プレスリリース
短日処理によるイチゴ秋どり栽培での養分吸収特性を解明

情報公開日:2006年10月11日 (水曜日)

寒冷地では夏秋期の冷涼な気候、短日処理を利用して高品質のイチゴを生産するイチゴの秋どり栽培が可能ですが、東北農業研究センターでは、短日処理を用いたイチゴ秋どり栽培における施肥法開発の基礎となるイチゴの養分吸収特性を解明しました。その結果、栽培期間における養分吸収量には品種間で大きな差は見られなかったものの、窒素の吸収パターンは品種間で差がみられ、「女峰」、「とちおとめ」で10月(収穫前期)、「さちのか」で11月(収穫後期)に窒素吸収量が多く、「北の輝」では休眠に入る前の9月に吸収量が多くなりました。


詳細情報

背景とねらい

寒冷地では、冷涼な気候を利用して、夜間冷房を行わずに遮光のみを行う短日処理によって、一季成り性イチゴ品種を花芽分化させ、9月~11月の秋期に高品質のイcチゴを生産することが可能です。そこで、東北農業研究センターでは、東北各県と連携して、この短日処理を利用したイチゴの秋どり栽培について、技術開発とその普及を進めていますが、安定多収のための施肥法やその基礎となる養分吸収量については、明らかになっていませんでした。そこで、この短日処理によるイチゴの秋どり栽培に適した施肥法を開発することを目的として、本作型の養分吸収量や窒素吸収パターンを明らかにしました。

成果の内容・特徴

  • 5月中下旬からポット育苗を開始し、6月下旬から7月下旬に8時間日長の短日処理を行った後、パイプハウス内に定植し、9月下旬から12月上旬まで収穫するイチゴ秋どり栽培での養分吸収量は、株当たり窒素(N)約1.5g(a当たり1.0kg)、リン(P)約0.22g(同0.15kg)、カリ(K)約1.5g(同1.0kg)となり、品種間で大きな差はみられません(表)。
  • 一方、7月下旬の定植期から11月下旬の収穫後期までの月別窒素吸収量の推移には、品種間で差がみられ、この品種ごとの窒素吸収パターンに応じた適切な施肥法を推定できます(図)。
  • 「女峰」では、果実が多数着果・肥大する10月(収穫前期)に窒素吸収量が最も多くなり、11月に少ないことから、収穫前期に肥効が最大となるような施肥が適していると推定されます(図A)。
  • 「とちおとめ」では、10月に窒素吸収量が最も多くなり、11月の吸収量も同程度となるため、収穫期を通して高い肥効が維持されるパターンの施肥が適していると推定されます(図B)。
  • 「さちのか」では、11月に分げつが盛んとなり、窒素吸収量が最も多くなります。このため、12月以降にも収穫を行う場合には、株の生育を確保するために、収穫後期に高い肥効が得られる施肥を行うことが必要と推定されます(図C)。
  • 「北の輝」では、9月に窒素吸収量が最も多くなりますが、株が休眠に入る10月以降には果実以外の窒素吸収量が著しく減少し、着果負担が非常に大きくなります。このため、休眠前(9月)の肥効が最大となるような施肥を行い、株の生育を充分に確保することが必要と考えられます(図D)。

表 寒冷地での短日処理によるイチゴ秋どり栽培における収量および養分吸収量

図 寒冷地での短日処理によるイチゴ秋どり栽培における月別窒素吸収量の推移

用語説明

短日処理によるイチゴの花芽分化
一季成り性イチゴ品種では、15~25°C程度の温度域で日長を6~13時間程度とすると花芽を形成することが知られています。これを利用して、春から秋の長日条件下でも、イチゴの苗を朝夕に遮光資材で覆い、人為的に日長を制限する短日処理を行うことにより、夏秋期にイチゴの花芽を分化させ、果実を収穫することができます。関東以南のイチゴ産地では、処理時の気温が高いため、この処理に冷房が必須となりますが、夏秋期に冷涼な東北地域などでは、冷房を行わずに、簡易・低コストな短日処理のみで花芽分化させることが可能です。具体的には、小規模のパイプハウスやトンネルに遮光資材を開閉可能となるように張り、イチゴの苗を搬入後、朝遅く開け、夕方に早く閉めることで短日条件とします。一般的には、朝9時頃に開け、17時頃に閉める8時間日長の処理が多く用いられます。この短日処理を30~45日間行うと、苗に花芽が形成されますので、検鏡して分化を確認後、本圃に定植します。夏秋期であれば、分化後約2ヶ月で収穫開始となります。

写真

寒冷地での短日処理によるイチゴ秋どり栽培

表

夏秋期に冷涼な寒冷地では、上記の短日処理を6~7月に行うことにより、9~12月に収穫が可能となり、100~150kg/a程度の平均収量が得られます。さらに、越冬後、翌春に再度収穫を行う場合には、400~500kg/aの合計収量が見込まれています。現時点での基本的な作型は以下のとおりです。

前年秋 親株定植
当年2月下旬~ 親株保温
当年5月中下旬~ 苗採り
当年6月下旬~7月下旬 短日処理(8時間日長)
当年7月下旬~8月上旬 定植
当年9月下旬~12月上旬 収穫
翌年2月下旬~:株保温 ※翌春どりを行う場合
翌年4月下旬~6月下旬 翌春どり収穫

 

イチゴの休眠
イチゴは冬期に休眠し、生育が停止します。秋の花芽分化の後、さらに日長が短くなると休眠が誘導され、さらに気温が低下すると休眠が深まります。休眠特性は品種間で異なり、一般に促成栽培用品種(「とちおとめ」、「さちのか」等)で休眠が浅く、半促成・露地栽培用品種(「北の輝」等)で深いとされています。