プレスリリース
畑の作物の根を株ごとに識別できるマルチカラー染色法

情報公開日:2006年10月11日 (水曜日)

東北農業研究センターでは、畑で生育するトマトの茎から切り花着色液を圧力をかけて根に注入し、隣りあった株の絡み合った根を色分けして1株ごとに簡単に区別できる方法を開発しました。作物は、田や畑で集団となって生育しており、それぞれの個体は、養水分の競合や相互扶助など種々の影響を及ぼしあっていると考えられています。しかし、それらは根についてはあまり調べられていません。その大きな理由として、根を株ごとに識別できる簡単な方法がなかったことがあげられます。この染色法が開発されたことにより、株ごとの土の中の根の分布が簡単にかつ定量的にわかるようになりました。これらの情報は、追肥や灌水箇所の節減やそれらの施用位置改善の基礎データとなり、新しい、環境に負荷をかけない栽培技術の開発に役立つと期待されます 。


詳細情報

背景とねらい

同じ作物を栽培したり、異なる作物を混植する場合、それらの作物の間の養水分の競合や助け合いの作用を詳しく知ることができれば、施肥や灌漑の効率が高い、環境に負荷をかけない栽培技術を開発できる可能性があります。そのためには、まず、基本的な情報として畑の土の中における根の分布を個体ごとに区別して把握する必要があります。そこで、畑で栽培されている作物の根を株ごとに別の色で染色する方法を開発し、それをトマトに適用して、根の分布を明らかにしようとしました。

成果の内容・特徴

  • 開発した染色法は、まず、土壌をできるだけ乾燥させて、植物地上部を切除します。図1のように、茎と50mLピペットを耐圧チューブでつなぎ、異なる色の切り花着色液(ファンタジー、パレス化学)を入れて、圧縮窒素ガスで0.5気圧から徐々に5気圧まで圧力を上げて必要液量を根に注入します。根の染まった様子を図2に示します。染色後は、土壌から直方体のブロックや円筒形試料を採取して、根を色ごとに手で集め、重さや長さを測定します。
  • 本染色法により根の染まった様子を見ると、図3に示すように、土壌の深さ0-15cm層では、株際はほぼ100%その株の根が占めていましたが、株と株の中間位置では双方の根が混在して分布していました。15-30cm層では、0-15cm層と似た傾向でしたが、根が隣の株際の位置にも伸び、それを超えてさらに遠い部分にまで伸びていました。
  • 本研究は文部科学省科学研究費補助金により行われました。

図1 染色試験の概要
図1 染色試験の概要
枠の大きさは2m×2mで淡色黒ボク土を深さ1mまで充填(底は地面とつながっている)。播種後76日目のトマト苗(品種;桃太郎)を株間24cmで7株、畝を作らず2列に植え、移植後100日目(9月24日)に図中に示した色で染色した。2列とも4株を調査した。染色後、土壌ブロックおよびコアを15cmごとに深さ30cmまで採取した。染色液注入量は118-150mL/株、染色時間は55-92時間。

図2 染色されたトマトの根
図2 染色されたトマトの根
青または赤く染まっているのがトマトの根

図3 土壌層位別の各土壌ブロックの根の重量割合
図3 土壌層位別の各土壌ブロックの根の重量割合
○は株位置で、色は染めた色を示す。白は染色しなかった株。各棒グラフの位置は図1のブロック採取位置に対応している。。8株の地上部平均乾物重は76g。根は最深で58cmの深さまで染まっていた。根分布の状況は南側と北側でほとんど差がなかった(北と南は同じ色であっても別の株)。