水田に施用された肥料や堆肥に含まれる窒素の動態を把握するには、15N標識された肥料や堆肥を用いて直接その窒素を追跡する手法(トレーサー法)が有効です。しかし、寒冷地水田の堆肥連用条件における堆肥に由来する窒素動態解明にトレーサー法が用いられたことはなく、その窒素収支が連用条件で直接的に明らかにされたことはありませんでした。東北農業研究センターでは15N標識堆肥を用いて、水田における3年間の連用条件での稲わら堆肥とおがくず入り牛ふん堆肥の窒素収支を明らかにしました。
背景とねらい
有機農業をはじめ資源循環型の農業が期待されるなか、堆肥等有機質資材の有効利用が求められています。そのためには堆肥等有機質資材に含まれる窒素の作物、土壌、環境への影響評価、すなわち窒素動態を正確に把握する必要があります。水田に施用された肥料や堆肥に含まれる窒素の動態を把握するには、窒素の同位体である15N濃度を人工的に高めた15N標識肥料や15N標識堆肥を用いたトレーサー試験を行うことが有効です。しかし、堆肥については15N標識肥料(試薬)で作物を育てそれを堆肥化する、あるいはその作物を家畜に給餌し、さらにそのふん尿を集めて堆肥化するといった費用と労力を要します。そのため15N標識堆肥の使用事例は少なく、寒冷地水田の連用条件ではトレーサー法で堆肥の窒素動態が研究されたことはありませんでした。そこで、15N標識された完熟稲わら堆肥と完熟おがくず入り牛ふん堆肥を用い、連用条件で完熟堆肥に含まれる窒素の動きを直接的に追跡し、その収支を明らかにしました。
成果の内容・特徴
- 稲わら堆肥、おがくず入り牛ふん堆肥ともに安定した肥効が3年間継続しますがその肥効は低く、3回の施用分を合計しても完熟堆肥だけでは水稲の窒素栄養源としては不十分です(図1)。したがって、高生産のためには、連用開始から3年以上は完熟堆肥の他に肥料や肥効の早い有機質資材の併用が必要と考えられます。
- 土壌へは多量に残存するため地力を増強する効果は高く、3年間連用された完熟堆肥窒素のうち70%以上が3作後の土壌に残存しました。(図2)。これらは次年度以降も継続して水稲の窒素栄養源になります。
- 連用開始時に施用された完熟堆肥の下層への流亡による系外損失は、稲わら堆肥、おがくず入り牛ふん堆肥ともに3年間の累計で3%と少なく、損失のほとんどは脱窒と考えられます(図3)。したがって、水田に施用された完熟堆肥は下層の水系の窒素汚染源にはならないと考えられます。
- 際に長期間(30年以上)稲わら堆肥、家畜ふん堆肥の連用が続けられてきた試験水田において、堆肥の連用により窒素量が増加したことが確かめられました(図4)。