プレスリリース
転換畑大豆作の安定化が期待される「有芯部分耕栽培」

情報公開日:2005年6月15日 (水曜日)

我が国では大豆の自給率向上への取り組みとともに、近年は大豆加工品の需要増大、高品質な国産大豆へのニーズの高まりに伴って、大豆の作付面積は最近10年間で約2倍に増えています。しかし、大豆の80%以上は水田から転換した畑で栽培されており、梅雨時期の湿害や真夏の乾燥害などによる生産の不安定化や収量低下が大きな課題となっています。東北農業研究センターでは、転換畑における大豆の安定生産を図るため、播種時の耕起法を改良した「有芯部分耕栽培」技術を開発しました。市販耕耘ロータリの爪の付け替えで、播種条下に不耕起部を残して耕起と播種を同時に行う、過湿や過乾の影響を受けにくい画期的な技術です。

背景とねらい

大豆作では、土壌表層の10~15cmを耕起(全層耕起)して播種を行うのが一般的です。この方式は作業がしやすいのですが、乾燥時と湿潤時の土壌水分の変動が大きく、転換畑における大豆作では生育期前半の湿害、生育期後半の乾燥害による生育抑制や収量の低下が懸念されます。そこで、播種時の耕起法を工夫することにより湿害や乾燥害を軽減して、転換畑の大豆作を安定化させるために、播種条下を不耕起として条間部の砕土で種子を被覆する「有芯部分耕栽培」の有効性について検討を行いました。

成果の内容・特徴

  • 一般栽培で用いられている市販ロータリの播種条に相当する部分の爪を外し、残った爪の一部の向きを変えて、水稲後作の転換畑で耕起と播種を同時に行うと播種条直下に不耕起部分を残した有芯部分耕栽培が可能となります(図1)。
  • 有芯部分耕栽培における不耕起部の含水率を慣行栽培の全層耕起部分と比較すると、降雨直後のような湿潤時の土壌含水率は不耕起部で相対的に低くなり、乾燥時の不耕起部の含水率は逆に高くなることから、大豆生育期間の土壌含水率の変動が小さくなります(図2)。このように、有芯部分耕栽培では、不耕起部の存在が過湿や過乾燥条件を軽減しています。
  • このような有芯部分耕栽培で栽培した大豆は、慣行の全層耕起栽培と比較して生育が促進され、開花期までの生育が旺盛になるとともに、莢の数が増加して収量が高まります(図3)。
  • 有芯部分耕栽培は市販ロータリを利用できるため低コストであり、また、耕起、施肥、播種を同時に行うことができます。特に、土壌の透水不良が問題となる水稲からの転換初年目の転換畑大豆作へ導入することにより、大豆収量の向上と安定化が期待されます。

詳細情報

図1 宥芯部分耕のロータリ爪配置(上)および耕起条件(下)

図2 耕起法と土壌含水率との関係

図3 耕起法が開花期の生育(左)および収量(右)に及ぼす影響

写真1 宥芯部分耕栽培の生育状況

用語の解説

有芯部分耕
土壌の一部を耕すことを「部分耕」と呼ぶが、このような処理は播種部分を耕してその周囲を耕さないことが多い。本研究の「部分耕」は、一般的な部分耕と異なり播種部分を耕起しないで残すということを示すために「有芯部分耕」という用語を用いている。

全層耕起
大豆作では、土壌表層の10~15cmを耕起して播種を行うのが一般的であるが、ここではこの慣行法を有芯部分耕との対比により「全層耕起」と表現している。慣行法では、播種前に耕起作業を実施しておくため、作業工程は2回となる。