水稲栽培で窒素肥料を増やすと収量も増えますが、水稲が倒伏しやすくなることが知られています。大気中のCO2(二酸化炭素)濃度が上昇すると、多窒素条件でも水稲の倒伏が軽減することを、FACE(Free-Air CO2 Enrichment:開放系大気CO2増加)実験で明らかにしました。
背景とねらい
地球大気のCO2濃度(380ppm前後)が、今後100年で200~600ppm上昇すると予想されています。CO2濃度上昇は、地球温暖化の主因であるとともに、植物や生態系に大きく作用します。そのため農業生産や農業生態系への影響を的確に把握し、将来の環境に適応できる栽培技術の開発が急がれています。
今世紀半ばに予想される約200ppmの大気CO2濃度上昇が、水稲や水田生態系に及ぼす影響を解明するために、1998年から岩手県雫石町でFACE実験を実施してきました。これまでに、CO2濃度上昇が水稲の光合成を促進し子実収量を増加させること、その効果は多窒素条件で大きいことを明らかにしました。すなわち将来の高濃度CO2環境下では、今よりも窒素施用量の多い栽培が適していると言えます。しかし、多窒素栽培を導入するためには、多窒素で助長されるマイナス要因、例えば病害感受性や低温・高温障害あるいは倒伏に及ぼす高濃度CO2の影響を的確に評価しなければなりません。いもち病や紋枯病の感受性が高濃度CO2で高まることや、穂ばらみ期の低温や開花期の高温による障害も、高濃度CO2下で助長されることが明らかになっています。このように、これまでの知見は、多くの場合、高濃度CO2が各種の障害を助長する可能性を示していますが、多窒素栽培で問題となる倒伏については未解明です。そこでFACE実験により、高濃度CO2が倒伏に及ぼす影響を解析しました。
成果の内容・特徴
- 倒伏の程度を18°ごとの角度で5段階に分けて調査しました。倒伏は、多肥区で基肥区や慣行区より2.6~2.7ランク助長されますが、高濃度CO2(580ppm)ではその程度を1ランク軽減します(図1)
- 多肥による節間の伸長作用は、倒伏の折れ曲がり基点である下位節間で顕著となり、その伸長が高濃度CO2下で抑制されます(図2)。
- モミの成熟度を示す登熟歩合は、倒伏程度に比例して減少します(図3)。
- 以上のことから、高濃度CO2は多窒素施用での下位節間の伸長を抑制し、倒伏を軽減します。その結果、倒伏による収量の低下が軽減されます。