プレスリリース
四季成り性イチゴ品種「なつあかり」「デコルージュ」のランナー発生条件

情報公開日:2007年6月28日 (木曜日)

夏秋どりに有利な性質を持つ四季成り性イチゴは、一般に、一季成り性イチゴに比べランナー発生が少ないという特徴を持ちます。東北農業研究センターが平成16年に育成した四季成り性イチゴ品種「なつあかり」と「デコルージュ」について、効率的に苗増殖を行うために両品種のランナー発生に必要な低温遭遇時間と日長時間の関係を明らかにしました。


詳細情報

背景とねらい

イチゴは冬に十分な低温にあたった後、春の高温・長日条件下でランナーを発生させます。ランナー発生に必要な低温量は品種間で異なり、一般に、四季成り性イチゴは一季成り性イチゴに比べてランナーが発生しにくいという特徴を持ちます。そこで、東北農業研究センターが開発した夏秋どりイチゴとして期待されている四季成り性イチゴ品種「なつあかり」と「デコルージュ」について、効率的な苗増殖を行うために、両品種のランナー発生に必要な低温遭遇時間などを調査しました。

成果の内容・特徴

  • ランナー発生に必要な低温遭遇時間を調べたところ、700時間および1000時間の場合、両品種とも試験地(盛岡)の12月上旬~4月上旬の自然日長ではランナーが発生しませんでした(図1)。 しかし、低温遭遇時間が1000時間を超え2000時間の範囲では、低温遭遇時間が長いほどランナーが多くなります。このことから、「なつあかり」「デコルージュ」では現在主流の促成栽培用品種のような感覚で低温遭遇を切り上げることは避ける必要があります。
  • また、温室で白熱電灯を使って1日の日の長さを拡大させると、1000時間でもランナーが発生します。このことから、補光もランナー発生に有効であることが分かりました。
  • 冷蔵庫を使って人工的に低温に遭わせると、「デコルージュ」では冷蔵30日間以上で、「なつあかり」では60日間以上で、それぞれランナーが発生します。また、両品種ともランナー数は90日間で最大となり、これより長く冷蔵してもあまり増加しません(図2)。このことにより、冷蔵庫を使うことができれば、自然条件で低温が足りなくてもランナーを発生させることができることがわかりました。なお、図2の結果は図1と比べてランナー発生本数が少なめですが、使用したポットの大きさが異なっていたことが原因と考えられます。
  • 低温に十分に遭遇させた後、日長がランナーの発生数に及ぼす影響を調べると、「なつあかり」では、日長が長いほどランナーが多くなります。一方、「デコルージュ」では、12時間程度の日長がランナー発生に適していると考えられます(図3)。

図1 「なつあかり」「デコルージュ」の低温遭遇時間
図1 「なつあかり」「デコルージュ」の低温遭遇時間および日長とランナー発生数

  • 屋外の自然低温にあて、5°C以下の温度に遭遇した累積時間が700、1000、1500、2000時間になったのち、それぞれを最低気温15°Cに設定した温室に運び込んだ後、3カ月間に発生したランナー数を調査。
  • 直径21cmのポットを用いた。
  • 5°C以下の累積時間と自然日長時間(盛岡市平均)の関係は以下のとおり。
    5°C以下の累積時間---自然日長時間(盛岡市平均)
    0時間---9時間50分
    700時間---10時間40分
    1,000時間---11時間10分
    1,500時間---12時間
    2,000時間---12時間50分

図2 冷蔵期間とランナー発生数
図2 冷蔵期間とランナー発生数
(温室で育てた苗を12月に-1.5°Cの冷蔵庫に入れ、所定時間経過後に温室に戻した後、3カ月間に発生したランナー数を調査。直径13.5cmポットを用いた。)

図3 低温充足後の苗に対する日長がランナー発生数に及ぼす影響
図3 低温充足後の苗に対する日長がランナー発生数に及ぼす影響
(屋外で越冬した苗を5月中旬から10月上旬まで日長処理し、ランナー発生数を調査。直径21cmポットを用いた。)

用語説明

イチゴの1年
自然界ではイチゴは春に花を咲かせ、実をつけます。また、そのころから夏にかけてランナー(つる状に伸びて地上を這う枝)を出して新しい子苗を作ります。秋になり、日が短く、気温が低くなってくると芽の中に花が作られます。その後、冬の寒さに耐えるために休眠に入り、葉が小さくなり株全体は丈が伸びず、生長がほとんど停止します。冬の間に十分な寒さにあたって春になると生長は再び盛んになり、また花が咲いて実をつける、という循環を繰り返します。

イチゴの四季成り性品種と一季成り性品種
現在、一般に流通しているイチゴのほとんどは一季成り性品種です。一季成り性品種の花は、秋の気象条件(日が短く気温が低い)で作られます。自然界では、その後休眠に入り、活動は一時休止して、春になってから花が咲いて果実ができます。この場合、収穫は原則一回です。そのため「一季成り」と呼ばれていますが、ハウス栽培などで温度が保たれれば冬の間も花が咲き、果実が収穫できます。しかし、春になって日が長く、気温が上昇してくると花ができにくくなって、春の終わりから秋の初めにかけては果実がとれなくなります。一方、四季成り性品種では限度はありますが、一季成り性品種より温度が高くまた日が長い条件でも花ができるので、一季成り性品種では果実が採れない晩春から早秋にかけても果実を得ることができるのです。

イチゴのランナー発生条件
イチゴは、ランナーと呼ばれる匍匐枝(ほふくし)の先端に子苗が形成されることで殖える栄養繁殖性の植物です。ランナーは、冬の間に十分な寒さにあたってから春に日長が長くなり、気温が上昇すると発生します。しかし、寒さが不十分な場合にはランナーの発生が少なく、場合によっては発生しないこともあります。必要な低温量(通常5°C以下の累積時間で示されます)は品種により異なります。

自然日長
ここでは「日の出から日の入りまでの時間」で示しています。