プレスリリース
大気CO2濃度上昇による水稲倒伏の軽減効果

情報公開日:2006年6月 8日 (木曜日)

水稲栽培で窒素肥料を増やすと収量も増えますが、水稲が倒伏しやすくなることが知られています。大気中のCO2(二酸化炭素)濃度が上昇すると、多窒素条件でも水稲の倒伏が軽減することを、FACE(Free-Air CO2 Enrichment:開放系大気CO2増加)実験で明らかにしました。

背景とねらい

地球大気のCO2濃度(380ppm前後)が、今後100年で200~600ppm上昇すると予想されています。CO2濃度上昇は、地球温暖化の主因であるとともに、植物や生態系に大きく作用します。そのため農業生産や農業生態系への影響を的確に把握し、将来の環境に適応できる栽培技術の開発が急がれています。

今世紀半ばに予想される約200ppmの大気CO2濃度上昇が、水稲や水田生態系に及ぼす影響を解明するために、1998年から岩手県雫石町でFACE実験を実施してきました。これまでに、CO2濃度上昇が水稲の光合成を促進し子実収量を増加させること、その効果は多窒素条件で大きいことを明らかにしました。すなわち将来の高濃度CO2環境下では、今よりも窒素施用量の多い栽培が適していると言えます。しかし、多窒素栽培を導入するためには、多窒素で助長されるマイナス要因、例えば病害感受性や低温・高温障害あるいは倒伏に及ぼす高濃度CO2の影響を的確に評価しなければなりません。いもち病や紋枯病の感受性が高濃度CO2で高まることや、穂ばらみ期の低温や開花期の高温による障害も、高濃度CO2下で助長されることが明らかになっています。このように、これまでの知見は、多くの場合、高濃度CO2が各種の障害を助長する可能性を示していますが、多窒素栽培で問題となる倒伏については未解明です。そこでFACE実験により、高濃度CO2が倒伏に及ぼす影響を解析しました。

成果の内容・特徴

  • 倒伏の程度を18°ごとの角度で5段階に分けて調査しました。倒伏は、多肥区で基肥区や慣行区より2.6~2.7ランク助長されますが、高濃度CO2(580ppm)ではその程度を1ランク軽減します(図1)
  • 多肥による節間の伸長作用は、倒伏の折れ曲がり基点である下位節間で顕著となり、その伸長が高濃度CO2下で抑制されます(図2)。
  • モミの成熟度を示す登熟歩合は、倒伏程度に比例して減少します(図3)。
  • 以上のことから、高濃度CO2は多窒素施用での下位節間の伸長を抑制し、倒伏を軽減します。その結果、倒伏による収量の低下が軽減されます。

詳細情報

図1 倒伏程度にCO<sub>2</sub>濃度と施肥窒素が及ぼす影響
図1 倒伏程度にCO2濃度と施肥窒素が及ぼす影響

品種「あきたこまち」
CO2濃度:高CO2 (580 ppm)と対照(380ppm)

施肥窒素
基肥区:8 g m-2、肥効調節型肥料を主体とした全量基肥施用
慣行区:9 g m-2、基肥5.7 g, 追肥2回1.8 g + 1.5 g
多肥区=15 g m-2、基肥5.7 g, 追肥2回5 g + 4.3 g

図2 下位節間長(第V節間)にCO<sub>2</sub>濃度と施肥窒素が及ぼす影響
図2 下位節間長(第V節間)にCO2濃度と施肥窒素が及ぼす影響

図3 登熟歩合と倒伏程度の関係
図3 登熟歩合と倒伏程度の関係

用語説明

FACE
Free-Air CO2 Enrichment(開放系大気CO2増加)の略。屋外の圃場で周囲を囲うことなくCO2濃度だけを上昇させる実験装置。世界約20箇所で、自然植生や農作物を対象としたFACE実験が実施されている。雫石FACEは、世界で初めて水田に設置したFACE。直径約12mの実験区の周囲に8本のCO2ガス放出チューブを配置して、風上側の3ないし4本のチューブからガスを放出してCO2濃度を制御する。

節間
イネの葉の付け根にある節と節の間。イネの茎は通常5つの節間からなり、根に近い第4節間、第5節間を下位節間と呼ぶ。下位節間が長いと倒れやすい。

登熟歩合
全籾数に対する成熟(登熟)した籾数の割合。登熟籾は、通常、比重1.06の塩水で選別する