斑点米を発生させるカメムシはわが国で最も深刻なイネの害虫です。カメムシが吸った米は、斑点状に着色され、品質が低下します。日本のなかでも、米どころの東北地方ではここ数年、斑点米カメムシによる被害が急激に増えています。そこで、東北農業研究センターは、東北大学および東北各県の試験研究機関等と協力して、「斑点米カメムシ発生予察技術の高度化と斑点米被害抑制技術の開発」という研究プロジェクトを開始しました。斑点米カメムシは水田からやや離れた雑草地や牧草地で増殖し、そこから水田のイネに飛び込んでくるため、その被害を予察したり防除適期を判定するのが困難で、いきおい農薬を何回も散布して対処せざるをえません。しかし、過剰な農薬散布は農家にとっても負担になるほか、周辺住民や農村環境にとっても好ましくありません。今回の研究プロジェクトでは、斑点米カメムシの発生量と予想される被害を高精度に予察する技術を開発し、天敵等への影響をも考慮した薬剤散布の判断基準を示します。これによって、環境にやさしい水田病害虫管理技術の開発を目指します。
プレスリリース
東北農研が斑点米カメムシ発生予察と被害抑制の共同研究を開始
情報公開日:2006年10月11日 (水曜日)
詳細情報
背景とねらい
斑点米カメムシはイネ玄米を吸汁してコメを着色させてしまうカメムシ類の総称です。品質検査では、着色米の混入率が0.1%を超えると二等米に、0.3%を超えると三等米に、0.7%を超えると等外米に格付けされてしまうため、農家の経済的影響は大きなものになっています(図1)。このため、農家は農薬を散布して斑点米カメムシに対する防除をおこなわざるをえませんが、そのため必要以上に農薬を散布しがちになるという問題が生じています。さらに2005年には、その農薬が原因で水田に飛来したミツバチが大量死したと報じられるなど、斑点米カメムシ対策は稲作農家だけでなく、養蜂業者や地域住民にも関わる問題となっています。これらの問題を緩和するには、斑点米カメムシ類の発生を予察する技術を高め、カメムシの加害をできるかぎり抑制する技術を開発する必要があります。
成果の内容・特徴
- 斑点米カメムシは水田で繁殖するわけではないため、これまではカメムシの発生量とその被害を大まかにしか予測できず、そのため防除の要否を決めることが困難でした。今回のプロジェクトでは、斑点米カメムシの種構成や越冬・増殖場所における発生量と気象条件やえさとなるイネ科植物の関わりなどを調べ、どのような水田で斑点米カメムシの被害が出やすいかを解明します。これにより、農協単位のレベルで斑点米発生の危険性が予測できます。また、カメムシ多発の原因がわかれば、新たな防除対策の糸口が見えると考えられます。
- 東北地方で被害をもたらす斑点米カメムシは、主にカスミカメムシ類(図2)ですが、これらが水田に多数侵入しただけで斑点米が激発するとはかぎりません。イネの籾(もみ)が閉じない「割れ籾」の状態になったときなど、イネ側の要因も被害程度にかなりの影響を及ぼすと考えられています。割れ籾と斑点米との関わりを解明して、斑点米カメムシが大量に水田に侵入した場合でも予想される被害量に即して薬剤散布をする判断基準を示します。
- 斑点米率が基準値(0.1%)を超えると農家の所得減になります。農薬散布をするより前の段階で、所得減を生じるカメムシ発生量を示せるなら、必要以上の農薬散布が避けられます。そのため、カメムシをトラップする誘引剤の探索やトラップ法の改良を通じて、発生量を高精度に予察する技術を開発します。
- 斑点米の被害を抑えるのに農薬散布以外の方法がないわけではありません。斑点米カメムシは畦道の雑草に生息しているので、畦の除草等を行えば、被害をかなり減らせ、本田への薬剤散布は必要ないという予備的データもあります。薬剤等が水田内の天敵等の生物種に及ぼす影響をも考慮した、環境にやさしい水田病害虫管理技術の開発を目指します。
- 参加する研究機関は以下のとおりです。
東北農業研究センター、中央農業総合研究センター、東北大学大学院、青森県農林総合研究センター、岩手県農業研究センター、宮城県古川農業試験場、秋田県農林水産技術センター、山形県農業総合研究センター、福島県農業総合センター。 - 本プロジェクト研究は、農林水産省の「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」により平成18年度から3年間の計画で実施します。
図1 東北地方における斑点米カメムシによる被害(平成17年度)
(左)アカヒゲホソミドリカスミカメ (右)アカスジカスミカメ
図2 東北地方で斑点米をつくる代表的なカメムシ2種
用語説明
斑点米
カメムシ類が吸った痕跡が斑点状に汚く着色されるものが「斑点米」である。籾サイズが決まる時期に低温が続くと小さな籾ができる。しかしその後、気象条件が良くなると籾サイズ以上のデンプンが蓄積され、中身が充実しすぎて、籾が割れる。玄米が露出するので、口針が小さいカスミカメムシ類などの小型種でも吸汁摂食しやすくなる。
ただし、西日本で問題になっている斑点米カメムシの多くは、割れ籾に関係なく斑点米を形成できる。
図3 人工的に発生させた割れ籾と斑点米