プレスリリース
猛暑により発生するコメの胴割れを軽減できる栽培条件を東北農研が明らかに

情報公開日:2007年7月 5日 (木曜日)

要約

東北農業研究センターでは、これまで、コメに「ひび」が入り、品質低下の原因となる「胴割れ」の現象は、水稲の登熟初期の高温条件により発生が助長されることを明らかにしてきましたが、このたび、胴割れ発生を軽減するには、登熟初期に高気温を回避する作期選択や圃場の地温を下げる水管理、更に、登熟期間に葉色を過度に低下させない追肥が有効であることを明らかにしました。今後は、これらの研究成果を利用してコメの胴割れ発生を防ぐ技術を普及することが期待されるとともに、地球温暖化適応策に関する技術開発の一つとしても注目されます。


詳細情報

背景とねらい

コメの胴割れは米粒の内部に亀裂を生じる現象で、精米時に砕米が多発し、歩留まりや食味が低下するため、加工・流通の際に問題となります。近年、胴割れによる品質低下が全国各地で発生しており、生産者にとっては頭の痛い問題となっています。胴割れの栽培対策技術として、登熟後期まで圃場に通水する水管理や適期刈り取りの励行などが従来から指導されてきました。しかし、適期に収穫してもなお胴割れが認められる、との声も聞かれており、発生をより軽減するための栽培法が強く求められています。

一方、夏期の高温条件によるコメの品質低下が全国的な問題として近年大きく取り上げられていますが、私たちは、これまでに、登熟初期の高温により胴割れの発生も増えることを明らかにしてきました。地球温暖化による気温上昇が今後も予測されるため、胴割れによる品質低下が将来増加することが懸念されます。

そこで、コメの胴割れ発生を軽減するために有効な作期、水管理、施肥法などに注目して検討を行ってきました。

成果の内容・特徴

  • 登熟初期(出穂後10日間)の気温が高温にならないように水稲の作期を調整すると、胴割れが少なくなります(図1)。
  • 登熟初期(出穂後10日間ないし20日間)にかけ流しの水管理を行うと、胴割れが少なくなります(図2)。特に、出穂後10日間の圃場の地温を下げることにより軽減効果が高くなります。
  • 窒素追肥により、登熟期間中の葉色値が高く維持されると、胴割れが少なくなる傾向があります(図3)。最近では、食味向上を意識して施肥量の低減化が進められていますが、生育状況に応じて適切に追肥を行わないと、胴割れの発生が増える可能性があります。
  • 以上の結果から、登熟初期の高気温を回避する作期選択や圃場内地温を下げる水管理、さらに、登熟期間の葉色が過度に低下しないよう適切に追肥を行うことが胴割れの発生を軽減するために有効な栽培条件であるといえます。
  • 胴割れが例年発生しやすい地域や夏期の高温が予想される年次において以上の知見を導入することで、発生がより軽減されることが期待されます。その場合には、登熟後期まで圃場に通水する水管理や適期刈り取り、収穫後の適切な乾燥調製条件の設定、といった、従来から行われている技術も大変重要であり、これらの技術と組み合わせて本成果を利用することが必要です。

図1 出穂期と登熱気温および胴割れ発生との関係

図2 登熱初期の水管理条件が胴割れ発生程度に及ぼす影響

図3 登熱期の止葉葉色値と胴割れ率との関係

用語説明

コメの胴割れと発生メカニズム
コメの胴割れは、米粒の胚乳部分に亀裂が生じる現象です(写真)。胴割れの形状は横1条の亀裂が通る場合が多いですが、程度が重くなると横に2条以上生じたり、縦に亀裂を生じたりするほか、亀甲型の亀裂を生じるものもあります。
米粒は、外界の湿度に敏感に反応して水分を吸収または放出します。完熟した米粒は硬いので、そのような膨脹や収縮が急激に生じると内部に圧力の不均衡が生じ、それに耐えきれなくなった米粒に内部亀裂が生じます。
生産現場では、刈り取りが遅れて米粒の含水率が大きく低下した状態で降雨にあったり、収穫後の乾燥調製の際に、籾を急速に乾燥させ過ぎたりすると胴割れが増えることが知られており、登熟後期まで圃場に通水する水管理や適期刈り取り、適切な乾燥調製条件の設定など、登熟後期から収穫期以降の生産管理がこれまで重要視されてきました。

写真 米の胴割れ

胴割れ発生に及ぼす登熟初期の気温の影響
私たちは、圃場試験における胴割れ発生の解析から、出穂後10日間という登熟初期の気温、特に、日最高気温が高いほど胴割れが増えることをこれまでに明らかにしました(図4)。ポット試験などで詳しく調査したところ、夜温よりも日中の最高気温の影響がより強く、特に、開花後6~10日の期間に高温処理を行うと胴割れが著しく増加する、という結果を得ています。先に述べたように、完熟した米粒内の急激な水分変化により、内部圧力の不均衡が大きくなる条件で、胴割れは生じることが既に知られていますが、そのような条件になったときの胴割れの生じやすさ、すなわち、米粒の質的な胴割れ難易度に、登熟初期の温度条件は関与しているのではないか、と現段階では推察しています。

図4 出穂後10日間の平均日最高気温と胴割れ率との関係