プレスリリース
冷害の飼料イネも硝酸態窒素は低い

情報公開日:2004年6月10日 (木曜日)

障害型冷害によって不稔が発生した飼料イネにおいても、牛に障害を及ぼす硝酸態窒素濃度は低い水準にとどまることがわかりました。よって、冷害の被害地域で栽培された飼料イネでも硝酸塩中毒の心配なく、牛に給与できます。

背景とねらい

記録的な冷夏となった2003年に、北海道や東北地方の太平洋側で栽培されたイネに不稔が多発しました。従来から飼料イネは硝酸態窒素濃度が低く、危険濃度に達することはないとされてきましたが、障害型冷害によって不稔が発生した飼料イネにおける硝酸態窒素濃度は明らかにされていませんでした。そこで、これらの飼料イネについて、不稔率の増加や窒素の多量施用条件が硝酸態窒素濃度に及ぼす影響を明らかにし、牛への給与の可能性を検討しました。

成果の内容・特徴

  • 冷害を受けた飼料イネのうち、不稔が発生したものは硝酸態窒素濃度がやや上昇する傾向にありました。ただし、硝酸塩中毒の目安とされる2000ppm(乾物中)や妊娠牛に対して給与制限が必要とされる1000ppmと比べて、はるかに低い水準にあります(図1)。
  • 窒素を10aあたり16kg~20kgと多量施用した条件下でも、不稔率の増加による硝酸態窒素濃度の上昇はあるものの、低い水準にとどまっています(図2)。
  • 岩手県北部の冷害の被害を受けた地域の農家水田において栽培された飼料イネの硝酸態窒素濃度を調査したところ、不稔率にかかわらず、いずれも低い範囲にあることがわかりました(図3)。

図1 冷害による不稔率の増加が飼料イネの硝酸態窒素濃度に及ぼす影響
図1 冷害による不稔率の増加が飼料イネの硝酸態窒素濃度に及ぼす影響

図2 窒素多量施用条件下における飼料イネの不稔率と硝酸態窒素濃度との関係
図2 窒素多量施用条件下における飼料イネの不稔率と硝酸態窒素濃度との関係

図3 被害地域の農家圃場で栽培された飼料イネの不稔率と硝酸態窒素濃度との関係
図3 被害地域の農家圃場で栽培された飼料イネの不稔率と硝酸態窒素濃度との関係

本資料は、筑波研究学園都市記者会、農政記者クラブ、農林記者会にも配布しております。


詳細情報

用語の解説

障害型冷害
穂ばらみ期から開花期の稲は、たとえ短時間の低温に遭遇したとしても大きな障害を受けやすい。特にその障害は不稔として現れる場合が多く、このような冷害を障害型冷害とよぶ。

不稔
種子(玄米)ができないこと。籾は形成されているのに、中身が空っぽの状態。

硝酸(塩)中毒
窒素肥料や糞尿等の多用下で栽培された牧草などは、硝酸塩含量が増加する。牛などの反芻動物がこれらを多量に摂取すると、反芻胃内で微生物の作用により亜硝酸塩に還元されて蓄積する。これが吸収されて血液中に入ると、ヘモグロビンをメトヘモグロビンに変え、組織への酸素の供給が阻害される。その結果、流産や中毒死が引き起こされる。飼料(乾物)中の硝酸態窒素濃度が1000ppmを超えると流産の可能性があるため、妊娠牛では、このような飼料は乾物摂取量の50%以内に制限することが提案されている(米国メリーランド大学)、わが国では1988年に農林水産省草地試験場(現畜産草地研究所)が硝酸塩中毒を回避するために飼料乾物中の濃度を2000ppm以下にすることを提案している。

硝酸態窒素濃度
飼料中にどれだけ硝酸塩を含むかを表すには、硝酸態窒素(NO3-N)濃度として表すことが一般的であるが、時として硝酸(NO3)や硝酸ナトリウム(NaNO3)や硝酸カリウム(KNO3)濃度として表されていることがあるので比較には注意が必要。