臭スカム油
米油の製造においては、油の抽出後、脱ガム、脱酸、脱ロウ、脱色、ウィンタリング、脱臭という工程を経る。最後の脱臭工程において、脱臭スカム油(不要な油)が排出されるが、このスカム油は米油1万トンに対し、約75トン排出され、このスカム油にはトコトリエノールが比較的高濃度(約2%)に濃縮されている。