プレスリリース
青臭みやえぐ味が少なく豆乳に好適な大豆新品種「きぬさやか」

情報公開日:2005年9月16日 (金曜日)

青臭みの原因であるリポキシゲナーゼと強いえぐ味を呈するグループAアセチルサポニンを欠失した大豆新品種「きぬさやか」を育成しました。「きぬさやか」は熟期が晩生の早で子実は中粒、豆乳や豆腐は青臭みやえぐ味が少なく、豆乳はすっきりした味わいです。これまでにない食味を有することから、新規性に富む大豆製品への利用が期待されます。

背景とねらい

最近、大豆加工食品のなかでも豆乳は消費量が急速に増大しています。しかし、豆乳では、大豆特有の青臭みやえぐ味を感じやすく、嗜好性を低下させており、これらの原因となる成分を低減した品種の開発が切望されていました。そこで、青臭みの原因であるリポキシゲナーゼを無くし、強いえぐ味を呈するグループAアセチルサポニンを欠失した大豆品種を育成しました。

成果の内容・特徴

  • 「きぬさやか」は、1993年に、青臭みの原因であるリポキシゲナーゼを全て欠失した「刈系508号」を母に、強いえぐ味を呈するグループAアセチルサポニン欠失性の「刈交0459F1」(A-b(F)-A0/スズユタカ)を父として人工交配を行い、以後、選抜・固定を図り、育成した品種です(図1)。
  • 成熟期は晩生の早で、収量は「スズユタカ」よりやや低く、子実は中粒で外観品質は「スズユタカ」並です(表1、写真1)。
  • 子実中の全てのリポキシゲナーゼ(L-1、L-2、L-3)とグループAアセチルサポニンを欠失しています(図2)。
  • 豆乳や豆腐(写真2)の加工適性は良好で、豆乳や豆腐は青臭みやえぐ味が少なく(図3)、豆乳はすっきりした味わいです。
  • 病虫害抵抗性では、モザイクウイルス抵抗性が強、紫斑病と立枯れ性病害抵抗性はいずれもやや強、シストセンチュウ抵抗性は弱です(表2)。
  • 花色が主要品種にはまれな白であり(写真3)、栽培時に他の子実収穫用品種との識別が容易です。
  • 栽培適地は東北南部で、当初の普及見込み面積は300haです。
  • 栽培上の注意点としては、リポキシゲナーゼ欠失等の子実成分の特性を損ねることのないよう、本品種単独の集団栽培を行うとともに、収穫・調整時に異品種が混入しないよう、純度管理を徹底することです。また、シストセンチュウ抵抗性が弱のため、連作やシストセンチュウ汚染圃場での栽培は避ける必要があります。
  • 「きぬさやか」の名称は、豆乳、豆腐の食感が絹のようになめらかで、また、すっきりしてさわやかな味わいであることを表現しています。
  • 本品種を原料とする大豆加工食品に関して、国内および米国での特許を取得しています。

詳細情報

図1 「きぬさやか」の系譜
図1 「きぬさやか」の系譜

表1 育成地(大仙市)における成績

写真1 「きぬさやか」の草姿と子実
写真1 「きぬさやか」の草姿と子実

図2 リポキシゲナーゼの電気泳動像(左)とグループAサポニンの薄層クロマトグラム(右)
図2 リポキシゲナーゼの電気泳動像(左)とグループAサポニンの薄層クロマトグラム(右)

写真2 「きぬさやか」の豆乳および豆腐
写真2 「きぬさやか」の豆乳および豆腐

図3 豆乳および豆腐の官能評価(輸入大豆使用の市販品と比較)
図3 豆乳および豆腐の官能評価(輸入大豆使用の市販品と比較)
東北農業研究センター委託消費者モニター(52名)による。

表2 病虫害抵抗生

写真3 「きぬさやか」の花色による識別性
写真3 「きぬさやか」の花色による識別性

用語説明

リポキシゲナーゼ
大豆の子実に含まれる酸化酵素の一つで、3種類(L-1、L-2、L-3)があります。これらがリノール酸等の不飽和脂肪酸を酸化して、青臭みの原因物質を発生させます。そのため、リポキシゲナーゼを全て欠失させることで、青臭みの原因を元から絶つことができます。リポキシゲナーゼを全て欠失した品種は、これまでに、「いちひめ」、「エルスター」(いずれも九州沖縄農業研究センター)および「すずさやか」(東北農業研究センター)が育成されています。

グループAアセチルサポニン
サポニンは植物に広く含まれる配糖体成分です。大豆では主要なサポニンとして3つのグループ(A、B、E)があります。このうちグループAサポニンによるえぐ味は微量でも感じ、なかでもグループAアセチルサポニンは強いえぐ味を呈します。東北農業研究センターでは多数の遺伝資源を調査した結果、グループAアセチルサポニンを欠失した変異体を見つけました。「きぬさやか」は、この変異体よりグループAアセチルサポニン欠失性を導入した品種です。