つやつやした緑色の葉をしている「はるの輝」などのワックスレス型ナタネでは、一般的なナタネと比べて捕食性の天敵昆虫がよく働くことがわかりました。ワックスレス型ナタネの葉では、一般的なナタネと比べて、天敵昆虫であるクサカゲロウの幼虫やテントウムシの成虫は歩きやすく、害虫であるアブラムシを効率よく捕まえて食べることができます。環境保全型の農業をめざすなかで、天敵昆虫の働きやすい作物としてワックスレス型品種の利用が期待されます。
背景とねらい
植物体の表面はワックスブルーム(白いロウ状の粉の膜)で覆われており、これらは乾燥や低温などから植物を保護する役割を果たしているばかりでなく、害虫による食害からも植物を守る働きがあるとされてきました。近年、ワックスブルームがほとんどないために、つやつやした緑色をしているワックスレス型のナタネやキャベツを、畑で農薬を使わずに栽培したときに、一般的なナタネよりも害虫の被害が少なくなることがわかってきました。そこで、このつやつやナタネでなぜ害虫の被害が少なくなるのかを明らかにするため、天敵昆虫の葉面上の移動の難易の面から、研究をおこないました。
成果の内容・特徴
- アブラムシなどの天敵であるヨツボシクサカゲロウの幼虫は、垂直にしたワックスレス型ナタネ(品種:はるの輝)の葉の上を容易に歩くことができますが、一般的なナタネ(品種:トワダナタネ)では上手く歩くことができません(表1)。
- 同様に、アブラムシなどの天敵であるナナホシテントウの成虫では、逆さ(180度)にしたワックスレス型ナタネの葉に筆の先から乗り移ることができますが、一般的なナタネの葉では90度以上の角度になると乗り移ることができなくなります(図1、写真1)
- ワックスレス型ナタネでは、一般的な(従来型)ナタネと比較してヨツボシクサカゲロウの幼虫やナナホシテントウの成虫がモモアカアブラムシの幼虫を効率よく捕まえて食べることができるため、モモアカアブラムシが早く減っていきます(図2)。このことが、ワックスレス型のナタネでは畑で害虫による被害が少なくなる原因の一つであると考えられました。
- 天敵昆虫などを積極的に利用し、化学農薬のみに頼らない、環境保全型の農業技術の確立が求められるなかで、天敵昆虫を効率的に利用できる作物として、アブラナ科作物(キャベツなど)におけるワックスレス型品種の利用が期待されます。
*水平にしたナタネ葉面上にクサカゲロウ幼虫を乗せた後、ゆっくり垂直になるまで傾けたときの幼虫の移動能力を下記の通り評価した。歩行可能:連続的にスムーズに移動できる。移動可能:断続的に腹端を数回離すことでわずかに移動しうる。移動不能:脚により体を確保することができず、腹端を固定したまま移動できない。
図1 ワックスレス型品種「はるの輝」と従来型品種「トワダナタネ」における、葉の角度とナナホシテントウ成虫の乗り移り成功率(筆先から葉面に乗り移れる割合)の関係180°は葉の裏側を意味する。
写真1 ナナホシテントウの試験装置(左)と試験の様子90°の場合(右)
図2 ワックスレス型ナタネ品種「はるの輝」と従来型品種「トワダナタネ」における天敵昆虫放飼(上段:ヨツボシクサカゲロウ幼虫(2頭)、下段:ナナホシテントウ成虫(2頭))条件下での、放飼5日後のモモアカアブラムシ幼虫(60頭)の生存数
本資料は、筑波研究学園都市記者会、農政記者クラブ、農林記者会にも配布しております。