社会的背景と研究の経緯
ホモプシス根腐病は、ウリ科野菜全般に発生する土壌伝染性病害です。本病は根に病原菌が感染することで発生し、地上部が萎れたり枯死することで大きな被害につながります(写真1)。本病は抵抗性品種や台木による防除が確立されておらず、土壌消毒が唯一の防除手段であり、ウリ科野菜産地では作業負担等の面からも栽培上の深刻な問題となっています。
一方、ウリ科野菜産地での発生実態を調査する中で、被害が未確認でも病原菌が既に侵入している圃場が多数見つかりました。このような圃場を早期に発見して、対策を講じることが被害拡大を防止するうえで重要です。
そこで、圃場からの病原菌の検出技術と、発症圃場における被害を緩和する栽培管理技術、従来の土壌消毒より取り組みやすい土壌管理技術を組み合わせた総合防除技術体系の開発に取り組みました。
研究の内容・意義
- 公表したマニュアルでは、被害発生前からの対策を体系化して示しています(図1)。本病の発生のおそれのある地域では、被害が未確認の圃場でも病原菌の侵入を警戒することが重要です。本マニュアルでは、多数の圃場を迅速に検査するための遺伝子検査法と、少数圃場を簡易に検査するための生物検定法を提示しています。これらの検定法を用いて、調査対象となる圃場数に応じた効率的な診断を行います。
- 病原菌を検出した圃場では、カボチャ台キュウリ栽培を対象に、ウリ科植物を利用した指標植物法3)による病害発生の早期検出法や、整枝管理手法4)(写真2)を利用した被害緩和技術を利用して被害を最小限に抑えます。被害が小発生の汚染圃場では、コスト・作業負担の面で薬剤による土壌消毒に取り組みにくい問題があります。そこで新たに転炉スラグ資材5)を用いた土壌pH改良(写真3)による被害緩和技術を開発し、病害発生の程度に応じた対策を提示しています。
- これらの技術を組み合わせた被害発生前からの対策を、「ウリ科野菜ホモプシス根腐病被害回避マニュアル」として取りまとめました。この中には、個別の圃場診断、被害緩和技術の利用方法や適用場面に加え、防除体系の実践例を記載しています。
- 本マニュアルを参考とすることで、ウリ科野菜産地で普及指導機関の担当者が本病の発生を未然に防ぐことが可能になると期待されます。
今後の予定
生産現場における本病の啓発・予防的な取り組みが促されるよう、生産者向けのダイジェスト版(パンフレット)を作成する予定です。また、本病が未確認の地域や、既に発生している地域でもまだ被害が生じていない圃場の生産者に対し、普及・啓発活動を実施していく予定です。
用語の解説
1)ウリ科野菜
キュウリ、メロン、スイカ、カボチャなどです。中でも、キュウリ、メロン、スイカは東北地域における野菜の産出額の約20%を占めています。
2)ホモプシス根腐病
土壌中の糸状菌(カビ)の一種、ホモプシス・スクレロチオイデスがウリ科野菜の根に感染して生じる土壌伝染性の病害です。東北地域ではこれまでにキュウリとメロンで発生しています。
3)指標植物法
カボチャ台キュウリの栽培中に茎葉部の萎れの発生を予測するため、本病に対して感受性が高い自根(じこん)(接ぎ木をしていない)のキュウリやメロン(指標植物)を用いる方法。カボチャ台キュウリと同時に圃場に定植すると指標植物は早期に萎れます。
4)整枝管理手法
カボチャ台キュウリの栽培中に、茎葉部のせん定を停止することで、萎れの発症を緩和する手法です。
5)転炉スラグ資材
製鉄過程で生じる副産物(転炉スラグ)を加工して土壌改良資材としたものです。土壌pHを高く改良しても、マンガン、ホウ素などの微量要素欠乏が生じにくい特性があります。