プレスリリース
地域資源を活用した日本短角種の肥育技術を開発

- 地域産飼料による牛肉生産と配合飼料大幅減量での牛肉生産 -

情報公開日:2005年7月21日 (木曜日)

日本短角種の牛肉を飼料自給により低コストに生産するため、1)輸入トウモロコシなどの濃厚飼料を原料とする 配合飼料の給与量の減量と2)配合飼料の代わりに地域産の濃厚飼料で肥育する方法を開発しました。この方法では、 1)配合飼料の給与量を慣行の60%程度まで減量しても、また2)配合飼料の代わりに地域産の濃厚飼料であるフス マとリンゴ絞り粕を給与しても、慣行の肥育と同等の枝肉を生産することができます。また、慣行の飼料費の70~80 %程度で済むため、地域産の濃厚飼料自給率の向上だけではなく、牛肉の低コスト生産も可能です。

背景とねらい

一般的に、肉牛は、肥育用の素牛に、濃厚飼料を原料とする配合飼料を多給する方法で肥育されます。ところが、 現在のわが国の濃厚飼料自給率はわずか10%と低いことから、農林水産省では平成27年度までに濃厚飼料自給率を 14%まで引き上げることを目標にしています。そこで、東北農業研究センターでは、主に北東北で飼育されている 日本短角種を、輸入トウモロコシなどの濃厚飼料を原料とする配合飼料に大きく依存しない方法で肥育するため、 岩手県生産技術体系「日本短角種肥育」の技術目標である650kgを目標体重とし、1)配合飼料の給与量の減量、 また2)配合飼料の代わりに地域産の濃厚飼料であるフスマとリンゴ絞り粕で肥育する方法を開発しました。

成果の内容・特徴

  • 配合飼料の給与量を慣行の約60%に減量(配合飼料減量肥育)しても(図1)、地域で自給可能な牧草サイレージを飽食させれば、日本短角種の平均的な屠畜月齢である約24か月齢で目標体重に到達 させることができます(図2)。
  • 配合飼料の代わりに、地域産の濃厚飼料であるフスマとリンゴ絞り粕を給与(地域産飼料肥育)しても (図1)、地域で自給可能な牧草サイレージを飽食させれば、約26か月齢で目標体重に到達 させることができます(図2)。
  • 枝肉の重量は慣行の肥育に比べるとわずかに少ないですが、枝肉の格付け成績は慣行の肥育と同等のA-2 等級になります(図3、写真1)。
  • 肥育に必要な飼料費は、慣行の肥育に比べて、「配合飼料減量肥育」で40千円(20%)少なく、「地域産飼料 肥育」で55千円(28%)少なくなります(図4)。
  • 枝肉1kgの生産に必要な飼料費は、慣行の肥育に比べて、「配合飼料減量肥育」で79円(16%)少なく、「地域 産飼料肥育」で117円(23%)少なくなります(図5) 。
  • 地域の安価な飼料資源を有効に活用することができるため、飼料自給率の向上および牛肉の低コスト生産が 可能です。

詳細情報

図1 肥育に必要な飼料の量
図1 肥育に必要な飼料の量
注)配合飼料以外は地域での自給が可能とした。

図2 体重の推移
図2 体重の推移
注)目標とする屠畜体重は650kg、慣行の肥育の屠畜月齢は約24カ月齢。

図3 枝肉の重量と格付け成績
図3 枝肉の重量と格付け成績
注) 枝肉は肉量( C~AでAが最高) と肉質 (1~5で5が最高) で格付け。

写真1 地域産飼料だけで生産した牛肉
写真1 地域産飼料だけで生産した牛肉
注) 枝肉の格付けが行われる第6~7肋骨間の切開面。中央の大きな筋肉は胸最長筋(リブロース)。

図4 肥育に必要な飼料費
図4 肥育に必要な飼料費
注) 飼料の価格は、配合飼料を43円/kg、フスマを30円/kg、リンゴ絞り粕を32円/kg、牧草サイレージを25円/kgとした。

図5 枝肉1kgの生産に必要な飼料費
図5 枝肉1kgの生産に必要な飼料費
注) 飼料費(円)/枝肉重量(kg)で計算。

用語の解説

日本短角種
在来種の南部牛に外国種のショートホーンを交配して作った品種。主要生産地は岩手県だが、秋田県、青森県、また北海道の一部でも生産されている。同じ和牛である黒毛和種とは異なり、濃厚飼料を多給しても霜降り牛肉にはなりにくいが、粗飼料の利用性が高く放牧にも適している。

肥育用の素牛(もとうし)
牛肉生産を目的に肥育される8カ月齢前後の子牛。日本短角種の場合、8カ月齢頃から肥育を開始し平均24カ月齢で屠畜される。肥育牛の飼養頭数は、主要産地の岩泉町で392頭(平成15年)、岩手県で1443頭(平成15年)、全国で約4182頭(平成14年)。

粗飼料、濃厚飼料、および配合飼料
飼料は、粗飼料と濃厚飼料に分類される。粗飼料は、牧草やワラなどで、栄養価は低いが牛にとって重要な繊維成分が多く含まれた飼料。濃厚飼料は、トウモロコシなどの穀類、大豆粕などの油粕類、米ヌカなどのヌカ類、トウフ粕などの食品製造粕類などで、栄養価の高い飼料。配合飼料は、複数の濃厚飼料や飼料添加物などを、その家畜にとって必要な栄養分を満たすように混合した飼料。

牧草サイレージ
粗飼料の一種。生草を発酵させて作る。漬物のようなもの。生草のままでは水分が多いため貯蔵性が低いが、サイレージにすることで貯蔵性が高まる。

フスマおよびリンゴ絞り粕
フスマは小麦を製粉する際に得られる小麦の外皮で、濃厚飼料の中ではヌカ類に分類される。本研究で用いたフスマの原料となる小麦は、北東北で生産された小麦で主に南部小麦。地域内では約1000トンの生産量があり、約500頭の日本短角種を肥育することが可能。 リンゴ絞り粕は、リンゴからリンゴジュースを製造する際に得られるもので、濃厚飼料の中では食品製造粕類に 分類される。 本研究で用いたリンゴ絞り粕の原料となるリンゴは、北東北(一部北海道)で生産されたもの。また本研究では保存性の高い乾燥品を用いた。地域内では約100トンの生産量があり、約100頭の日本短角種を肥育することが可能。

枝肉の格付け
枝肉は、屠畜後に皮、頭部、四肢、尾、および内臓を除去したもの。枝肉の価格を決定するための格付け評価では、「牛枝肉取引規格」の評価基準に照らして、歩留(枝肉中の肉の割合をC~Aの3段階で評価、最高はA等級)および肉質(霜降りの程度や肉色などを1~5の5段階で評価、最高は5等級)の等級が決められる。