ヒトが体内で脂肪(長鎖脂肪酸)を燃焼するためには、L-カルニチン(カルニチン)という物質が必要です。カルニチンは反芻家畜の筋肉に多いことから、食品としては牛肉や羊肉に多く存在しています。東北農業研究センターでは、私たちの健康に好ましい牛肉を生産するため、各種食肉中におけるカルニチン含量を分析するとともに、日本短角種を用いて、牛の運動量がカルニチン含量の増減に影響しており、放牧肥育することで牛肉中のカルニチンが増えることを明らかにしました。
背景とねらい
我が国の牛肉生産における飼料自給率は11%(カロリーベース)と低く、これは肉用牛の餌のほとんどを輸入穀物に依存していることが原因です。反芻家畜である牛の最大の利点は、人間が食べることのできない草などの粗飼料を食べて、これを食肉に変換できることにあります。大量に穀物を餌として給与するのは、日本人の多くが霜降り牛肉を好むためですが、私たちの健康という視点からは問題が指摘されています。しかし、一方では食肉には様々な機能性物質が含まれています。近年、反芻獣の筋肉に多く存在する脂肪燃焼促進物質「カルニチン」の様々な機能性が明らかになり、サプリメントとしても販売されています。そこで、牛肉中におけるカルニチン含量を調べ、その変動要因を明らかにするとともに、これを増やしヒトの健康に好ましい牛肉を生産するための飼育方法を解明しました。
成果の内容・特徴
- 牛肉中におけるカルニチン含量は他の食品に比較して高く(図1)、その増減は肥育時における供与飼料の影響を受けます。
- 日本短角種を夏期に昼夜放牧すると、舎飼いよりも、筋肉中の遊離L-カルニチン含量は有意に高く推移します。しかし、冬期において共に舎飼いすることにより両区間の有意差はなくなります (図2)。放牧期間中において、筋肉中の遊離L-カルニチン含量が高く移行する原因の一つとして、運動量の差が考えられます。
- 遊離L-カルニチン含量は、牛肉の熟成期間中(10日間)に増減することはなく (表1)、貯蔵中でも安定な物質です。
- 遊離L-カルニチン含量は、筋肉を構成する赤色筋線維(I型+IIA型)数の割合との間に正の相関(r=0.46、5%水準で有意)が見られ、酸化型の代謝を行う筋肉に遊離L-カルニチンが多く存在します (図3)。