プレスリリース
自脱コンバインを汎用利用した稲発酵粗飼料の予乾収穫体系の開発

- 低コスト化、サイレージ品質の安定化を目指して -

情報公開日:2005年9月21日 (水曜日)

我が国では米の生産調整が行われる一方で、家畜飼料の自給率が25%程度と低いため、水田を活用した飼料の増産が求められています。このような背景から、水田で作り易い飼料として稲発酵粗飼料の生産が行政的支援のもとに平成12年以降急速に普及拡大しました。しかし、補助事業の見直しが始まるなか、今後は大幅な生産コストの削減とサイレージ品質の安定化が強く求められています。東北農業研究センターでは、収穫コストの低減とサイレージ品質の安定化を目的に、稲作農家が所有する既存の自脱コンバインを一部改造して利用する稲発酵粗飼料の予乾収穫体系を開発しました。

背景とねらい

稲発酵粗飼料の収穫体系には、(1)稲の刈取りと同時にロールベールに梱包する専用機を用いたダイレクトカット体系と、(2)稲を一旦モーアで刈倒し、一定水分に達するまで圃場で乾燥させた後、ロールベーラで拾い上げ・梱包する牧草用収穫機を用いた予乾体系があります(表1)。ダイレクトカット体系では稲の水分が60%程度に低下する黄熟期での収穫が原則ですが、収穫適期が狭いため高水分条件で収穫される場合が多く、サイレージ品質が安定しないという問題があります。これに対し、水分調整ができる予乾体系は収穫適期幅が広く、牧草用機械を利用しますので機械コストも低いという利点があります。しかし、車輪トラクタを用いる現行の予乾体系は、湿田の作業は困難であるという弱点があります。そこで、稲作農家が所有する自脱コンバインと、稲わら収集用に普及しているピックアップ型の自走ロールベーラを用いて、軟弱な地盤の圃場に適用でき、かつ新たな機械投資のいらない予乾収穫体系を開発しました。

成果の内容・特徴

  • 自脱コンバインは、刈取り部と脱穀部の間の刈り稈搬送用の一部の部品を取り外し、脱穀部のフィードチェーンに簡単な部品を装着することで、稲の刈倒し作業に利用できます(写真1)。部品交換作業に要する時間は約6分です。
  • 自脱コンバインで刈倒した稲を刈株上で一定水分(50%程度)まで乾燥させ、稲わら収集用の自走ロールベーラで拾上げ・梱包することで、稲発酵粗飼料の予乾収穫体系が構築できます(写真2)。
  • 本体系で用いる機械は走行部がクローラであり、車輪型トラクタを用いる牧草用作業機を利用した予乾体系に比べ地盤の軟弱な圃場に適応できます。また、既存の機械を利用するため、新たな機械投資を必要としません(写真1、2)。
  • 本体系での自走ロールベーラの拾上げロスは3%以下であり(図1)、ロールベールの乾物見掛け密度は含水率50%で160kg・DM/m3程度とサイレージ調製に十分な密度が得られています(図2)。

成果の利用上の留意点

稲の刈倒し作業は、自脱コンバインの進行方向左側に稲を刈倒すため、右回り作業となります。


詳細情報

表1 稲発酵粗飼料の現行収穫体系の比較
表1 稲発酵粗飼料の現行収穫体系の比較

写真1 自脱コンバインA
写真1 自脱コンバインB
写真1 自脱コンバイン(4条刈)による稲の刈倒し作業。簡単な部品交換で刈倒しに利用、作業能率は40a/h程度。

写真2 自走ロールベーラによる拾上げ・梱包作業
写真2 自走ロールベーラによる拾上げ・梱包作業

  • 稲わら収集用機械の利用
  • ロールベールの径、幅は1.2m
  • 拾い上げ・梱包作業能率は35a/h程度
  • ラッピングマシン設置場所まで自走ロールベーラ自身でロールベールを運搬した場合の作業能率は18a/h程度

図1 自走ロールベーラの拾上げロス
図1 自走ロールベーラの拾上げロス

図2 ロールベールの乾物見掛け密度・ロールベールの径、幅は1.2m
図2 ロールベールの乾物見掛け密度・ロールベールの径、幅は1.2m

用語説明

ロールベールの乾物見掛け密度
ロールベールの乾物質量をベール体積で除した値。150kg・DM/m3以上であれば、良質なサイレージが調製ができる。

稲の熟期、水分と発酵品質
立毛中の稲の水分は登熟とともに徐々に下がり、糊熟期(出穂後約15日)で65%以上、黄熟期(出穂後約30日)では60%程度まで下がる。良質サイレージ調製のためには水分は65%以下が望ましく、黄熟期ではダイレクトカット収穫が可能である。糊熟期では水分が高いので、予乾して50%前後まで下げると良質なサイレージが調製できる。