新品種育成の背景・経緯
近年、製粉技術等の発達により米粉パンの製造販売が行われるようになるとともに、製粉時の損傷デンプンの割合が少ないことなど、米粉パンに必要とされる品質特性も徐々に明らかになっています。そこで、米粉パンに適した特性を備えた米粉パン用の新品種「ゆめふわり」を育成しました。
「ゆめふわり」の特徴
- 「ゆめふわり」の米粉は「あきたこまち」や低アミロース米の「スノーパール」の米粉より粒径が小さく、損傷デンプンの割合が少ない粉です。粒度分布は「あきたこまち」「スノーパール」と異なり、粒径が小さく狭い範囲に分布しています。小麦粉70%・米粉30%に6%のグルテン3)を添加した米粉混成パンの膨らみ(比容積4))はやや優れます(図1)。
- 「ゆめふわり」のロール製粉5)米粉を原料にした小麦粉70%・米粉30%に6%のグルテンを添加した米粉混成パンは「あきたこまち」湿式気流製粉6)米粉を原料にしたものと比較し、「やわらかく」「しっとり」「もっちり」とした食感があり、良食味です(図2)。
- 出穂期、成熟期、玄米千粒重、精玄米重は「あきたこまち」と同程度で、稈長は「あきたこまち」より短く、倒れにくい品種です(表1)。
- 玄米はやや円形で粒厚が厚く、アミロース含有率が低いため、もちのような白さです(表1,図3)。
- 耐冷性が弱いため、冷害常発地帯での栽培は避けてください。
品種の名前の由来
今までにないしっとり、ふんわりとした柔らかさを持つ、夢のような米粉パンができることから、「ゆめふわり」と命名されました。多くの人においしい米粉パンを提供できるように、との願いがこめられています。
今後の予定・期待
平成26年に米粉混成パンの販売が計画されています。現在、秋田県の一部産地で試験栽培が行われています。今後、米粉利用の普及に貢献することが期待されます。
種子の入手に関するお問い合わせ先
農研機構東北農業研究センター 企画管理部 業務推進室 運営チーム
Tel:019-643-3443 Fax:019-641-7794
利用許諾契約に関するお問い合わせ先
農研機構 連携普及部 知財・連携調整課 種苗係
Tel:029-838-7390 Fax:029-838-8905
用語の解説
1)損傷デンプン
製粉時に圧力・熱などの物理的な力が加わることによって、穀物中のデンプン粒が損傷したものです。デンプンが損傷すると吸水性や酵素感受性が高まります。そのため、損傷デンプンの割合がパンの品質等に影響を及ぼします。
通常の米を製粉すると、粒径は小さいが損傷デンプンの割合は多い米粉もしくは損傷デンプンの割合は少ないが粒径は大きい米粉になってしまいますが、「ゆめふわり」は改良されて、粒径が小さく、損傷デンプンの割合が少ない米粉になります。
2)米粉混成パン
小麦粉に、米粉を1~5割程度混合して作るパンです。米粉の割合が多い場合は、グルテンを添加することがあります。
3)グルテン
グルテンは、小麦などの穀物の胚乳に含まれるタンパク質の一種です。パン生地などが発酵した時に気泡が残るのはグルテンの働きによるものです。小麦粉はタンパク質の性質と含有量により強力粉、中力粉、薄力粉に分けられます。製パンなどの用途ではタンパク質を多く含む強力粉が使われます。
4)比容積
単位質量の物質が占める容積のこと。膨らみ(ふわふわ感)を評価します。
5)ロール製粉、6)湿式気流製粉
米粉は「気流粉砕機(ジェットミル)」や「ロール粉砕機」など様々な粉砕機で製粉する方法がありますが、パン用米粉の製造には、米を一度水に浸してから気流粉砕機で製粉する「湿式気流製粉」が一般的です。この方法は、損傷デンプンを軽減できますが、米粉の乾燥や製粉機などに高いコストがかかります。
「ロール粉砕」は大量生産に適する粉砕方法であり、低コストで製粉できますが、デンプンの損傷は多くなります。