東北など寒冷地では、大豆と麦の栽培時期が重なるため、作物の収穫前の畝間に次の作物を播種すること(立毛間播種)による二毛作が行われていました。しかし、作業が機械化されず、効率の良い栽培体系ができていませんでした。東北農業研究センターでは、この「立毛間播種」栽培技術について、機械化作業方法などの研究を実施してきており、平成13年度には、立毛間播種機をメーカーと共同開発して市販化しました。本技術をさらに普及させるため、このほど播種機の改良と低コスト化を図りました。さらに、これと平行して、安価な簡易型の播種機を用いた大豆・麦3年5作体系の新しい作業方式を開発しました。
背景とねらい
現状の立毛間播種機は、大豆用、麦用は別々の播種ユニットであり、2種類が必要でコスト高でした。また、播種ユニットの幅が広く、作物の畝の間を走行するのが困難であったり、作物を傷つけたりするという問題があったため、それらの点を改良し、低コスト化・スリム化を実現しました。
また、立毛間播種機の購入費用が立毛間播種技術導入の障壁となっている場合があります。農家が立毛間播種技術を導入しやすくするため、播種機への初期投資を抑えて簡易に実施できる立毛間播種作業方式(3年5作体系)を開発しました。
成果の内容・特徴
立毛間播種機用の改良型播種ユニットの開発
- 開発した播種ユニット(表1、写真1)は、横溝ロール式というタイプで、鎮圧輪を兼ねる接地駆動輪により施肥播種ロールが回転して種子が繰り出され、播種されます。
- 立毛間播種栽培では、大豆は1条1列で、麦は圃場の利用効率を高めるため1条2列で播種します。本ユニットでは、施肥播種ロールの種子穴が千鳥配置になっているので、種子落下シュートを交換するだけで、1条に1列の大豆播種と、1条に2列(間隔12cm)の麦播種の両方が可能です(図1)。種子落下シュート(小さな樹脂部品)以外の部分は全て大豆・麦に共通して使用できます。
- 本ユニットは、播種と同時に施肥することもできます。立毛間播種機には、本ユニットを3台セットして使用します(写真2)。
- 本ユニットの全幅は270mmで、従来使用されていたユニットに比べて、大豆播種では30mm、麦播種では60mm、それぞれスリムになりました。それによって、播種作業時に立毛中の作物との接触・損傷が少なく、走行しやすくなっています(写真3)。
- 大豆の播種量設定は、立毛間播種用の約20粒/mおよび通常播種用の約12粒/mを切り替えることができ、立毛間播種だけでなく通常の播種にも使用できます。
- 大豆・麦それぞれに必要であった播種ユニットが1つですみ、立毛間播種機の購入費がその分安くなるとともに、播種作業が実行しやすくなりました。これにより、東北など寒冷地における立毛間播種による大豆・麦二毛作体系の普及に役立ちます。
- 本播種ユニットは、市販の立毛間播種作業機(S社、RT301RH)の播種ユニットとして採用されています。
簡易型の立毛間播種機と作業方法の開発
- 表2に示す機械を使用し、図2のような栽植様式で大豆・麦を栽培します。基本条間の120cmは、使用する乗用管理機の左右タイヤ間の距離および、刃幅200cm級の汎用コンバインのクローラ中心間距離に合わせてあります。したがって、麦収穫時にコンバインが大豆を踏圧する被害が非常に少なくなります。1条内に大豆は2列、麦は4列を播種します。
- 本播種機は、市販の横溝ロール式播種機(4条播き、大豆は播種ユニット1台あたり1列、麦は2列播種)の本体フレームに、分枝フレーム(自分で製作します)を2つ付け加えて使用します(図3、図4)。分枝フレームにより、本体フレームの地上高が上がり、作物を跨いで作業できます。分枝フレームは、鋼製の角パイプで簡単・安価に製作できます。
- 本播種機には耕起機能が無いので、播種床を整地するために、立毛間播種の直前(10日程度前~寸前まで)に中耕を行います。乗用管理機と同様に、中耕作業機もハイクリアランス型なので、中耕作業が可能です。この播種直前中耕は、雑草防除にも有効であることが確認されています。
- この方式では、乗用管理機や中耕作業機を既に使用している経営体であれば、新たな機械投資を抑えて大豆・麦立毛間播種栽培を導入できます。
改良型と簡易型の立毛間播種機のちがい
改良型の立毛間播種機は、使用する汎用コンバイン(麦収穫では自脱でも可)の走行部に合わせて柔軟に条間設定が可能で、また、作溝部があるため畝間の不耕起播種に適し、安定した出芽が期待できます。
一方、簡易型の立毛間播種方式は、刃幅200cm級の汎用コンバインに特化した機械構成・栽植様式になっています。また、耕起機能が付いていないため耕起作業を中耕作業機に担わせているのでトータルでの播種作業能率が若干低い、麦の場合土地利用効率が低いため収量が劣る、といった弱点はあるものの、導入コストが低いという特長があります。