プレスリリース
地表をクローバで覆うリビングマルチ栽培でトウモロコシの減化学肥料栽培が可能に

- 飼料用トウモロコシの菌根形成を促進 -

情報公開日:2007年7月 5日 (木曜日)

要約

東北農業研究センターでは、リン酸欠乏になりやすい黒ボク土の畑地で飼料用トウモロコシを栽培する際、シロクローバを用いたリビングマルチ栽培を行うと、リン酸欠乏症状が軽減され、トウモロコシが増収することを確認していました。今回、その仕組みを調べ、トウモロコシの増収は、リビングマルチによってアーバスキュラー菌根の形成が促進され、それによってトウモロコシのリン酸吸収が増加することに起因することを明らかにしました。今後はこの研究成果を応用し、化学肥料を減らした栽培技術開発することが期待されます。


詳細情報

背景とねらい

今までに、研究課題「リビングマルチ導入によるトウモロコシの環境保全型生産技術の開発」などにおいて、飼料用トウモロコシでシロクローバを用いたリビングマルチ栽培を行うと、雑草の抑制効果や窒素の供給効果だけでなく、トウモロコシのリン酸欠乏症状も軽減する現象が起こることを見出してきました。

しかし、リン酸欠乏症状が軽減する要因はこれまで明らかとはなっていませんでした。一方、アーバスキュラー菌根が形成されると、作物のリン酸吸収が促進されることが知られており、上記の現象には、アーバスキュラー菌根菌が関与しているのではないかと考えられました。

そこで、リビングマルチ栽培がアーバスキュラー菌根の形成に及ぼす効果と、菌根形成がトウモロコシの増収にどのように関与しているのかを解明しました。

成果の内容・特徴

  • リン酸肥沃度が低い黒ボク土の畑地などでは、リン酸を施用しないとトウモロコシの初期生育が不良となりますが、シロクローバを用いたリビングマルチ栽培では、生育が良好となります(図1)。
  • リン酸を施肥しない場合、トウモロコシの収量は著しく低下しますが、リビングマルチ栽培では、生育初期におけるトウモロコシのリン濃度と乾物重が増加しました。さらに乾物収量も高くなります(表)。
  • リビングマルチ栽培では、飼料用トウモロコシのアーバスキュラー菌根の形成率が高くなります(図2)。
  • 以上の結果より、リビングマルチ栽培において、トウモロコシの乾物収量が増加したのは、アーバスキュラー菌根の形成が促進され、リン酸の吸収が増加したことが原因の一つであると推察されます。
  • リビングマルチ栽培により、リン酸吸収量が増加することから、飼料用トウモロコシの減化学肥料栽培技術への応用が期待されます。
  • 栽培上の留意点として、北東北でシロクローバを用いたリビングマルチ栽培を行う場合には、トウモロコシの播種前年の夏(8月)に、シロクローバを播種する必要があります。

図1 生育初期のトウモロコシの様子

表1 生育初期におけるトウモロコシのリン濃度、乾物量および乾物収量

図2 トウモロコシ細根のアーバスキュラー菌根の形成率

図3 アーバスキュラー菌根が形成されたトウモロコシの根

用語説明

リビングマルチ栽培
リビングマルチとは、主作物と同時に、もしくは主作物の播種の前に播種し、主作物の生育期間中も生きたまま生育を続けさせる被覆植物のことであり、リビングマルチ栽培とはそのような被覆植物を活用する栽培方法のことです。
この栽培方法のそもそもの目的は、地表を植物で覆うことにより、土壌侵食を防止することにあります。その一方で、主作物の生育期間中も被覆植物が主作物の下で生育をしていますので、畝間に雑草が繁茂することを抑制する効果があることも認められています。また、リビングマルチとしてシロクローバなどのマメ科植物を導入することにより、主作物に窒素を供給する効果が現れ、窒素肥料の削減が可能となる場合もあります。

リン酸欠乏症状
リン酸は生命に必須な栄養素であり、その栄養状態は作物の生産性に大きく影響します。リン酸が欠乏すると草丈などが減少し、極端な場合には生育が停止することがあります。
特に生育初期に欠乏しやすく、赤紫色のアントシアンが蓄積し、葉が赤紫色を呈することがあります。

アーバスキュラー菌根
菌根とは植物と菌類の共生体の一種であり、そのような菌根を形成する共生菌のことを菌根菌といいます。菌根のうち、もっとも一般的に存在するものがアーバスキュラー菌根です。陸上植物の80%がアーバスキュラー菌根を形成するともいわれています。
一般にリン酸は土壌粒子に強く吸着されているため、土壌中での移動速度が遅く、作物は根の近傍のリン酸しか吸収できません。しかし、アーバスキュラー菌根菌は、外生菌糸を宿主植物の根が伸びていない範囲にまで伸長させ、リン酸などの無機養分を吸収し宿主植物に供給することで、その生育を改善することが知られています。