プレスリリース
288穴標準セルトレイによるネギ苗の移植技術を開発

- ネギの低コスト播種・育苗・移植システム -

情報公開日:2006年6月 8日 (木曜日)

規格化された288穴のセルトレイを用い、ネギ種子を播種し、底面灌水方式で生育のそろった苗を育苗し、全自動ネギ移植機で7.5cm間隔で移植する低コストネギ苗移植システムを開発しました。これによって、安価でかつセル数の多い規格化されたセルトレイを使用することができ、資材費、育苗面積、苗補給回数が低減(育苗資材費は約50%減)し、ネギ生産の規模拡大につながります。

背景とねらい

ネギは、その栽培法の特殊性と生産農家の規模が小さいことから移植システムは小型で簡易な機械が使われているのみであり、コスト高につながっています。しかし、厳しい国際競争を強いられている現在、低コスト生産技術を早急に確立することが求められています。そこで、ネギの播種・育苗・移植作業における省力・低コスト化を図るために、規格化され、安価であるにもかかわらず、これまであまり使われていない 288穴セルトレイを用いた播種・育苗・移植技術を開発しました。

成果の内容・特徴

  • ネギ種子を播種するための機械として 288穴セルトレイ用の播種機を開発しました。これは、土を詰めたセルトレイに播種穴を開け、コート種子を播種、覆土する機械で、ネギのコート種子を99%以上の播種精度で、1時間でトレイ120枚の播種が行えます(図1)。
  • 播種した種子を発芽させ、育苗するための装置として底面灌水型の育苗装置を利用する方法を開発しました。底面灌水型の育苗装置はセルトレイを置く育苗槽と灌水液用タンク、ポンプで構成されています。給水時はポンプで灌水液を育苗槽に満たし、セルトレイの底穴から水を与え、十分に灌水した後は、ポンプを止め、戻り管を通じて灌水液を排水します(図2)。 1日1回水深10~20mmになるまで底面から給水して育苗することにより、約50日で根鉢が形成され、かつ生育のそろった苗ができます(図2)。 給水作業は自動的に行われるので、面倒な灌水作業が省けます。
  • 育苗したネギ苗を移植するための機械として 288穴セルトレイ用全自動ネギ移植機を開発しました。この機械は、セルトレイの苗を一本ずつ引き抜いて移植する機械です。前輪は植え溝の中を走るため、自動的に直進走行し、植え付け中は作業者は苗の手直しをすることができます。植付けた苗の間隔は7.5cmで、10aを2.5~3.0時間で移植することができます(図3)。
  • このシステムでネギ苗を播種・育苗・移植した場合、ネギの生育や収穫時の1本当たりの調製重・軟白部太さ等は、すでに普及している 220穴専用セルトレイによるシステムとほぼ同等であり、遜色はありません(図4)。
  • 現在普及している 264穴連結紙筒や 220穴専用セルトレイによるシステムと比較して、単位面積で必要なセルトレイ数が少なくなり、育苗面積や移植時における苗の補給回数が約30~40%少なくなります。また、セルトレイは安価で、必要な培土量も少ないので、育苗に必要な資材費は約50%削減されます(表1)。
  • 本研究成果は、農林水産省受託研究「新鮮でおいしい「ブランド・ニッポン」農産物提供のための総合研究 6系」により実施したものです。

詳細情報

図1 セルトレイ播種機と主要諸元
図1 セルトレイ播種機と主要諸元
播種機 : 穴開け・播種・覆土機
対象種子 : コート種子(2Lサイズ)
播種量 : 1穴1粒
播種方式 : 穴付ロール式
搬送方式 : ゴムローラー間欠搬送方式
播種精度 : 99.5%
播種能力 : 120トレイ/時

図2 底面灌水型育苗装置と底面灌水方式での生育経過
図2 底面灌水型育苗装置と底面灌水方式での生育経過A 図2 底面灌水型育苗装置と底面灌水方式での生育経過B

図3 288穴セルトレイ用全自動ネギ移植機
表 288穴セルトレイ用全自動ネギ移植機の主要諸元
図3 288穴セルトレイ用全自動ネギ移植機と主要諸元

図4 288穴セルトレイと220穴セルトレイによる収穫時の調製重と軟白部太さ
図4 288穴セルトレイと220穴セルトレイによる収穫時の調製重と軟白部太さ
注:品種:白妙、植付け間隔:7.5cm
移植日:2005/5/20、収穫日2005/10/31
バーは標準偏差を示す。

表1 他のシステムとの比較(試算)
表1 他のシステムとの比較(試算)
試算条件:植付け本数は40,000本/10a
育苗資材は各システムの推奨品使用

用語説明

ネギの生育と栽培上の特徴
東北地域でのネギは、春まき秋冬どり(春に種をまき、秋に収穫する)の年1作で作られています。
ネギは、幼苗期の生育が遅く、2ヶ月ほどの育苗期間が必要です。また、植え付けは、幅90~120cmの間隔に幅15~20cm、深さ15~30cm程度の溝を掘り、その底に2.5~5cm間隔で植え付ける。生育期間中は、葉しょう部を軟白(白く)するために土寄せを収穫までに3~4回行います。収穫は、株を掘り上げ、外皮と枯れ葉を取り除き、根を切って調製します。調製したネギは軟白部の太さによって等級分けされ、出荷します。

セルトレイ
多くのブロックを持つプラスチック製のトレイで、小さなブロック状の野菜苗を育苗するためのものです。野菜生産の機械化を促進するために、栽培様式標準化協議会が標準規格として統一したもので、小面積で大量の苗ができ、運搬が容易で、播種・移植等機械化適用性が高い特徴があります。ブロック数が128、200、288穴の3タイプがあり、128セルはハクサイ、キャベツに、200セルはレタスで使われています。288セルはネギ用として規定されたが、これまでにこのセルトレイを使った移植技術は確立していませんでした。

写真 セルトレイ

底面灌水方式
セルトレイの苗に水分を与える方法として、上から水をかける方法と下から水を与える方法があります。上から水を与える方法を頭上灌水方式といい、下から水を与える方法を底面灌水方式といいます。

264穴連結紙筒システム・ 220穴専用セルトレイシステム
現在、普及しているネギの播種・育苗・移植システムです。
264穴連結紙筒システムは、一般に 264穴ペーパーポットシステムと言われ、苗箱の中を紙で作られた連続した筒に土を詰め、種子を播種して育苗し、仕切りの紙ごと移植するシステムです。播種・育苗に労力がかかりますが、引っ張って植える簡単で安い移植機で移植ができ、小規模のネギ栽培農家で使われています。
220穴専用セルトレイシステムは、標準規格でない 220穴を持つ専用のセルトレイに種子を播種して育苗し、ブロック状の苗を押し出して移植するシステムです。セルトレイが専用型のため高価ですが、播種・育苗・移植労力が少なく、中規模クラスのネギ栽培農家で使われています。

図 264穴連結紙筒システム・ 220穴専用セルトレイシステム