プレスリリース
稲発酵粗飼料の給与で日本短角種の肥育が良好に

情報公開日:2006年7月27日 (木曜日)

東北農業研究センターでは、日本短角種の肉牛に稲のサイレージ(稲発酵粗飼料)を多給して肥育すると牧草サイレージを給与して肥育した場合に比べて、体重の増加が大きく、さらに、その牛肉は抗酸化作用のあるα-トコフェロール(ビタミンE)を多く含み、冷蔵保存しても新鮮な肉色が維持されることを明らかにしました。

背景とねらい

食料自給率を高めるために国産飼料を活用する肉牛の飼養技術の確立が求められています。稲発酵粗飼料は水田での栽培が容易な稲を飼料として利用する方法です。また、稲発酵粗飼料は牛での嗜好性が良いので牛に大量に食べさせることができます。そこで稲発酵粗飼料を飽食させて肥育した場合の牛の体重の増加や牛肉の特徴を調べました。

成果の内容・特徴

  • 全肥育期間を通して、飽食するまでの量の稲発酵粗飼料と一定量の濃厚飼料(体重の1.6%以内)を給与された牛では、飽食するまでの量の牧草サイレージと一定量の濃厚飼料(体重の1.6%以内)を給与された牛に比べて肥育期間中の粗飼料摂取量が多くなり、濃厚飼料摂取量が少なくなる傾向がみられました(図1、図2)。
  • 稲発酵粗飼料を飽食するまで給与された牛では肥育期間中の一日当たりの体重増加が牧草サイレージを飽食するまで給与された牛に比べて6%多くなりました(図3)。
  • 稲発酵粗飼料を飽食するまで給与された牛では、牧草サイレージを給与された牛に比べて肉中の粗脂肪の含量が1.9倍高くなりました(図4)。
  • 稲発酵粗飼料を飽食するまで給与された牛では、肉中のα-トコフェロール含量が牧草を給与された牛に比べて1.8倍多くなりました(図5)。その結果、保存中の肉色の褐色化が抑制されました(図6)。
  • この研究は、農林水産省「新鮮でおいしい『ブランド・ニッポン』農産物提供のための総合研究」予算により実施されました。

詳細情報

日本短角種の去勢牛に11ヶ月齢から14ヶ月間、飽食量の稲発酵粗飼料と一定量の濃厚飼料(体重の1.6%以内)或いは飽食量の牧草サイレージ(チモシーの低水分サイレージ)と一定量の濃厚飼料(体重の1.6%以内)を給与して肥育しました。

図1 肥育期間中の合計粗飼料摂取量
図1 肥育期間中の合計粗飼料摂取量
*:牧草サイレージ

図2 肥育期間中の合計濃厚飼料摂取量
図2 肥育期間中の合計濃厚飼料摂取量
*:牧草サイレージ

図3 一日当たりの体重増加量
図3 一日当たりの体重増加量
*:牧草サイレージ

図4 肉中の粗脂肪含量
図4 肉中の粗脂肪含量
*:牧草サイレージ

図5 肉中のα-トコフェロール含量
図5 肉中のα-トコフェロール含量
*:牧草サイレージ

図6 蛍光灯の下で冷蔵保存した場合の肉中のメトミオグロビン割合の推移
図6 蛍光灯の下で冷蔵保存した場合の肉中のメトミオグロビン割合の推移

用語説明

稲発酵粗飼料
飼料用に栽培したイネを刈り取った後、籾と茎葉を一緒にラップフィルムで密封して調製された貯蔵飼料。通常、イナワラに比べて、β-カロテンやトコフェロールを多く含む。

日本短角種
在来種の南部牛に明治4年以来、外国種のショートホーンを交配して改良された品種。主要生産地は岩手県だが、秋田県、青森県、また北海道の一部でも生産されている。同じ和牛である黒毛和種とは異なり、濃厚飼料を多給しても霜降り牛肉にはなりにくいが、粗飼料の利用性が高い。

牧草サイレージ
粗飼料の一種。生草を発酵させて作る。漬物のようなもの。生草のままでは水分が多いため貯蔵性が低いが、サイレージにすることで貯蔵性が高まる。

トコフェロール
ビタミンEの一種。α、β、γ、δの4種類のトコフェロールがあるが、このうちα-トコフェロールが最も酸化を防ぐ力が強い。

濃厚飼料と粗飼料
飼料は、濃厚飼料と粗飼料に分類される。濃厚飼料は、トウモロコシなどの穀類、大豆粕などの油粕類、米ヌカなどのヌカ類、トウフ粕などの食品製造粕類などで、栄養価の高い飼料。粗飼料は、牧草やワラなどで、栄養価は低いが牛にとって重要な繊維成分が多く含まれた飼料。

肉の褐色化
肉の赤さは色素タンパクであるミオグロビンに由来している。このミオグロビンが酸化されるとメトミオグロビンになり、メトミオグロビンの割合が多くなると肉の色が赤から褐色になり商品価値が下がる。トコフェロールはミオグロビンの酸化を抑える機能がある。

肉中の粗脂肪
脂肪交雑(霜降り)と比例し、肉中の粗脂肪含量が高いと肉が軟らかくなる傾向にある。黒毛和種牛で高くロースで30%以上に達するものが多いが、日本短角種では通常10%前後である。

カロテン
植物に含まれるビタミンAの前駆体。体内で酸化されてレチノールとレチノイン酸というビタミンAになる。レチノールは牛の前脂肪細胞から脂肪細胞への分化を阻害するために、高い脂肪交雑(霜降り)を目指す場合は、肥育中期に給与を制限する 。